21 / 114

ここで同類を紹介しよう

   中間テストか……中沢や松村になぜか強く恨まれる時期が来てしまった。まあでも、俺が悩む必要はないな。テッちゃんもこれが終わればあっちこっちの野郎を抱き放題だな。  二度目の訪問であった友樹も俺が起きた頃にはもうすでにいなくなってて、案外付き合う形になると冷たくなるタイプなのかもしれない、と思いながらリビングに向かった。  そこで目にしたのはノートパソコンの近くに置いていたビデオカメラが床に落ちていたってこと。誰がやったかなんて一目でわかるものに、ひやっとしながらカメラの周りを確認した。  とくに目立った傷もなく、映像の乱れや音声も変わりなくクリア。ただ、落ちていただけでどこも壊されていないカメラにホッと息をつく。  パソコンの方も確認してみたかったが削除されたところでなにも意味がないのをわかっていたから見ていない。だってUSBメモリにも移して鍵付きの引き出しに入れといたし。  そのぐらいのやり方はするさ。付き合える形でおさまると思っていたのは事実でも、手出しがはやいところは変わらずだからな。  なにを仕出かすか全くわからない友樹の行動に悩む。中間テストより悩むものだ。  いいや、いいんだけどな。いいんだけど……。 「木下ぁ?お前なにそのカメラ」  中庭のベンチに座っていた俺に突然、バッと持っていたカメラの画面に映ったある顔。 「っ……急に来るのは驚くだろ、磯部(いそべ)」 「あ、そう?悪い悪い」  そのある顔とは磯部という男。中学の入学式に迷子になった、と俺に助けを求めてきて一緒に教室へ向かったバカだ。  ベンチに座る俺の隣に足を組みながら座ってきた磯部。  バカはバカでも憎めなくて時に困るものもある。  自慢にもならない成績表を見せられた時、俺はどんな反応をすればいいかわからずにいた。……常に学年で300位キープする男とか見たことねぇから。 「つーかなにしてんの?いつもの二人は?」  きょろきょろと辺りを見渡す磯部。 「んー、今はいないけどー」 「へぇ。というか、さっ!」  勉強は出来なくてもノリのいい性格にクラスのムードメーカー的な存在の男になっている。ルックスあれこれじゃないこいつに良し悪し関係なく人気者だ。 「あれ!……どーよ」  磯部が指差す場所に俺はカメラを向けて右ダイヤルを回した。  小型画面に映されたもの――それは。 「あれって一年コンビだろ?ありじゃね?ありだよな!?」 「……ふっ、ありに決まってるだろ」  所詮、可愛い系とワイルド系の男二人が異常に近い距離を保たせたもの。――磯部も俺と同じ、腐った頭で生活している。  お互いがお互い公表したわけじゃない。  ただ、あの時その場でビビッと感じたアクションに二人して同じところを目にしたから。  アクションとは、その先にいたイチャコラしちゃってる男二人のアクションで……それから手を取り合って一日中語ったもんだ。  さすがに俺がこの学校へ来た理由についてこいつは驚いてたみたいだが、それでも見たいものは見たいホモ事情の情事にガッツポーズ。 「最近の俺は可愛い子が攻めっていうのが流行っててさ!」 「磯部の流行りが遅いんだけど」  録画もなにもしていないカメラはまだあの一年コンビを撮り続ける。 「んなっ……!俺は遅れてねぇよ!」 「ハッ、じゃあ不良受けはどうよ」 「あぁ……攻めは?」  無のままに撮り続ける。撮り続けていたら、グッと縮まった一年コンビの距離に思わず録画ボタンを押してしまいつつ、磯部に返事をした。 「攻めというか、総受けというか――あ」 「総受けかぁ――あ?」  俺の反応で流れるように持っていたカメラを覗く磯部。 「そして照れあう二人か……」 「ふぉぉぉぉ……!一年コンビ可愛いなぁ……!ちゅーした!チュー!」  俺の録画タイミングも神センス!  今後いい事が起きるかもしれないな。 「やっぱさぁ、感化されちゃうもんなのかね?」  消えていく一年コンビに少しだけ肩を落としながら録画を終了させてカメラについている小型画面を閉じる。頭の後ろに手を組み、晴れ晴れとした空を見上げながら磯部は小さな声でなにかを言った。  そこで首を傾げる俺は『なにが?おホモ?』と冗談で返すと――。 「そー。だって冷静に考えれば女を好きになるはずだろ?心の問題ならどうにも出来ねぇけどさ」 「あー……」  意外と真面目なものだった。  俺はノーマルだと言い続けている。実際、友樹の件が訪れるまで女の子とたまーに遊んでいたわけだし。性欲処理、なんて言ったら酷い言い様に聞こえるが、女が犯されるAVや遊んでた子で十分にスッキリさせていた。  それが、それがだ――急な同性からの告白とともに受け入れるための勢いアナルセックスをしました……とか、言えるはずがない。  感化なんてされてないし、仮に感化されてると言われるなら、それは友情面での感情だろうよ。あ、少なくとも友情ものの感化であっても磯部はないけどな。  さすがにうるさ過ぎるこいつとニコイチッ!なんて出来るはずがない。  3組の俺に対して9組の磯部。二学年の教室は三階と四階にわかれている。  1組から4組までが三階で5組から9組は四階にある構造だ。だからわざわざ階段を上ってまで会いに行き、好きなものを語るなんてないしな。  つまり、友樹の関係も、言わず。 「こう、なんつーの?ちょっと興味湧かね?」 「……」 「男の唇とかさー」 「……」  グッと力入る、カメラを持つ、手。 「まぁ体が硬いのは重々承知だからー……変な話さ、」  喋り続ける磯部に、聞き入る俺。  そんな俺にどう思ったのか、気まずそうな空気を醸し出し始めた。 「いや……やっぱいいわ。んー、それにしてもさっきの可愛かったなぁ!あ、そうだ、さっき録画してたろ?見たい!」  いつもの磯部に戻るのも、空気までいつものに変えてきたバカ。 「お前ほんとベストタイミングを盗撮したなー!」 「んー……」  ここは、どうなんだろうか。  俺の友達×不良くん、なんて。需要は、果たして、あるのか――。  

ともだちにシェアしよう!