32 / 114
緊急事態その3-極秘騒動-
どうやら友樹はお茶目をしたらしい。
お茶目というのは他の誰でも、知らない人を殴る蹴るわの暴れよう。
制服は着ていなかったからここの生徒だとバレずに解決してしまった事件らしいが、たまたまテッちゃんがその場にいて一応、五十嵐を含む教頭に報告したとか。
よくよく思い出してみれば新しい傷があったような……いや、あれは元からあったものだったかな。
どっちでもいいけど俺のいないところで喧嘩なんて……不良ヤンチャをしちゃってるんだなぁ、としみじみ思う。
「あの人、なにもないのに暴力なんてする性格じゃないから。理由を聞くだけでも、って探してんだよ」
「極秘の理由は?」
――生徒会役員の一人だからだ。
「……ああ」
五十嵐のその一言に、納得した俺ってなに。生徒会は最強という王道パターンでも考えていたか?
どの場面でも俺の頭は腐りきってやがる。
「大変だな?愛しい平三くんとも一緒にいれなくてッ」
俺には関係ない、と思わせて空気を切り裂きながらウィンクしてふざけてみる。
五十嵐はそれにイラッときたのかまた鋭い目付きで俺を睨んできたその時、教頭の声が聞こえてきて、こっちに近付いて来た。
「五十嵐、ダメだ。どこ回ってもいない」
一生懸命、探したんだろうな。肩上げて息してる教頭に凝視。
「そうですか。こっちもいないみたいですから、寮に戻ったのかもしれませんよ。行ってみますか?」
比べて冷静な五十嵐は教頭に提案していて、教頭もその提案を飲むように頷き、先に行ってしまった。
これでコトは終わり、俺は俺で友樹の鞄を持ってこれるな。あと、はやめに友樹を寮に戻すためにはやっぱ俺一人で磯部を運ぶしかないのか?
頼むから磯部、起きろー。
「あ、木下」
教頭の背中を見送ったあと、五十嵐の背中も見送ってから俺も行こうとしていたら五十嵐が振り返って話しかけてきた。
「んだよ、誰にも言わねぇから。極秘と若頭!」
「チッ、アホ。……それよりお前はこの家庭科第二準備室でなにしてたんだ、あ?」
「……ッ」
さすがにイラつかせ過ぎたらしい。
ゾゾゾッと背筋が凍るような感覚に襲われつつ、正直で嘘な話をジェスチャーで表しとく。
「……こ、これ、」
片手の指で輪っかを作り、もう片方で人差し指をその輪っかに入れる。意味がわかれば卑猥なジェスチャー。
「……お前は、女が対象なはずだろ」
そう言ってやっと俺の目の前からいなくなった五十嵐。
なに考えてるのか本当にわからねぇわ……見透かされてなければいいけど。
「てかトモくんってば、外で喧嘩するタイプかよ」
なに、ストレス溜めてんの?――俺が原因?
「友樹ぃ、調子どうですかー?」
ほとんど校内には生徒がいなかった。ところどころ電気はついてても薄暗いところがあり、不気味を感じてはや歩きで鞄を取りに行ったもんだ。
ついでに磯部の分も気付いて取りに行った俺は最大級の優しさを持った男に違いない。
がらら、と引き戸のドアを開けると机の上で行儀悪くもあぐらをかいてる友樹がまだ倒れてる磯部をジッと見ていた姿が目に入った。
「俺は平気、」
その言葉は他にも続きを言いたそうなトーンの返事だったが、まぁ……もう視線でわかるというか。
「んー、回し蹴りでも踵が横腹に入ったんですかね」
やってしまったにもかかわらず起きない磯部を心配してるらしい友樹に、極秘騒動が起きてんぞ?と思いながら小さく笑う。
もしくは、俺の親友枠に入った磯部だからこんなにも心配しているのか……ぺチンッと頬を叩いても全く反応しない。
これはしばらく無理だな。運ぼう。
「よ、っと……こいつなにげに重いなぁ」
「……」
「あ、友樹はその荷物全部お願いします」
三人分の学校指定鞄に他の荷物。
ローションやコンドームと使い終わったタオルにビデオカメラの予備電池、それと俺の漫画小説。重いだろうけど磯部よりは重くないからいいだろ。
腕が抜けても気にしないほどの勢いで俺の肩に手を回して磯部を立たせる。とはいっても無のままの人間を動かすのって本当に大変だ。
担ぐのは出来ないからもうおんぶでいいや。
「やっぱ友樹、力貸して」
「……俺が運ぶけど」
「や、いいですよ。こいつの事おんぶしたいから一瞬支えててください」
そう伝えると友樹は磯部を背後から腕を回して軽く抱きしめる形で支えた後、ゆっくり俺の背中に乗せてきた。さっきの運び方よりよっぽどマシだな。
踏ん張りで立ち上がり、友樹の様子も見る。
「準備はいいですかー?」
「おう」
あんなコトをした後なのに男前だ。
「そういや、五十嵐と教頭が探していましたよ」
「……」
学校を出て寮に向かう途中の道。
徒歩でだいたい5分ほどでつくが磯部を持って歩いてるせいでいつもよりゆっくり気味だ。
「心当たり、あるんですねぇ?」
「……」
「俺はもう事情を聞いたんで。極秘らしいです」
「……そ、」
なんとなく、友樹から、チラチラと俺を窺ってるのが視界に入ってくる。俺としてはどうも思ってないことだけど。
だから表情も変えずに、多少の笑みを交えつつ最後は磯部を起こすようにジャンプしたりぐるぐる二周、三周回ってみたり――苦い雰囲気を変えてみた。
それで友樹がまたどう思うかは知らないが、俺としては嫌いな雰囲気だからな。
「あ、そうだ。友樹」
「……」
結局、起きない磯部を諦めて俺の後ろを歩いていた友樹に振り返り、話続ける。
どんな奴であろうと暗い顔されると勝手に気まずくなるから、やめてほしいものだ。
「五十嵐と教頭の件、終わったら俺の部屋来てもいいですよ。中沢が作った菓子があるんで、よかったら」
紅茶のシフォンケーキらしいけど俺、紅茶苦手だから。
甘いもんを体に入れとけば少しはストレスも解消されると思うぞ。
勝手な決めつけだけどな!
ともだちにシェアしよう!