24 / 114

極甘天楽

  「もう撮んな」 「いやぁ、どうも漫画を読むのと撮影は離せなくて」  あれから必死で俺が友樹を追いかけてカメラを向けながら、もう一度自由に使える手で手を繋いだ。  穴場に行きたかったのは本当だし、友樹からのオネダリでキスもしてあげなくちゃだろ?  ここが穴場だと、やっぱり知らないみたいで連れてきたときは『屋上は使えないぞ』と言われた。  それは知ってますよ、と返したら表情から伝わる〝じゃあどこが穴場なんだよ〟という機嫌の悪さ。なんだか怖くて直視出来なくなり、画面越しの友樹を見ていたものだ。  しかし、それが気に食わなかったらしく、友樹は不貞腐れたまま。 「でもよく俺なんか好きになりましたよね。ぶっちゃけ今も好きなんですか?」  座り位置は対面式。俺と友樹の間になにか仕切りがあるわけではないがカメラを持つと、ついこういった向き合いになってしまう。  人と話すときは目を見て話せというから、これも間違ってはいないだろうよ。俺も俺でカメラを持つと人が変わるように喋りもウザくなるから。  そういや磯部からも指摘されてたな……。 「……」 「あれ?もしかしてもう好きじゃない系ですか?」  ちょっとした質問攻め。  俺がお茶らけるフリで気持ちの確認をとってみるものの、もしかしたら俺の勘違いが発生――? 「……好き、だけど」  するはずもない、か。 「すごいよなぁ、他の人とヤってまで俺と付き合うとか――っ」  俺の悪い癖がついたのか、ここは友樹が正しいというか……。緩和がてらの話題提供でテッちゃんの時の話をぶり返した。聞き方によっては友樹がビッチに聞こえるだろうな。  殴られそうになった今、言い方に気が付いたよ。 「ちょっ……!おれが本気で友樹に殴られる日も、近いかもしれませんねっ」 「……本気で殴ろうとしてんだよ、くそ」  録画していたカメラは俺の手から離れて転がり、友樹は俺の胸ぐらを掴んで押し倒し、馬乗り状態で右手の拳を目の前まで持ってきていた。  小さい頃から教わっていた護身術のおかげか、他の奴等より身に付いた反射神経をフルに使いきって止める俺もすごいと思うわけよ。 「……でも、好きだ」 「友樹は急な事が多いなー」  そんな告白はさっき俺が質問した返答でもあるんだろうな。  ちょっと目を潤ませる友樹に、もう殴られないよう気を遣いながら頬に手を伸ばす。 「気持ちもなにもない俺に向かってなにをそんなに……」 「……」 「っと、失礼しました。けどそこまで言われるのも悪くないので、ね。友樹?」 「……ん」  外見とは全く似合わない、今にも泣きそうな表情にゆっくり顔を近付けて、好みになったその唇に吸い付く。 「ん、んンっ……」 ――俺は知っている。 「あ、ゆむ、ぅ……ッ」 「んー?」  友樹が俺に殴りかかろうとした時に離れて転がっていったあのカメラのレンズが、 「はぁ、んぅっ、ん、」 「友樹の唇は柔らかいですね……んっ」  ちゃんと俺達に向いて、映していることを――。  覆い被された格好から体を反転させて今度は俺が上になる。上唇を吸っていれば友樹は俺の下唇を吸ってくるし、その逆だってある。  もうなんだか吸い過ぎて噛まれてるような気がしてならない。痛いのもあるがそれを越すものはやっぱり気持ち良さ。  快楽がやってきたらもうそりゃ突き放せるわけがない。 「んん……っ」  上顎を舌でなぞればそれがよかったのか友樹の体が一瞬だけビクッと震えた。  繋いでいた手を離して耳を塞ぎながらも触り心地の良い髪の毛も触れて、角度を変えながらのキスに友樹は息も絶え絶えらしい。  攻めてる時もこんな感じだったのか、それとも受けに回ってからこんな感じになったのか。  そこは知らないが、女にしても男にしても俺の下で気持ち良くなってもらうのは嬉しいことだ。 「とーもき、苦しい?」 「んぁ、んっあゆむ……」 「ははっ、トロットロじゃないですか」  ちゅ、とまた今度は軽く、触れるだけの唇を落とす。 「ともき、舌出してみ?」 「……ん、」  素直にぺっと出してきた赤いものを俺は全体を舐めるように這いずって、また口のナカに入り込んだ。  穴場。  この学校の屋上は鍵がかかっていて使えず、そもそも誰も近寄らない屋上扉前の“階段の踊り場”が穴場だ。  屋上が使えないから他に行こうと思ってみんなは探し、自分の思う穴場を見付けて、そこでご飯を食ったり集まったり、たまにサボったりしている。  だから、こんなところには誰も来ない。ここを穴場だとわかってるのは中沢と松村の二人ぐらいだし、来ても休み時間だろう。  今の俺と友樹の時間は、絶対に邪魔されない空間。  ステキだな? 「はあっ、友樹えろーい」 「ん、はっ……うるせ、」  友樹、ともき、トモーートモくん。 「……今回もちゃーんと、ヤりましょうね」 「……」  黒い綺麗な髪。  指がストレートに通る髪の毛を触りながら、きっとニヤつきが止まらない表情をしているに違いない。  あぁ、楽しみだなあ。 「明日の放課後、俺の友達と家庭科第二準備室で撮っちゃいましょうね」 「……っ」  まだまだ頭を撫でる俺に、トモくんがどう思ったかは、知らねェよ?  

ともだちにシェアしよう!