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ここで同類を紹介しよう

  「なに、気になるの?」 「え……ん?木下?」  頭の中で想像してみた。俺の友達である磯部の好奇心に手を伸ばそうと。  友樹を相手に磯部のノリについていくなんて、とは思うが俺の中で良いと思えるジャンルが芽生えそうだから。  持っていたビデオカメラを再び起動させて、無理矢理いつもの磯部を出してきた空元気姿を撮りはじめる。 「だから、男同士のセックスが気になるか?って聞いてんの。ついに二次元でも我慢出来なくなったか?って」  座っていたベンチから立ち上がり、見下すように撮る磯部の反応はこれこそ素人だ。 「……それ、撮ってんの?」  苦笑な顔を浮かべる磯部。  どこか焦っているようにも見えるなァ。 「そうだねー。録画開始はしてるかなー」 「口調……どうした?」 「んな怖がるなって。俺の質問に答えてみな」  そう言って今度は同じ目線になるようにカメラの位置を腹部辺りまで下げて、小型画面をクイッと上に向かせる。  これなら俺自身がしゃがまなくても対面式で座るような感覚に撮れるし、俺から見る磯部の表情も見やすくなる。  画面越しの磯部は目を泳がせていた。なにもそこまで反応しなくてもよくないか?  それともあれか、自分もノーマルと言い張っていたにもかかわらず興味が出始めて、その気持ちに疑い、戸惑ってる時期なのか?  なのに同種の俺に口を滑らせちゃって、カメラで撮られてることに、怖がってる? 「大丈夫だって、磯部。俺は男に興味持ち始めてるお前を気持ち悪いだなんて思わないぞ?」 「……っ」  画面越しに映る磯部の体が大きく揺れた。図星か。  そういえば、俺ってばこいつにナマモノでもイケるってのは伝えてないもんな。  さっきの問いとかも『ついに二次元でも――』と口にしたから、受け取り方によっては本当の男にそんな気持ちを抱き始めてるかもしれない自分が友人からしたら気持ち悪がられるかもしれない、なんて不安が出てきてもしょうがないか。  俺、地雷とかほとんどねーから。 「磯部さえ良ければ、体験してあげなくもない」 「……ちょっと、待てよ」 「でも、それが出来る相手は俺の中で一人だけなんだ」  画面越しに笑みをかける俺。  磯部からしたら俺は俯きに近い角度だからちゃんと見えてるかはわからないけどな。 「それでもいいっていうなら、本当にヤらせてあげてもいいぞ?」 「……」  固まる磯部。  画面越しで俺と目が合っていたはずが今では画面越しと合わず、少し上向きに目がいっていたような気がした。  それはたぶん、カメラのさらに上にある俺の顔を見ているからそういう方向に目線がいってるんだろう。 「どっちがいいのかなー?挿入する側?される側?」 「いや、ほんと……え?」 「ほらほらー」  俺の煽り、とまではいかない誘いなんてお前は耐えることなんて出来ないはずだ。だって最初からちょろかったし。  少し口を震わせながら『挿入、する、がわ……』と答えたからな! 「で、でもさ木下、もしかしてお前もソッチに興味あったり?」  相手が撮れた画に鼻歌してしまいそうな俺のテンションは上がり切っている。  俺の友達と、俺の付き合ってる奴がヤるわけだ。けど、3Pでもなんでもない。きっと普通のものになるだろうな。  テッちゃんとは違ってどこの開発を頼んだわけでもないし、磯部がなにかテクニックを持っているわけでもないから。  アナル童貞があたふたするような磯部が撮れるだけで今回は友樹からしたらなんの得にもならないかもしれない。 「別に。男に興味があったわけではない。ただまぁ、いるだけだ」  非道ではない。  磯部に『俺の付き合ってる奴がお前の相手をしてくれるんだ』なんて言ったら逃げられちゃうかもしれないだろ?  テッちゃんみたいに途中からバレる展開ならまだ望みはあるものの、最初からのネタばらしはキツい。 「ふーん……?」  納得してなさそうな磯部。  大丈夫だって、彼氏という形の飯塚 友樹はすっげぇ可愛いから。 「あ、でもさ、磯部」  ずーっと回ってるカメラに磯部はもうどうでもいいみたいな感じで気になっていないらしい。が、俺からしたらここからが本番みたいなものでだから相手を口説くより緊張するな。 「二つ、わかっててほしいことがある」 「ん?おう、なに?」  これからデキちゃう先にワクワクでもしているのか少し余裕が見える磯部へ。 ――ひとつ、相手が三年の飯塚先輩ということ。 ――もうひとつ、このカメラで磯部達を撮り続けてるけどいいか、ってこと。 「飯塚先輩にかんしては、まぁ……あり得なくもないことだから言うけど、怖くなっても最後までぶっ通してほしい。カメラについてはもう最初から察してくれよ」  録画を始めてから画面越しでしか磯部を見ていなかったのを、ここで初めて顔を上げて視線を交わす。  やっぱ映し出されたものより、本物の方がオーラが伝わるというか……見開いたその目の黒い部分がやけに小さく見えてた気がするよ。  けど、やっぱり最初からこいつはちょろい。 「……相手については、すげぇ驚いてるわ」 「へー。じゃあカメラは?」 「……意味がわかんねぇけど、おっけー」  もうこっちからしたら、交渉成立ブイサインって感じだな。  ビデオカメラについても、磯部の興味で相手にする飯塚 友樹の事も、時間も場所も教えてやった。  中間テスト目前にして頭がバカでも300位という順位から上にも下にもいかないキープを果たしているこいつからしたら、テスト勉強というものをしなくてもいいらしい。  俺も俺でいつものようにテスト範囲の教科書やノートをパラ読みすればだいたい変わらずでいけるから、今回は俺も勉強しなくてもいいかな。  頭の隅でそんな事を考えながら一旦、磯部と別れる。  時間は放課後であまり使われていない家庭科室の第二準備室に決まった。  あとは、NOという選択肢のない友樹に伝えるだけだ。  

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