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薄情

   共倒れだ。  同時といってもいいぐらいのイキかたにテッちゃんと飯塚先輩は乱れた制服や白衣、息もままならないでいる。  疲れ切ったのか飯塚先輩はもう四つん這いではなく体を倒しているが表情はどこかトロけてて、満更でもない様子。涙を流しまくりで目が赤くなっており、これは明日にでも腫れてるんだろうな、と予想しとく。  テッちゃんは、なんとか体を支えてジッとしている。  うんうん、録画終了。 「はーい、お疲れ様でした。とくに飯塚先輩、気持ち良かったね?」  小型画面をパタ、と閉じてよりコンパクトになったカメラを片手に先輩の前髪をかき分ける。  汗と涙で多少濡れた髪の毛はやっぱり触り心地が良くて個人的にハマりそうだ。 「でもテッちゃん、ゴムくらい付けてくださいよ」 「あ……わりぃ、つい」  対してテッちゃんには冷ややかな表情に軽蔑するかのような目で注意。  中に出さなかったぶんだけ良かったと思うべきか。 「ちょっと待ってろ、飯塚」  そばに置いてあった乾いたタオルでテッちゃんは軽く自身を拭き取りスーツのズボンを穿き直しては、一旦カーテンの仕切りを通り抜けた。  その空間は、俺と飯塚先輩だけだ。 「頑張りましたね、センパイ」 「ん……」  まだ髪の毛を撫で触る俺に嫌がらずも小さく返事をしてくれた。 「これで、俺達は恋人になりますね」 「……」 「なにも反応ないとか」  ははっ、と笑って飯塚先輩の頬にキスをしておく。  保健室内にある水道をテッちゃんは使っているのか水の流し音が聞こえる。後処理などの用意でもしてくれているんだろう。 「センパイ、可愛かったよ」 「……」  虚ろな目。ジッと見られているのは変わりない。 「俺の妄想に付き合ってくれてありがとね。でもそんなの見てたらさ、」 「……」  すく、と立ち上がる俺に飯塚先輩の黒目だけが動く。  一生懸命、俺を追いかけていこうとする目がおかしいほどイイと感じるのは、先ほどまで生セックスを見ていたからだろうか。 「俺も勃っちゃったんだよね」 「……」  これも、そのせいか。  室内にいるテッちゃんには聞こえないように。だけど飯塚先輩の耳にはちゃんと聞こえるように、そして見せつけるかのように張った下半身をアピール。  勃ったものはしかたないだろ?  でも、だからといって飯塚先輩になにかシてもらおうだなんて思っていない。  テッちゃんとのセックスで慣れない責め方をされて、そんでもって俺のも抜けだなんて……そういうのはまた今度、慣れてからヤってもらうから。  今はこれ以上なにも言わない。 「飯塚先輩、もしかして眠いですか?」  閉じそうで閉じない目。うつらうつらと彷徨うように瞬く飯塚先輩。泣き過ぎて赤くなった目を、まぶたを優しく撫でると完全に閉じてしまった。 「放課後だけど、30分経ったら起こしますので」  寝てても構いませんよ。  そう付け足して言えば、なにも返事をしない――友樹。  落ちるように眠りに入ったか。 「おーい、飯塚ケツ上げ――「テッちゃんうるさい」 「え。てかお前またカメラ……」  完全に寝に入った友樹の顔をなんとなく録画していたら準備の整ったテッちゃんが戻ってきた。  そんなテッちゃんは撮らず、顔だけを動かしてその表情を見ていると“呆れ”の他になにがあるのか、と聞きたいぐらいのものだった。  このビデオカメラについてなのか、そもそもハメ撮りについてなのか。  教える気にもならない俺はテッちゃんの表情も気付かぬフリをした。 「友樹は今寝てるから静かにお願いします。処理も起こさないように丁寧に、そして綺麗にな」 「友樹って――はぁ……つーか飯塚のココ、そんなに使ってねぇだろ。せいぜい一回か二回か?」  溜め息交じりで指差したのは、友樹の尻。もっと言えばその穴だろう。  すげぇなテッちゃん。やっぱりあんたはこの世界のプロだよ!  バッサリ当てた回数に俺は無のまま『ゴールデンウィークに処女ゲットした』と答える。そしたらまた溜め息が聞こえた。しかもさっきより大きく吐いたもので俺に不愉快な気持ちを抱かせる。 