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世談

   漫画も教科書も、どちらも同じだ。  そう言えば中沢から痛いほどの視線を寄越してきた。 「7位か。まぁ普通だな」  例のマジック攻めの漫画を読みながら廊下を歩いていると期末テストの結果が貼り出されていた。学年50位まで載せられてる名前。  そこに俺の名前が入ってるなんて知っていたことだ。全ての教科が終わったあとの確信。出来もよかったから、そう思うのも悪くないだろ?  俺は流し目で自分の名前を見付けたあと読みかけていた漫画に目を戻す時、ついで感覚で1位は誰だろうと黒目を動かした。  まぁ誰だとわかっていても生徒会長様である五十嵐 順平かな、と思いながら、黒目を――1位-王司 雅也 / 905点 「ん?」  さすがの俺も目に留まる現状が、今ここに。それと同時に思い出した事がある。  俺の中で話題のドM攻め王司×平凡受け中沢の組み合わせ同室者……なんたらイベントが発生してて……?  詳しい説明は省くが、王司がこの期末テストで上位に入る事が出来たら一緒に寝るという約束をした、と聞いた。 「これは……!」  読んでいた漫画を鞄に入れ、人をかきわけて一番前に向かう俺。  テスト結果にしては随分と静かな周りだが、その原因について俺は察している。 「さぁ、中沢様っ!今のお気持ちは?気持ちはどうなってる!?」  偶然にも噂の中沢と付き添う松村がいて、テンションが上がっている俺は中沢の肩を叩いたり揺すったりしながら心境を聞いてみた。  話によるとどうやら一週間、どっちかの部屋で、同じベッドで毎晩寝るらしい。絶対になにか起こるだろ……?  起こらなかったらおかしいだろ!?  もう王司ってば中沢が大好きなの丸見えなんだけど!  ある意味、健気で笑いそうになるな!  だって報われるかもわからない想いだぜ? 「おいおい中沢様ってばぁ!」 「木下が騒ぐのもしかたがない、のかねぇ……?」  しつこく中沢に聞いたりしていると隣にいた松村が苦笑い。怒る気配を感じない今、騒げるのはここしかないだろ?  松村の怒りはほぼ中沢が着火点で起こるものだから。  そんな俺を無視して、まだ中沢はテスト結果を見続けていた。単純に俺と関わりたくないって思いもあるんだろうが、 「……化け物か、あいつは……」  呟いたその言葉に、俺も同意する。9科目で総合点数が905点というわけのわからない数字。  んー、でも王司だし。なんかこれは王司 雅也の結果です、の一言で納得出来ちゃうような奴だからなぁ。  そんなことより俺は王司との展開も気になるし、なにより今この場で起きている萌え要素も俺の目の保養になるわけだ。 「……」  なに、中沢のやつ。松村の背中のシャツをぎゅっと掴んでいるんだけど。  松村×中沢って本当に尽きねぇよ……二人の身近にいれることへ感謝だ、感謝。  そんな身近に感謝をしなければいけない俺は、やっぱり活かさなきゃ意味がないと思うわけだ。 「ちょっと友樹、まるごと一本バナナケーキを食べるの下手過ぎですよ……」 「……食いづらいんだよ」  ぼと、と落ちた生クリーム。  中庭のベンチに座る友樹を見付けた俺はその場から録画を始めて近付いた。声をかければ俺の名前を呼びながら食べようとしているケーキ。  周りがスポンジで包まれてるから素手でも食べれるケーキだが、下から生クリームが出たり口端についていたりで意外な姿の不良くんが撮れてしまった。 「もしくは溶けてるんですかねぇ?うわ、卑猥」  夏を目の前にして冷蔵庫に入れずそのまま持ってきたのだろう。  カメラをバナナケーキに寄せながら生クリームの状態を小型画面越しで確認してみるが、なぜだかそんな気持ちになってしまう画。 「なに言ってんだよ」 「思春期真っ盛りですよ、俺」 「ハメ撮りするぐらいだもんな」 「その相手がまず友樹です」  バナナケーキから次は友樹に切り替える。 「美味いですか?」 「ん、」 「よかったですね、食いづらいらしいけど」  片手でバナナケーキを持ちながら口端に付いた生クリームを親指ですくい口に入れる。  その動きがまたエロく見えるのは画面越し効果か、それとも気のせいか。 「……夏ってさぁ、こう、爆発するなにかがありますよねぇ」  俺の独り言が、呟きが聞こえたのかバナナケーキを食いながらの友樹と画面越しで目が合う。  別にそのバナナケーキがなにかに見えるってわけじゃないのに。 「……」 「なんですか、友樹くーん」  誰もいない中庭に二人。偉そうに座る不良姿と、その姿を不真面目にカメラで撮る俺。周りから見たらどう映るのか――。 「んぅ……あゆむ、たまってんの?」  ……はあ?  最後、一口分のバナナケーキを放り込んだ友樹。もちろん生クリームは付いたがちゃんと自分で舐め取っては綺麗になるだけだ。  画面越しに映る友樹の表情は、もう一個バナナケーキ食えるけど、みたいな余裕ある顔。下ネタ言ったような感じじゃない。  なんてことだ……。 「さすがに溜まってはいませんよ。この間、相手してくれましたよね?」  ずっと同じ画に飽きてしまった俺は持っていたビデオカメラで友樹の全身を上下に映しながら遊ぶ。 「でも、歩……」  やっと食べ終わったのかもごもごした喋りでなくいつもの友樹――ちょっと機嫌悪そうな口調で俺を指差してきた。差された指の方向からしてまず顔でないことが画面越しからでもわかる。  ふいっ、と目を友樹にうつしてから、指を差される先を辿る。 「……」 「……」 「……ああ」  その先は持つカメラよりも下で顔を下に向ければ、さすがに恥ずかしいとは思うモノだった。 「勃ってんぞ」 「ねぇ?……なんででしょう」  制服を着ててもバレてしまうほどの勃起。  どんなタイミングだ……。せっかく期末も勉強せず、良かった結果だったのに。友樹の日常をカメラにおさめていただけだったのに。  俺がこんなんじゃダメだろ……。  そう思いながら俺の勃っている下半身はカメラに撮らず、ずっと友樹を映しているだけ。  俺は俺だからな。自身を晒すなんて真似は友樹とまたいつかヤる時だけだろう。それでいてもパソコンで再生する時は俺のをあまり見ないようにしてるんだからさ。  あとで再生しようとしてるカメラを自分自身に向けるとか、勘弁してほしい。 「しょうがないですね……キッカケはわかりませんが俺ちょっとトイレに行ってきまーす」  惜しくも録画終了を押そうとした。が――。 「思春期真っ盛りなんだろ?」 「ん?」  汚れなんてある程度、知ってるはずの友樹の目。  それが今だけは純粋な目にしか見えないから困ったなぁ。 「ソレ、俺が抜いてやろうか?」  そんななにも無表情で言わなくても。  

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