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厚情
後ろに回していた手は友樹とまだ実は握っていた。
なにも口に出さない友樹だが裕希君が『やらない』と言った言葉を聞いてどう思ったのかキュッと手の力が強くなり、俺の気持ちが半減。
「なんか友樹さん、すげぇ木下さんの事を求めてるんですもん。それなのにセッ、クス、するとか……俺の気持ちが寂しいというか、」
――そもそも俺には付き合ってる奴がいるから。
そう続けて、中断理由を教えてくれた。
なんか……俺マジで最低な立場になってないか?
いやぁ……参った。
「でも、勉強にはなりました。前立腺とか聞いてた程度だったんで」
なんで前立腺はわかってて陰茎は知らなかったんだ、中学生よ。
「なんかこの辺かも、っていうのが頭の中でイメージ出来たというか」
一回で覚えちゃうもんなのかよ……!
有能……!
「本当に、ありがとうございました。最初は戸惑ったけど……友樹さんも、ごめん」
「……」
なにも喋らない友樹に裕希君は悲しそうな顔をしながら弘人君を抱っこして、部屋から出て行ってしまった。出て行って……――って、まじかよぉぉぉ……!
「えー……」
今までのバツか?
友樹に精神的な意味でのお仕置きをしたはずなのに俺がお仕置きされたような言葉を叩きつけられたんだけど?
うわぁ……弟×不良が、出来上がらなかった……。まじかー……。
〝――兄ちゃんおかえり!兄ちゃん、げんきー?〟
〝元気だよ〟
〝ほんとー?〟
〝おう。お前ちょっとでかくなったか?〟
――うん。
〝ぼく兄ちゃんの友達はじめてー〟
〝そうだな、それより、ゆうきは?〟
〝あっち〟
――うんうん。
〝ヒロ、勝手に走るな。危ないだろ〟
〝ごめんなさーい〟
〝はぁ……――〟
〝あ、俺、友樹の友人の__〟
――うんうんうん。
「はあぁぁぁ……」
巻き戻しては再生、早送りしては再生。たまに一時停止をして弘人君の癒される顔や裕希君の焦ったイイ顔を見ながらまた再生。
駅まで迎えに来てくれた可愛い二人に、構う友樹のお兄さん面はやはり可愛いものとしかいえない動画が出来てしまった。
大きな溜め息を吐いてもう一度再生しよう……。
手首を拘束されて、俺の腰に回されてた友樹の腕から攻撃が来るけど……再生しよう……。
「あゆ、む!もうあいつ等いないんだろ?この格好の意味がなくなったんだから外せよ」
「あー、んー……んー」
再生しようとしていた指が止まった。すぐそこにある鞄にカメラを入れてうだうだする俺。
友樹は苛立ちを感じはじめたのかグッと背中に一発殴られてしまった。ある意味、初めて受けた友樹の拳……はぁ……。
「裕希君にまだ理性が残っていたなんて思いませんでした……」
「ん、はぁ?」
まず最初に目隠しをしていた布を外しながら俺の心情を友樹に伝える。
布の色が濃くなっている部分があったからわかっていたことだが、泣いていた友樹の目は真っ赤だ。ここまで真っ赤だとそんなに泣いたのか?と思う。
そんな目元を指でなぞりつつ、密着する体を動かさずに頭の中で繰り返されるは初めての中断を思い出すばかり。
友樹なんて理性がなくなる瞬間だったのになァ……!
「もう、おれ……ここに、なんの用で来たんでしょうか……」
「……」
あぁ、そうだ。
不良総受け長男に、理性を止める事が出来る次男、そしてなにもかもが純粋で可愛い三男の訳あり兄弟を見に来たんだった……。俺のテンションがた落ちだ……!
予告映画を観て『くそカッコいいし面白そう!』なんて感じて、いざ映画館で観れば編集が上等なだけで本編がくそ過ぎるオチなし映画に金を払った後みたいな下がり方!
わかるか!?
「……」
「……っ」
でもま、今までが上手くいきすぎてたのかもしれないな。
初っ端からのテッちゃんは一応、教師相手でも交渉成立していたわけだし。友人の親友枠に入れた磯部の交渉だって、興味があると言うからヤれたわけだ。
俺とのハメ撮りは交渉なんて必要ないから無断で何度も撮っては、じっくり見てるけど……。
「……っ、ん」
「……」
こう、なんか……ダメだ。気分が下がり過ぎていつもの俺が出てこねぇよ。
今回、裕希君の交渉はあの二人より随分と長く感じたせいか、弟×不良くんが突然終わりを告げられると痛いものがある。
痛いもの……痛い……痛い、痛ぇよ。
「ちょっ、あの、友樹さん?さっきからすげぇ俺のモノを頭で押し付けてないですか?痛いんですけど」
「……」
膝枕はまだしていたから。膝枕といっても正座とかじゃない、あぐらで友樹の頭を乗せた感じだから。
すっげぇ友樹ってば俺のチンコに向かってぐりぐりと頭で押し付けてくるんだよ。なにがしたいんだ、誘ってんのか。
「……」
「あー、友樹……」
「……さっきまでは勃ってただろ」
ケロッと、さっきまでの事実を口にした友樹。
「……あー、」
なんだこの二重な苦痛……!
そりゃ、バレるか?なんて思っていたが、こんな伝え方あるか?
ないだろ……まだ誘われて俺がハメ撮りするっていう展開の方がよかった!
まったく、今日の俺ってどんな日だ……。本当にダメかもしれない。ダメージがでかすぎて本調子に戻れねぇよ。
「でももう勃ってないと思うんで」
「ん、」
「手も痛かったですか?」
やっと拘束していた手首を自由にしてあげるために解く。
あとは片付けておとなしく帰るだけだな……。弟攻めなんてなにか確信がない限りチャンスは来ない。つーか友樹相手だったら一生チャンスなんて来ないんだろうな。
惜しいことをした――と、思えば俺は本当に本当の最低人間にでもなるだろうか。でもそう思っちゃうんだからしかたないだろ!
誰に向かって言えばいいのかわからないこの叫びは、
「……歩ってわかっていたが結構、変態だよな」
俺の心の中にある箱に入れて鍵をかけておこう。
「はははっ!――友樹の可愛らしい乳首ちゃん、こねりまくりますよ?」
「遠慮しとくっ」
腕を伸ばしながら意外と冗談なしで言った言葉に友樹は危機的ななにかを感じたみたいで、ふっ、と素早く起き上っては『風呂に入る』と言って俺から離れた。
さすがに寂しいんですけど……。
「うわ、松村からメール来てた」
やる事がなくなってしまった俺は時間を見るついでにスマホを確認すると松村からのメールを筆頭に、いろんな通知が来ていた。
メールの内容……開き直って突っ走ったあとだからか、なお怖い松村様。
もう読まずに削除しておこう。
出来なかった俺は周りが思っている以上にツラいからな。
そうだ、ちょっと友樹のベッドで寝かせてもらおう……あー、ツラい。
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