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極甘天楽
友樹はどこにいるかなー。授業中の今、やっぱりサボったりしてるのか。それとも生徒会に入ってる手前、下手な動きをせずにちゃんと授業を受けているのか。
そういえばテッちゃんとのハメ撮りの時、どうして友樹は来たんだろうな?
怪我は見当たらなかったけど……あー、寝に来ただけってのもあり得るか。
どうどうと廊下を歩く。
教室の出入り口にある小さな窓から見えるのは真面目と不真面目が授業を受ける生徒。そして授業内容を伝える教師の声。
みんなはそれらに集中しているからか俺に気付くはずもなく……だからどうどうと歩けたりするんだけどな。さすがにビデオカメラを裸にして持ってると危ないかもしれない。
と、ここで三学年の教室がある廊下。
8組あるここは一学年のクラスと比べたら随分少ないものだ。
確か友樹は6組だったはず、なんて記憶していたものを頼りに向かえば案の定、教室の後ろあたりの席がひとつ空席なのを見つけた。
それが友樹の席だとは確認出来ないし、もしかしたら友樹じゃない他の誰かが欠席して空いた席かも知れない。
けど6組の記憶はあるから、どこかで勝手な確信を押し付けてしまうわけで――。
「友樹だったらどこに行くかな……」
屋上は鍵がかかってて使えない。
中庭はさっきまで俺達がいたからいるわけがない。……もしくはすれ違いか。
不良のたまり場なんてあるはずのない校内に悩む。なんてったって不良くんは友樹しか見当たらないからな。来年の子達にしてもまだ微妙だが、今の不良ジャンルは友樹しかいない。
「裏庭か?いや、ここじゃなくて備品室って手もあるからなぁ」
なんて、あまり使われていない教室を巡り当てていると、
「あゆむ……?」
誰も通らない時間帯のはずなのに声が聞こえてきた。
「あぁ、友樹。ちょうどよかったです」
俺と友樹って実はなにかの糸で結ばれてるのかもしれないな?
ポケットに手を突っ込んではその勇ましい立ち方が様になっている。
少し猫背気味な姿勢も、よく見るために細めた目付きの悪さも、全部が全部、怖いぐらい似合ってておかしくなる気持ちが心のどこかで浮上し始めた。
だってこれからまた犯されるんだぜー?
まっ、ヤらせたいものもあるから今日じゃないんだけどさ。
「なんで歩がこんなところにいんだよ」
俺とわかってからはや歩き気味に近付いて来た友樹。
そんな友樹を目の前にストラップでぶら下がってるカメラを手首に通して両手を使えるようにする。
「いや、友樹を探していましたから、ね」
お、
「……――別に、敬語じゃなくてもいいけど」
「あー、まぁそこは気分で」
やっぱりカメラに目が行くか。そりゃそうだよな。
友樹からしたらこのカメラは次があるかもしれない合図になるもんなぁ?
「……で、なに」
急にぶっきらぼうになったような気がして俺は正直過ぎる不良くんの姿に笑う。
嫌なのに続くのは本当にツラいもんな……俺が感傷に浸ってもしかたがないことだが。それでもずっと不機嫌なままは困る。
結構、俺の事が好きらしい友樹にちゃんと尽くせるかは知らないけど、頑張ろう俺。
「どうします?探してたら案外はやくに見付けちゃいましたから、俺の中のプランがまだ整っていないんですよ」
「……」
「授業中でもありますが、俺と友樹が教師に会ったとしてもなにも言わないでしょう?どこでもデートらしきものが出来ます」
「……」
俺のために、友樹のために。
ここはやっぱソレらしきものの行動をした方がモチベーションも上がるかな、って。ポケットに入っていた手を握り、俺より背の高い友樹の顔を覗くように見上げる。
グッと近くなった距離のせいか友樹の顔が赤くなってるのがよくわかる。
確かに付き合うまでは発展したが、友樹はバカなのかもしれないな。
テッちゃんにしても、今持ってる俺のカメラにしても、この先の出来事がわかってるんだから俺をボコせばいいのにさ。
なのに、なにもやらず付き合うことになって――つーかむしろ付き合うためにヤっちゃって――この人の得とはいったいなんなのか……。
わかる問題を考えるのは得意だが、なにもない一つの公式を使っても結局わからないままの問題に立ち向かうのは嫌いだ。だって俺に答えがわかるわけないんだから。
常識的に考えてこれは、好きだとかそんな感情でおさまる事ではないだろ。俺自身、そこまでわかっているハメ撮りだぞ?
