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緊急事態その4は、トモくん
友樹はどうやら俺の親友枠に入っている中沢 智志に脅しめいた言葉を放ったらしい。
俺としては噂の同室者である王司 雅也のあれこれを見たかったから、ちょっと中沢の背中を押していたんだが……テンションが上がり切った俺は中沢と松村の三人で昼飯を食うために先に売店に行って買っていたんだ。
その時に、らしい。
なんか物理的な願いをされたとか言ってたっけ。
友樹の外見が外見のせいか、怖がって松村の背中に隠れた中沢に『歩にあんま近寄んな』と言ったとか。
松村はともかく中沢はまだ俺と友樹の関係を知らないんだから、まさに不良がやるような行動をしちゃダメだろー。そのせいで激おこプンプン丸だった松村に俺が震えちゃったんだぜ?
だからまあ、中沢には謝って溜め息吐いといたよ。
数日悩んで、期末テスト直前の今、友樹に会えてよかった。
「あーあ、中沢も俺の大事な友人です。つまりは親友様」
「……」
「どうして中沢にあんなことしたんですか?」
五十嵐が言ってたっけ。友樹は理由もなく殴る性格じゃないとかかんとかって。じゃあ中沢の件についてもちゃんとした理由、あるよな?
殴ってないにしろ、強面でぶるっちゃうような事を言ったんだ。あるだろ?
「友樹」
「……いっしょだろ」
は? 聞こえないんだけど?
首を傾げて聞こえるまで口にしない俺。後ろにはビデオカメラを隠し持ってるけど。
「いつも、あのチビと、一緒だろって……!」
ミックスジュースを両手で抱えながら、照れてるのかなんなのか顔を背けた友樹。
耳、ちょっと赤いかもな。
ササッと隠し持っていたビデオカメラを密かに録画開始しときながら『まぁ親友ですから、一緒ですよ』と返す。それが気にくわなかったのかキッと睨まれたあと、密かに録画してたのに気が付いたのか手でレンズを塞がれて小型画面の映像は真っ暗。
そして真横から来る丸い影に俺は反射的に受け止める事しか出来なかった。
「逆ギレはよくないと、思います……っ」
「……」
力が強過ぎて殴り掛かってきた手を押さえるだけでも苦だ。でもここで俺が引くわけにはいかない。
地に落ちたミックスジュースをはやく拾った方がいいのかもしれないが、引くわけにはいかないんだ。
この数日、確実に中沢は松村を盾にして俺と接しているから。
状況がこのまま続いてみろ……せっかく王司とのフラグがビンビンに立ってるというのに近くで見れず指くわえながら遠くで見てないといけないことになるんだぞ?
そんな惜しい事出来るか……!
貴重なドM攻め、王司 雅也だぞ。どんなものか見てみたいし話も聞いてみたいだろうが!
それなのに聞ける本人である中沢が俺を避けて行動……なんて、今よりも酷い関係になるだろ。誰がどう見ても木下と中沢は親友じゃないよな、って思われちゃうだろ!
それだけはどうしても阻止したい。
阻止したいがために考えた結果、ちょっと精神的なお仕置きをトモくんにしようかな、と。
「ふぅ……トモくんって、一人っ子かなー?」
なんとか押さえていた友樹の拳をおろして録画されているカメラを向けながら喋る。画面に映る友樹は不機嫌そうにダンマリ。
嫌な予感でもしているんだろうか。嫌な予感って女じゃなくてもよく当たるものだぞ?
だからそんな想像したらいけないと、俺は思うわけよ。
「トモくーん、答えは?」
「……一応、三人兄弟」
妙に急かしてみればカメラ目線を外して小声で答えた友樹。
そうだよな、そうなんだよ。
「キョーダイってことは兄と弟のどちらか?女だったら姉や妹で姉妹の説明しますもんね」
「……下に、二人の弟」
そうだ、その通り。
聞いといてあれだが、俺はもう友樹の兄弟事情を調べ済みだ。とはいえ五十嵐から『飯塚先輩には弟がいる』と教えてもらった超簡単な調べだったんだけど。
しかしあの時のあいつの目、すっげぇ怖かったなぁ……怪し過ぎる者を見る目というか。
俺ってそこまで嫌われてるなんてホント、中沢だけでも味方になってくんねぇかな?……松村がいるから無理だな。
それに中沢のこの件に関して、松村は友樹にちょっと嫌な思いで接してるみたいだし。
あーあ、俺の味方になってくれる人いねぇかなー。
「でも、なんだよ、急に」
不機嫌な顔?
それとも暗い顔?
判断が難しくなっていた時、友樹は落ちた二つのミックスジュースを拾いながら聞いてきた。
本当は、ちょっとでもわかってるくせに。
「んー?んー、トモくん」
「……」
どうにもニヤニヤする緩い頬がダメだな。頬肉ってどうやれば鍛えられたっけ。
「――夏休み、家に帰りますよね?」
「へ……」
その言葉に、友樹は固まった。
やっぱりというか、それとも、まさかの発言だったのか……でもさぁ?
「俺も遊びに行っちゃおうかなァ?」
「……」
見たいジャンルは普通に見たいじゃないか。
ないなら作って満足する、自給自足だ。
「このクッキー、弟くん達が食べれるかどうか味見してみてください」
ポンポン、と制服のシャツの胸元にあるポケットを左手で叩き、その後にパチンッといらない動きの指鳴らしをして、離れる。
後ろでカサッと袋が擦れた音を聞きながら、録画終了させたカメラを大事に手に持ち続けた。
今やったマジックは成功したし。近親相姦はウマいから楽しみだし……あぁ、俺の夏休みってば良いプランになりそうだよ。
「あ、でもその前に期末テストか」
それに中沢や松村ともグダグダな夏休みを送りたいものだ。
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