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事情の余談

   もう目がバレバレというか……太陽に負けないぐらいギラギラした目が見えたり見えなかったりしてるっつーか。 「あ、の……木下さん……」 「じゃないと内容が聞けないからさ、言っちゃえよ」 「……付き合いは、してる」  諦めたのか裕希君は顔を俯きながら答えてくれた。俺の望み通りな言葉で。  あー、もう顔が緩むなぁ。持っていたビデオカメラを両手で固定しながらの撮影。  裕希君にこのカメラの存在を気にするなといったせいか本当に気にしなくなってるから進めやすいよ。こういったところが純粋な中学生なのかね?……関係ねぇか。 「ただ最近なんですが、」 「おう、なんだ」  キスまでした仲らしいから、俺の予想はすでについてるけどな。  それでも本人の口から聞きたいのは俺の欲だ。 「……触り、たいな、とか……思って」 「……」  ふふーん、弘人君とはまた違う可愛さが溢れてんなぁ。  両手で顔を覆うように隠す裕希君だが、耳まで隠れてないそこが赤い。暑さで?とか単純な考えはしないから。というか、裕希君が攻め方向って事で合ってるよな。  じゃなかったら出来なかったわ、トモくんと。 「触りたい?あの眼鏡君を?」  わかっている事を聞けば躊躇いながらも、頷く裕希君。 「でも、やり方がわからない、と」  俺が言う言葉が全て当たってるみたいで一瞬、固まる裕希君だったが箍がはずれたように隠していた顔を上げて『うん……』と素直に小声で頷いた。  最初なんてそんなもんだよなー。俺は葛藤とかなく友樹とヤったけど、年齢が年齢だ。しょうがないと思うしかないだろうよ。  この眼鏡君の気持ちも受けをやりたいのか、それとも裕希君と同じく攻める方をやりたいのかはわからないが、ここは裕希君×眼鏡君の固定として突き進もうじゃないか。  メインは友樹で、デザート感覚としての裕希君と眼鏡君だからな。 「じゃあ俺が教えるよ。相手は処女じゃないんだけどさ」 「え、教える?しょ、じょって……実践、なんですか……?」  途端にまたさっきの裕希君に戻ってきた。いろいろな表情になるから面白い。  表情も、感情も、いろいろな。 「ホモックスって奥が深いんだぜー?」  俺が言えたことじゃないかもしれないけどな! 「……」  あー、ドキドキする。電車に乗っていたあのドキドキが戻ってきたかもしれない。俺的に言えばここからが勝負なんだから……あー、しかも相手が相手だしなぁ。  弱気な俺になってきているが、大丈夫だろうか。 「まずな、このビデオカメラでその行為を撮るんだけど、いいか?もちろんネットとかに上げない。俺個人で保存してるだけだから流れる事も、絶対にない」 「どういう意味があるんですか……?」 「んー、趣味?」  うっわ、否定も出来ない恥ずかしい趣味だな。でも俺、頑張るわ。  欲望のために動くから。 「撮った映像データもユウくんにあげるから、参考にしたら?」 「……んー、まぁ、」  こっちに傾き始めてる奴は頷きやすいのかもな。  眉を八の字に垂らしながらも賛同しようとしてる裕希君。カメラの許可は、もう出たと思っていいだろう。 「撮られててもあまりユウくんの顔とか映さないから安心しとけ」  上からな言い方になったが気にしない。  次、相手。……ふぅ。 「ユウくん、」 「……」 「相手は友樹だから、よろしく」  俺が躊躇って言うわけないんだけどな。  ドキドキはするが、こういうのはちゃんと言っとかないと後から首振られて困るオチだろうし?  兄弟は兄弟でも義理。それでも否定されたらって考えるとさぁ? 「へ」  驚きからポカーンとする裕希君の顔。  あれだなぁ、裕希君は今、驚きの連続で頭が回ってないのかもしれないなぁ。俺的にはそっちの方がありがたいというか……コトが上手く進んで俺得になるんだけど。  でもそんなウマさを俺一人で独占しても楽しくないし。だから友樹を気持ち良く出来るようにあれこれヤっては、裕希君にも知識つくようヤる。  弘人君はあれだ、年齢が下過ぎる。5歳になる子供には見せれないから。 「処女じゃない友樹を相手にするぶん、ユウくんは初めてだからさ、丁寧にイケると思うんだよ」 「……いや、でも兄、ですよ?」 「――義理だろ?血は繋がっていない」  笑顔で言えば、裕希君はまた顔を俯かせて、頷く。 「気持ちは眼鏡君にあってもカラダは出来ると思うぞー」 「……木下さん、すっごい最低な男っすね」  確かに。  俺が心の内で語った、一人の男を好きになったことはホモじゃない説も信用性を失う発言だ。それでもまぁいい。  ゴリ押し交渉成功、いえーい!  と、そこで、カチャン、となにかが開く音がした。 「あれ、お前等こんなところでなにしてんだ?」 「とっ、友樹さん……!」 「おかえりなさーい、友樹」 「……」  友樹と弘人君の帰宅。  振り返りながら裕希君を映していたカメラを友樹と弘人君に向ける。  あれ、弘人君ちょっと汗かきながら寝てるじゃないか。また笑う顔でも撮れるかなー、と思っていたが寝顔も可愛いなぁ。見てるだけでプニッとしたくなるもち肌。  自然とカメラが近くなって撮影する俺は正常だよな。  裕希君と、友樹の反応以外。 「弘人君、寝たんですね」 「……抱っこされると寝るのがこいつの悪いところだ」  それより――と続ける友樹。  帰ってきた瞬間に勢いよく立ち上がった裕希君はそわそわしている。怪しいと思ったのかな。  でも友樹、正解! 「歩も裕希も、いつまで玄関にいんだよ」 「久々の外出に疲れちゃったんですよ、俺が」  なんか俺が思っていた事と違うけど、いいか。  もうなんでもいいから、とにかくこの空気を流すから、裕希君にオベンキョーさせてぇなー。 「裕希、弘人寝かしといてくれ」 「あ、うん、わかった……」  相手が友樹とわかった今、裕希君はうまく目を合わせないよう引きつった笑みで目を泳がせている。  気付いているのかは知らないが、察してほしい気持ちもあると思うよ。まぁ俺がヤられるわけじゃないんだけど。  静かに、起こさないように友樹から裕希君の腕に渡った弘人君を最後に一旦録画を終了させた。  すぐ左側にあるドアを開けて姿を消す二人に俺は再び緩む口元を手で塞ぐ。 「……なんだよ」 「わかってるくせにー」  オッケー、でましたよ。  この言葉に友樹は目を見開いて、裕希君が入っていった部屋のドアへ目をやっていた。友樹にしても裕希君にしても、お互いがお互いの事をどこまで知っているんだろうな?  相手にする友樹の名前を出しても裕希君が戸惑った部分は“兄”だからというところであって、決して“兄も男が好きなんですか?”というような返しが全く一切なかった。  もしくは自分の事で手一杯だったから言わなかっただけか?――に、しても、気にするところは気にしてたしなぁ……って、俺が今度悩んでどうすんだよ。  掴んだチャンスを無駄にしないように、弟(仮)×不良くんを撮らせてもらうか!  

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