「校内はもちろん、寮内でも。あ、抜け出して外に行くのもいいですよ?」
近い顔の距離は俺が背伸びをしてやっと届く、友樹の額。
ついたデコとデコにお互いの鼻先までくっついてしまいそうだ。
「どーしますか、友樹」
「……」
近距離過ぎる。なにも答えない友樹だが答えてくれないと雰囲気的に離れられないだろ。
別に俺が嫌とかではないんだが、ここ一応、廊下だから。
「……」
「……」
「……」
やっぱりなかなか口を開こうとしない友樹。ずっと互いの目を見つめ合ってるだけだ。つーかそろそろ背伸びしてる足が限界きてるわ……。
だけど出来てしまった甘い空気を切り裂くことは出来ない。
しかし、足……空気……足……はぁ。
「ないなら俺が勝手にどこか連れてっちゃいますよー」
俺の急な提案についていけないならその腕を引っ張ってやろう。甘い空気を切り裂く選択をした俺に気遣いもなにも今はなにもない。
さぁ離れよう、と。
そう思っていたんだが、
「……キスしてぇ」
こっちもこっちで、急な提案するんだもんなぁ。
どうしたどうした?
いきなりキスがしたいだなんて、もうこれ誘い受けか?
不良で誘い受けになっちゃうか?
イイじゃねぇの!
このカメラで是非、残しておきたい台詞だったよ。
「キスしたいんですか?」
「……」
あ、俺まだ背伸び中だけど。
さすがに空気読むっつの。
「……まぁ、あまりしてませんもんねぇ。でもここじゃ出来ないので」
そこまで言って、俺はチュッと軽く触れたあと一瞬だけ下唇を噛んでは一旦離れる。んん……?
なんかレモンの味したけど、まさかここにきてファーストキスはレモン味ってか?
ははっ――今の俺バカだわ。
初めてでもねぇのに、何回目のキスでレモン味なんだこれ。
「ちょっとした穴場があるからそこに行きましょうか」
「……」
中途半端なキスでさらに真っ赤にしたのか友樹は顔を俯かせながら手を握る力も強くなった。ついビデオカメラを起動して録画したい画。……起動させようかな。
「ほら、なにもないんで撮っちゃいますね」
「っ、やめ……!」
「しーっ。友樹、ここ廊下で授業中」
けど友樹はやっぱりカメラには敏感過ぎだ。
ハメ撮りする、なんて言われたせいでもあると思うけどな。
録画セットのために構えた瞬間、カメラのレンズを手で塞ぐように覆った友樹。
怯え、とはまた違うように見えるけど、実際どうだか。けど今日は本当になにもないからな?
お気楽に撮られててほしいんだけど、無理な感じ?
「友樹、ほら友樹。ここは笑わなくてもいいから素の友樹を見せてくださいよー」
「……」
「拗ねちゃってる友樹かわいいからー」
その言葉に友樹は耳で拾いきれるかどうかの声で『……可愛くねぇっつの』とズカズカ歩いて先に行ってしまった。その行動が俺の腐った頭に、胸に、ドツボにハマっている。
それと俺の言う穴場も知らないくせに、いなくなるとか困るんだけど?
つーか、おーーーい、キスしたいんじゃないんですかぁ?
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