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余の談
ふぅ……。
「と、いうわけで、」
――録画開始。
「……っ」
突然取り出したビデオカメラに無表情の中でも驚きを見せる友樹。
俺がカメラを出してきた、イコール、誰かとセックスする。
そんなものが頭に出てくるんだろうが、違うぞ。まだ相手を決めていないんだ。というかしばらくは決められそうにないかもな。
また外で喧嘩なんてされても、ね。
「ここに飴があります」
「……」
全く喋らない友樹に俺は画面越しで見ながらポケットに入っていた飴を出して映す。小型画面には友樹と飴と、飴を持つ俺の手が映っている。
味はレモンで袋のデザインもレモンを連想させるような黄色いものだ。
「飴はこれしかありません。友樹、食べる?」
わけがわからないのか、それとも警戒しているのか、首を横に小さく振って否定。
飴自体にはなにも仕掛けてないから大丈夫なんだけどなー。
そう思いながら片手でカメラを持ちつつ、もう片方の手で器用に飴を袋から出し、俺の口の中に入れて舐める。
こういうのでもレモンのすっぱさを再現しているせいかエラ骨の後ろ側がツーンッと痛くなるな。
「この飴が、友樹の口の中に移ったら、すごくないですか?」
べーっと舌の上に含んだ飴を見せたあとの説明。
「それはさすがに、ない」
「えー?」
録画をしてるからって“これから誰かとまたセックスはしない”とわかったんだろう。
驚きの目から疑いの目に変わる友樹からバカにされてしまった。
立ったままの友樹。服の袖を引っ張り、俺の目の前に座らせる。
「じゃあ出来たら昼飯作ってください」
「は?」
「これ、口に含んでくださーい」
「ん……っ!?」
無理矢理、口の中に入れたのは、丸めた一枚のティッシュ。
ちゃんと渡してから口に含まそうとしたが今の友樹は素直に受け入れてくれるのか心配だったから、無理矢理入れてみた。
最近、学食ばっかでコッテリ系しか選んでなかった罰だろうか……胃がそろそろ飽きてきたみたいで。
なんか、煮魚的なのが食いてぇなー。
「なにすんだよっ」
「静かに!」
ついでに手で口を塞ぐ。
「いいですか?ここにある飴が、友樹の口の中に、いきますよ?」
そう言って得意気に鳴らした指とともに、
「……んぁ――」
反応した友樹。
「どうですか?違和感あります?」
訊ねればコクコクと頷く友樹。
塞いでた手を掴まれて、惜しくも口から離れてしまった俺の手。
「ん、なんか、これ、」
「どっすか。最近マジック始めてみました」
そして俺は口を大きく開けて、飴がなくなってる事実を友樹に見せた。
「ちょっと友樹、口開けてみ?」
掴まれた手はいつの間にか握られつつもそれに応えながら持ってるカメラのダイヤルを右に回して口元をアップ。すると恐る恐るといった感じでチロッと出してきた赤い舌と黄色い飴玉。
正直ここまで成功するとは思わなかったな……。
出来たら出来たで俺は嬉しくなり次のマジックでも勉強してみようかな、と思うまでで。
「移動、出来ましたね」
「つか、これ、ティッシュはどこに行ったんだよ」
見せた後にもう一度口の奥に含んでしまった動きを見ながらカメラをパソコンの横に置いて、俺と友樹が撮れるように調節。握られてない方の手は自由に動かせる。
「そのティッシュは幻ってことで」
「ふざけんな」
「教えませんよー。だって俺マジシャンだし!」
ふざけた真似をすれば友樹は反論しようとしたのかまた顔を歪めたのがわかった。
あーあ、そこまでムキにならなくても!
「だいたいこの飴だって――「大丈夫ですよ、害はない」
喋らない時と喋る時の差が激しいその口。
話を遮ったときに出来た隙間から顔を寄せて、そのまま舌を入れれば友樹の体はビクッと震えた。飴を返してもらおうと、ころころ転がしながらもキスを続けて思った事だが――俺ってばキスそのものが好きなんだな。
初めて付き合った女にもさすがにしつこ過ぎたのか、小さく笑いながら『木下くんは本当にキスが好きだよね』と言われてたっけ。
あぁ、今思い出すのは酷過ぎるか。
「ふ、っん……あゆ、む……」
現在進行形でやってる相手は、男だ。でも友樹とのキスは結構気に入ってるからなぁ……。
座っていた椅子から床にずり落ちながら触り心地の良い黒髪を撫でまわす。
最近はあまりゴツいアクセサリーを付けていないけど、どうしたんだろうな?
まぁその辺はあってもなくても友樹は友樹だからいいんだけど。というか、俺と友樹ってあの処女脱以来セックスしてねぇな……ヤる暇が実際なかったからなんだけど。
「はぁ、んぅ、んん」
「んー、飴はやっぱいちごミルクだな」
戻ってきた飴をガリゴリ噛み砕く。握られた手はまだ離されていなくてそのままだ。
離れる気配も感じないが、これ昼飯作ってくれんの?
「俺、カレイの煮魚がいいです」
「……っ、俺焼肉しか作れねぇよ」
結局コッテリ系かよ。男らしい料理だな。
「んじゃもうそれでいいですよー」
最後に、ちゅっと目元に口付けをして録画していたカメラを閉じる。
たまには俺とだけを絡めた友樹のハメ撮りでもやるか――と考えてる俺自身の気持ちを消すために、マジックネタのサイトを開いといた。
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