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緊急事態その2で要約
――セックスとエッチ、響きがいいのは果たしてどっちなのか。
受けが目に涙を溜めながら『えっちぃ……』とか言っちゃったらもう攻めは発狂ものなんだろうな。でもそれだと女々し過ぎてもうはや心の男の娘だ。
“セックスしたい”と“エッチしたい”もしくは平仮名で“えっちしたい”か……んー、迷いどころだ。
〝ハッ、あっあっ……!ちょっと、まッ!あァッ〟
〝やぇて……ッ、あぅ、ハァっ……!〟
〝んぁ、うっンん!ひゃ、だ……!イっちゃ、ぅ!〟
左耳のみイヤホンをつけて今日撮ったデータをパソコンに移しては再生。今の時間は23時過ぎで、どっちかというともう0時をさしそうなもの。
飯塚先輩、改め、友樹を起こしたあとなんとなく俺の部屋に招いてしまった。
自然と手を繋いで、テッちゃんに『ばいばーい!』と呑気に手を振りながら黙り込む友樹を横目に歩き出す。寮について、じゃあ三学年用の寮へ……なんて思っていたけどギュッと握られる手を見たらなんか惜しくて。
つい連れて来ちゃいました、っていうオチ。
別になにかを想って招いたんじゃない。
二回目の訪問で少し戸惑いを見せた友樹に『風呂に入りたかったら入ってもいいですし寝たかったら俺のベッドで寝てもいいですよ』と声を掛けて、俺は定位置の椅子に座りノートパソコンを起動。
あっさりな態度が気に入らなかったのか、それとも気にしなかったのか、わからないが数秒止まっていた友樹は遠慮なく寝室に向かって、最後にドアが閉まる音を耳にした。……それが夕方の話であって、今も俺の寝室にいる友樹。
物音ひとつしなければ全く出てくる気配なし。
少し不気味に思うが今日はテッちゃんとヤっちゃったから疲れているんだろう、と前向きな考えでビデオカメラをパソコンと繋ぎ、充電とともにデータ移動作業してた、ってわけ。
んー、そろそろ友樹くんの様子でも見に行った方がいいかなー?
なんて座りっぱなしだった俺は椅子から立ち上がり、軽いストレッチをしたあとに寝室へ向かう。
特待生枠の俺は一人部屋を確保。
やっぱり一人部屋ってものはいいよな。一人部屋を与えられた歳を考えれば周りからするとかなりはやい方だと思うが、それのせいでもあるんだろう。
たぶんだが、二人組三人組の部屋に移されたら俺は耐えられないと思うんだ。だから学年上がる来年のためにも成績維持しとかないとさ。
「……すげぇ」
ノックなしでそーっとドアを開けて見るとベッドに丸くなりながら静かに寝息を立てる友樹の姿。
まだ寝てるよ。いや、いつ寝たかは知らないけどよくトイレも行かずにずっといられるよな……。まぁ、ちゃんと寝れてるなら、いいんだけど。
と、そこまで考えて俺は明日休みだし夜更かししようと、またドアを閉めた。
再生中であった動画にまたイヤホンを片耳につけてカチッとマウスをクリックしてから始まる友樹の乱れ。いつ見ても、いつ読んでもお腐り動画や漫画は俺の宝物だ。
そんな至福の時に――コンコン、と玄関側の扉からノックが聞こえてきた。……おかしい。
こんな時間にノックとかおかし過ぎる。あ、もしかして友樹の件とか?
無断で誰かの部屋に泊まるのは校則違反だもんな。んー……でも俺と友樹が接点あるって知ってる奴、いなくないか?
あれこれいろいろと考えながら見つめる玄関先。
とりあえずイヤホンを取って、再生していたプレイヤーを閉じ、持っていた漫画を隅に寄せて立ち上がる。
出るだけ出ようか。
少なくとも高等部の誰かだろうし、なにか被害に遭うわけでもないはずだから。面倒だったら追い出そう。
――ドンドン。
近付く玄関に、もう一度ノックの音が聞こえた。しかもさっきより荒い。ノックというより叩いてる感じだ。
誰だ、殴るぞ。
そう思いながら気分の悪い顔でドアを開けるとそこにいたのは、
「……おい、木下」
「中沢……?」
薄暗い廊下に俺の部屋から微かに漏れる光で見えた、あの中沢 智志だった。
そこで俺の表情は驚きのものに変わったのが自分でもよくわかった。まさかの訪問者がこんな時間に、俺とお互い変に遠慮していた中沢だったから。
むしろ部屋の番号を知っていたとは驚きだ。が、今この部屋の奥には友樹が寝ている。起きてきて友樹と中沢が会ってしまったらどう思うか……そもそも俺のイメージが中沢の中で変わるんじゃないか?
中沢は俺が腐ってんの知ってるし、それでこいつも実はホモだったのかーって思われても、ちょっと。
「中沢、どうした。珍しいにもほどがあるぞ?」
というか、気のせいか?
中沢が微かに体を震わせているような気が……。
「木下……ちょっとでいいから、入れてくれ……」
「お、おう……」
よくわからない空気に押されながらも友樹がいるっていうのに俺は中沢を部屋に入れてしまった。
明るいリビングに通して顔色を見てみると、真っ赤だ。いったいなんだっていうんだ?
さっきまで座っていた椅子に座り、中沢は床に座り込んだ。正直、松村を挟んで中沢と喋っていたから二人きりになると……どうなるんだろうな?
開いていたノートパソコンはスリープモードに切り替えて閉じ、頬杖をつきながら中沢へ目をやる。
「つーか松村は?」
何気なく聞いた中沢の同室相手。
俺になにか期待してるような顔に、俺じゃなくて松村がいいんじゃないの?と思っていると、可哀想な事に中沢は白けた目で『あいつ部屋移動した』と一言。
――だから可哀想だって言っただろうが……。
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