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緊急事態その2で要約

   中沢の話はこうだった。  同室者だった松村に『俺、明日この部屋出て行くから』と言われて急なお別れ会を二人でした後、明日と言っていたにもかかわらずその日の夜に荷物を持って出て行ったらしい。  中沢もそこは気にせず良い笑顔で送って、さぁ一人になったぞ、と思いながら好きなゲームを始めたとか。  それからゲームをやりすぎていつの間にか寝落ちに入った中沢は目を覚ましたらびっくり。我が校の王子様こと王司 雅也が中沢の部屋にいたらしい。  松村と別れた後ちゃんと鍵をかけたはずなのに、王司が次の同室者で入って来たとか。  それでいてもうホモはせっかち、とか言われてるけど、ほんとそれな。 「お、おうじに、キスされた……」  なんと。  あの王子様とこの平凡くんの。  胸が躍るような展開になっていた。 「木下、顔」 「おっ、と」  それを聞いて俺は一気に態度を変えた。なるべく浮かべずにしていたが、締まらない頬は隠せていないらしい。  比べて中沢は暗い顔。黒歴史だ黒歴史だと騒ぎ込んでいる。それでいてほぼ中沢と二人きりが初めてにもかかわらずマシンガントークがハンパなかった。  それほど嫌だったのか……まぁ、嫌かもしれないな。  この学校内で唯一のノーマル仲間としてでも見ていた中沢。気持ちはわからなくもない。まさかのファーストキス相手が男とか、な。  悲しいな……。  だけど、それが親衛隊含む者達が聞いてみろ!  嫉妬で口では言えないような事が始まるぞ……?――まっ、中沢には全く縁のない話だけどな。  その、陰湿的なこと。こいつは守られてるからさー。 「あー……もうダメだ。平三がいけないんだ……」 「あぁ、そうだな。全ては松村のせいだわ」  なんとなく話を合わせながらも手に持っているのはBL漫画。もちろん興奮はしているさ。だけど、今ここで騒ぐわけにはいかないんだ。  友樹の存在もあるし、起きてきたら……と、そこまで考えてしまう。  理由は二つ。  ひとつは、俺であるからという理由。  もうひとつは、そんな俺である本来の姿を見せたくないから、という理由。  とくに中沢と松村には。  この二人はすげぇいい奴だから、そのままでいてほしいというか……結局、友達として好きだと思っている俺は感化されかかっているのかもしれない。  ハメ撮りしてます、とか絶対に言えないだろ。 「んんんんっ!いくら擦っても感触残るんだけど……!」 「んー」  でもさすがに、嫌だったからって、明け方までこの部屋にいるとは思わねぇじゃん……。  だから注意をしといた。というか、あまりにも中沢は知らないことが多過ぎると。開いた口が塞がらない、なんてこういうのかもしれない。  驚いて口が塞がらない、なんて意味で使う奴もいるがそれは違うからな。もうなんつーの……バカバカしくなったというか……。  松村もそりゃ心配するよなぁ、なんてどこかで思いながら王司 雅也という人物を説明する俺。  ちゃんと聞いてくれてるのかわからないが一瞬、悩む素振りを見せながらも急に『あ、なんか俺平気かも』とか言っちゃうし。  王子様は王子様でもバリタチ王子様であって、キスされたならそれはもう完全に王司は中沢 智志という人物をロックオン状態だって気付かねぇの? 「まぁなんだ、気を付けろよ。別に中沢がホモになっても構わないが……」  読んでいた漫画から中沢に目をやる。もう俺の中で構成されてる妄想プラン。松村×中沢はオイシイから。あの距離感がおかしいから俺ちょー好きなんだ。  え? どんな距離感って?  そりゃもう一般人からしたら引くようなくっつき?  共学でやったら悲鳴だらけになるような?  あー、もう俺眠いんだけど。 「大丈夫だって、俺を抱くとかないないない」  欠伸を噛み締めていると、中沢はなにかに納得したような頷きで立ち上がり、俺の部屋から出て行けば早朝にもかかわらずバカでかい声で『じゃーなぁ』と言って出て行ってしまった。  危ない気もするが、楽しみであるこの先に俺はやっぱりラッキーマンなのかもしれない。  要はあの二人をくっつけさせちゃえばいいんだろ?  俺の頭の中で!  ということで、中沢のフラグはまた聞いてやろうか。      

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