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余言炎

  「それにあのイケメン先輩って今の会長が相手っスよね!?俺もう超カンドーっスよぉ!」 「お前うるさい。バカみたいな喋り方は中等部だけにしろって」 「あっ、つい癖で……失礼しました」  すぐ素直になっては少しだけ頬っぺたを赤くさせる窪田。  どうやら窪田は外見ヤンキー風を偽っていても顔の可愛さが抑えきれないだだ漏れオーラを出してるみたいで、本気で口説かれる時があるんだってさ。  でも窪田の恋愛対象は女だから。自分が対象になるのは嫌なんだとよ。見る側になれば容赦ないほどギラギラした目でずっと見てるんだけどなぁ。  あぁ、そうそう、こいつ前の俺みたいな感じだ。いや、半分俺みたいな?  俺自体、まだ完全に落ちたわけでも感化されたわけでもないからな。  だから半分俺。 「というか、カメラ?」 「ん、気にするな。でー?可愛い後輩ちゃーん!」  素直に戻った窪田をグイッと肩に腕を回して引き寄せる。 「おっとと……木下先輩、力強過ぎです!」 「悪いって。しかし、こんなところでどうしたんだ?って話だ」  あと乳首丸見えだぞー。  なんて持っていたカメラで撮れば恥ずかしげもなく手で隠して本気の、やめろという抵抗の言葉をもらった。てめぇ盗撮して売りまくってやろうか。 「俺の周りって当事者はたくさんいても語れる人がいないんスよー」 「だから俺に会いに来たのか」 「はい!平凡先輩の話も気になります!」  元気なことはいい事だ。  中沢の事も話してある窪田は暇を持て余して俺に会いたかった、と。その気持ちだけは可愛いと思える。じゃあ教師達には内緒で俺の部屋に行こう、と。  たとえ高等部の人達に見付かったとしても『勉強を教えていた』とか適当な事を言ってれば軽い注意程度で済むしな。  身長が低い窪田の肩に回す腕はそのまま。というかいい高さだ。 「先輩重いっス」 「先輩を敬え」 「うわ……」  テンションは上がったり下がったり。ホント、俺にそっくりな子だよ。  だからこそ友樹との関係を言わないんだけどな。 「窪田って今なに系好きなの?」 「えーっと、俺は、」  あー、とバカみたいに口を開けながら考える窪田に録画開始してしまった。メモリーの空きは平気だったっけ……ほんの数分ぐらい大丈夫か。  肩に回していた腕を外して横からカメラのレンズを向ける。撮られてることに全く気付いていない窪田に画面越しで見ていた俺は考えてみた。  例えばこいつに友樹の存在を教えるとしよう。  こいつは不良攻め一択のだからすぐさまにあれとこれとそれと、なんて組み合わせるに違いない。  とくに好きなのは、不良×おっさん、とか言ってたっけ。よくあるカツアゲからの展開を期待してるらしいぞ。 「あれってマニアックなんスよね……」 「なに?ドM攻め?」 「逆になにそれ!」  おっと、王司はドMの攻めだった話はしてなかったか。  右ダイヤルを回しながら興味を示してる窪田へズームアップし、俺は『なんでもない』と返す。というか窪田もマニアックなものにハマったのか……なんだろうなぁ。 「俺達がマニアックものを好むなんて今さらだろ?」 「それもそうですね……」  そう言って、そのあとの続きを発した言葉が――マジックで、攻める、みたいな――という言葉。 「はっ!?」  持っていたカメラをガクッとおろして本物の窪田と目を合わせる。  そして一気に上がるテンション。 「お前もマジック攻め!?マジック攻めにハマったの!?」 「え、あ、はい……あれマジック攻めでいいんスか?」 「俺が付けた」  え、と困惑している窪田をよそに俺はまたちょうどいい高さである肩に腕を回して激しく揺する。 「ちょ、待って先輩!今日の先輩激しい……!」  こいつが狙われるのもよくわかる発言しやがって。まぁ欲情とかしないけどな。  でもこいつまでマジック攻めを好むとか本当に俺達は似ている。姿形とか思考とか、そういうのじゃない、なにかが。  磯部とも合うが、それは同じ雑食に過ぎないからなんでも合うわけで、窪田の場合は固定カプのままだからたまに食い違いが発生する時もある。  が、マイナーなものを好むのは常に一緒だ。  磯部にしても、窪田にしてもこういう道では長く付き合えそうだよ。 「あの漫画だろ?」 「せっ、先輩も知ってるんですか!?」 「もともと好きな漫画家でもあったからなぁ。いやー、でもあれは良い頭の休憩になったものだよ」 「おお……!」  目をキラッキラに輝かせながら興奮している窪田。  そんな表情をカメラで撮りながら、やっぱり部屋に誘うか、と思い始める。 「それで俺マジックにハマったもんなぁ」  そう言いながら窪田の目の前に、画面右側から映された俺の拳から手のひらを開けばレモン味の飴を出す。 「ふぉぉぉぉ!マジック!先輩すげぇ!」 「この程度だけど、いつかはあのマジシャンみたいに攻めてみたいぜ……」 「女にやるとドン引きされそうですよね」 「んー」  不良くんに、なんてさすがに言えないな。 「まぁいいや。俺の部屋行こうぜ」  録画を終了させながら誘えば元気に返事をする窪田。  久々に会えた俺とは本当に好意的な意味で先輩相手として、嬉しかったのだろう。窪田の表情が語る気持ちはたまに純粋過ぎて正しい道に戻したくなる頭だ。  どこかで見たが、腐ったらもう元には戻らないって。この思考を持ってしまった以上ずっとこの先も、恋愛対象が女性でも腐男子なんて卒業出来ないんだ。  だから“仲間”を減らしたくないわけ。  減らしたくないから――睨むように俺を見ていた友樹を、知らないフリして窪田と話続けていた。  

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