「まっ、言いたい事はわかるけど?そんな目で俺を見ないでぇ!」  お茶らけたフリで語尾には音符マークがついていそうな口調。  しょうがなく友樹の寝顔から呆れ顔をするテッちゃんにカメラを回してみるが、変わらず俺を鋭い目付きで見ている。  画面越しからでも思うのは、やっぱ怖ぇなぁ、という他人事。  ゴムなしで挿入した事について注意した俺に対して、わずか二回しかヤったことのない友樹の扱いにテッちゃんは怒っているのかもしれない。 「木下、さっきの話を聞く限りこいつはお前の事が好きらしいけど?」  優しく友樹の体を拭きあげるテッちゃん。 「あぁ、そうですよ。告られました」 「んなストレートに返さなくても……可哀想だろ、飯塚が」 「でも不思議な事に、ハメ撮り条件について飲み込んだんですよ」  そろそろ飽きてきたテッちゃんの顔にまたもやカメラを友樹の寝顔をおさめる。安定した寝息を立てる友樹の頬をむにゅっと軽くつまむ。 「もちろん最初は食い違いでしたよ。俺の恋愛対象は女であって男は対象外ですからね。でも見る側に回るとしたら話は違う。すっげぇ見てぇの。あそことそこの男がキャッキャッうふふっなんてものを!理想は結構あって、この学校にはその理想が詰め込まれています。が、バカでかいここでもその理想になかなか出会わないタイプもある。それが一理として教師×(かける)なにか、という組み合わせ。それと、不良総受け。――友樹には俺の腐り量産型者になってもらおうかと思って、」  そこまで言ってテッちゃんが割り込んできた。 『人間は機械じゃないぞ』って。  わかってるっつの。というか、そうじゃない。俺が言いたいのは、そうであって、そうじゃないんだよ。  説教したいならすればいい。テッちゃんなら大歓迎で受けてあげるからさ!  でも、俺の想いも無視しないでくれないか?  ジーッと小型画面に映る友樹の寝顔。つまんでいた頬は、撫でるものに変わっている。  起きてる時は強面で近寄り難いオーラを出しているはずなのに、寝てる友樹は実に可愛らしい表情だ。変に眉間にシワを寄せていないし、あどけないものに見える。  さっきまでアンアンとヨガっていた子だなんて思えないなぁ。  頬を撫でる手は、次に触り心地の良い黒髪へ。 「まぁ、なに。友樹ってば自分の良い方に解釈する人なんですかね?ハメ撮りの件を口にしたあと、誰とヤれば俺と付き合えるんだ、なんて勘違い方向に進んじゃいましてね。けど、それでもいいから俺も頷いちゃって――こうなりましたっ!」 「お前なあ……頭痛ぇよ」 「ふははっ、頭痛薬出しましょーか?」  友樹の寝顔、録画終了。 「なんか……今の腐った餓鬼はわかんねぇな」  友樹を綺麗にしてくれたテッちゃんは最後に制服も着せてくれて、タバコを銜えた。  だからここは禁煙だってば。 「腐った餓鬼とかもう俺を指して聞こえますぅ」 「そうなんだよ、お前のことだっつの……本当に、飯塚は可哀想だ」  なんて素晴らしい棚上げだ。さっきまで友樹のナカに突いてたくせに!  持っていたカメラを一度離して整った友樹の顔を撫でまくる俺。30分、経ったか経ってないか、どうか。 「とーもーきー。おーはー」 「んっ……」  テッちゃんの目の前で、友樹の耳元に口を寄せて囁きかけるように起こす。  吐息交じりで最後、狙うように耳へチュッとキスしてみれば敏感な友樹はさっそく反応するんだ。 「友樹ともき、起きてください。寮に戻りましょう」 「きのした……」  脳って15分経ったら寝るモードに入るらしいな。15分経っちゃったけどしょうがない。 「……で、木下。飯塚と付き合うんだな?」  俺の行動を一部始終見ていたテッちゃん。変わらずタバコを吹かしながら質問をしてきた。 「そうですね、そういった“約束”なので」  とりあえず場の和みとして微笑んだその答えと、それに続き顔を顰めたテッちゃんと、横から感じる友樹の視線に思わず遮断しようかと思った。  時間が欲しい、けど、楽しみたい。  そういった葛藤をみんなはわかってくれるだろうか。  

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