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余言炎

  「なぁ、やっぱ智志の件だけどさ……って、なんでカメラ持ってんだよ」  録画はしていないが小型画面を開いてるせいで勝手に勘違いをしている松村が俺に話しかけてきた。  ある日の放課後の廊下だ。 「撮ってないから気にするな。中沢の件って?」  松村の話を戻して聞いてみる。だけど本当は中沢の件ってものを知っている。あれだろ、中沢と王司の一週間ラブラブ寝ちゃいます!ってやつ。 ――実は中沢のやつ、覚悟を決めたみたいで俺と松村の元にやって来てはその事情を心得たのだ。  相手はバリタチのドM。  中沢から聞く先々の話を聞いてても王司が受け役にしか思えないが、あれは突っ込む気満々らしいからさ。中沢の勇気あるその意思を無駄にしたくないだろ?  だから俺、ホモ調教してやったよ……やり切った! 「今日で何日目だ?」 「あー……最後、だったか?期末の結果が出た日から寝るとか言ってたから」 「ふーん」  中沢みたいな、なんつーの……?  誰とも経験がない奴だとこういった世界へ引き入れるのが簡単で興奮してくる。松村みたいなちょっと厄介な奴がいても、本人さえ納得しちゃえばこっちのもんだからな。  俺は怒られずに済むし、ドM攻めの可能性も今後開ける。あわよくば、マジック攻めだって――夢じゃない! 「ま、どうだっていいんじゃねぇの?中沢もこの一週間が終わればちゃんと王司と向き合うって言ってたし」  そう、ちゃんと向き合うらしい。  興奮をおさめるために持っていたビデオカメラを松村に向けながら言えば、俺が適当に答えてると思ったんだろう。  整った眉を寄せては唇を尖らせるように力が入っている姿の画が撮れた。  大事な大事な友人様が取られたって気分か? 「そんな心配したってしょうがないっつの。俺だって悲しいよ、ノーマル仲間がまた一人……と、俺も似たような感じか」 「……木下、まさかと思うが学校でも、その……ハメ撮り、とか、やってないだろうな?」  恥なのか、それとも気遣いなのか。誰もいない廊下で“ハメ撮り”言葉を口にした時、やけに小声で発した松村。  もう学校ではヤっちゃってるけど。保健室と、家庭科第二準備室。  どっちもどっちで時間帯やら人気がない場だったからバレてないのは確かだ。  んー……でも少しは五十嵐から聞いてたり?  でもこうやって俺に質問してきたってことは五十嵐もまだなにも知らない、ってことか……?  あー、まぁ、いいか。  不要な悩みに深く考えながらも出た答えは『まさか、そこまでヤってねぇよ』と返した言葉だった。この嘘がバレたらそれはそれで、その時考えればいいだろ。  松村に向けていたレンズを歩いてる目の前に変えて進んでいると、今度は小型画面に見覚えのある体が映された。 「あ、木下センパーイ!」 「お、」 「ん?中等部生?」  俺の後輩ちゃんだ。  黒髪に金のメッシュが混じった頭。でも松村は高校からの外部入学生だから知らないか。  可愛らしい顔だけどヤンキーちゃん風である後輩。俺が中三の時に出来た下級生だ。 「俺の中学の時の後輩。じゃ、俺はここで」 「そうか。木下、カメラ持ちながら漫画読むなよ?」  言われて『はーいー』と締まりのない返事をしながら松村とお別れ。階段をのぼって行ったから生徒会室でも行くのか?  変わらずだなぁ。 「元ノンケのイケメンって素晴らしいッスね!」 「あぁ、加えて心配性だぞ」 「尊い!」  まるでもう親だ。  でもそんなことを言ったらまた怒るから。だからあまり、口にしないけど。 「で、どうした、窪田(くぼた)」  今は中学三年生で来年の高校からまた一年間、一緒にいられる日が多くなるだろう相手。  じゃらじゃらなアクセサリーに第三ボタンまで派手に外して着崩す制服。たまに前髪にヘアピンをつけては可愛らしさをアピールしている確信犯なやつ。  中学生だからか背も低く、だけどこいつ自身は170センチです!と言い切ってた。それはまあ窪田の嘘で、たぶん165センチなんだろう。――身体測定表にそう書いてあったから間違いない。  外見はヤンキー、中身は腐り果てた男。  俺の仲間さ。  

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