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よだんだよ
ある日。
「んぁ……ん?」
夏休みでぐだぐだしてても文句を言われない日々。
弟攻めにかんしてはもうなにも思わないさ。ないものを願ったって出来ないんだから、それはしかたがない。割り切りが出来る性格で本当によかったと俺は思う。
そんなひと夏の、俺的に寂しい時を過ごしていたら、いつの間にか寝ていたみたいで……。
窓の外を見るだけでも暑さを感じていたから遮光カーテンをシャシャーッと閉めて、うるさい蝉の鳴き声を聞きながら、寝ていたらしい。
重い、と気付いたのはそのあと。いや、重いというよりは、なにかがある?
カーテンなんて関係なく、すっかり暗くなった外に部屋の電気もついてないから真っ暗だ。しばらくすれば目が慣れて多少は見えるかもしれないが……あー、もしかして。
「友樹っすか……?」
「ん、」
俺に覆い被さる友樹が、なぜかいた。
おかしいな、部屋の鍵はかけておいたはずなんだが……。
「どーしたんですか、急に……」
寝起きはどうしても声が掠れる。ついでに頭の回転も遅くなってて状況を掴もうにもつかめない。やっぱ鍵かけてなかったか?
「なにかありました?」
友樹の背中に腕を回してわさわさと撫でながら聞くと、なんだか楽しそうな声で『べーつに』と言う。
そうは聞いても俺の耳に届いたこの声はなにもなかったとは思えないものだ。
んん?と、だんだん覚めてくる頭に首を動かせばベロリと耳を舐められる。
「ちょ、っと、友樹、寝起きにそれはヤバいですって」
「んー」
――ベロ。
「あーあー、めっちゃ舌入って来てますってば」
「ふははっ」
笑うと同時に吐息も耳に吹きかけられてくすぐられたような感覚におちる。
なんだかいつもの友樹じゃないな……こんなペースに巻き込まれるなんて俺がイヤなんだけど?
目がやっと慣れてきた今、俺は友樹をちゃんと抱き締めているのに、友樹は俺を抱き締め返さず両手が空いたまま。だらーん、とベッドに伸ばしっぱなしで俺の耳元に口を近付けてる。
それだけの格好が見えた。異様にテンションが高く見える友樹に不満があってしょうがない。
ここで張り合ってても意味ないんだが、こういった差はどうかと俺は思う。あんた俺が好きならもっとギュッと来て甘噛みすりゃいいだろ?
そんな子犬が舐めるような舌で、もっとすごいのが出来るはずだ。
「あゆー」
……おっと、俺の知る飯塚 友樹が消えたか。
耳元で囁くというよりは喋っている大きさで、きっと俺の名前であろう言葉を口にしている。何度も何度も、まるで女を呼ぶかのような呼び名で。
「トーモちゃん、俺は歩ですよ。あゆ、じゃない」
「いて……俺もトモちゃんじゃない、」
頬を軽くつねながら言うと、唇を突き出しては拗ねた表情を見せてきて、ちゅっと遊ぶようなキスをしてきた。――おいおい……これ大丈夫かよ……。
それまで気付かなかったことに気付くと、見付かったらヤバいんじゃねぇの?なんて心配になる。
「トモちゃんお酒飲みましたね?」
「トモちゃんじゃない」
「……キリッとしてもいけないでしょ。どこで飲んだんですか?」
途端に良い顔で言い切った友樹。
俺は飲んだ事ないが、わかるだろ。とくに親父とかさ、電車乗っててぶつかった瞬間に、って。
「どこでっつーか……買って、飲んだ」
教えてくれたあとに力なくして俺の首元に顔を埋めてきた友樹。
私服だったら、大人っぽく見えて年齢確認されない、か?……いやいやいや、どう見ても大人なのに年齢確認される時代だぞ。
もしくは買ったところが緩かったのか?
「友樹、なんでこういうところで不良かましちゃってんだよ……」
なんか、ニオイはそこまで嗅がなかったら気にしないが……寮内にうろつかせるのは危ないよなぁ。
万が一を考えて校則違反ではあるが、だいたいの奴等が守っていない、部屋に泊まらせるっていうものをやってみるか。友樹にしろ、中沢や松村も何度もここに泊まったことあるしな。
バレたらバレたで松村を通して五十嵐がなんとかやってくれるだろ。
最後は五十嵐に縋るしか考えられない状況だからな。
「とーもーきー。起きてくださいよ」
「……」
ぽんぽん、と背中を叩く。寝てないくせになにも反応しないとか……もうビデオカメラ持ってこようかな。
無理矢理剥せばイケるだろこれ。
「……」
「……」
酒を飲んだ友樹を意識しているせいかその酒のニオイが強くなった気がする。
こうなるとさらにこの部屋から出してはいけないような考えになり、見付かった時の言い訳を考えつつ、友樹を泊めようと決意。
まぁ今まで見付からなかったし、大丈夫だろうよ。
「ふーっ……とーもき」
「ん、だよ……」
「起きないとくすぐりますよ?」
耳に息を吹きかければそれだけでくすぐったそうに退けた。
こういうのだけじゃなくて、首とか脇腹とか、膝の裏だって案外くすぐったいんだぜ?
友樹をくすぐればどこが一番感じてくれるのか楽しみになってきたんだけど。くすぐったい、イコールで性感帯と俺は思っているからさ。
「嫌だ、お前いっつもそういう方向に持っていく」
「えー?そうしてほしいからじゃないんですか?」
笑いながら言えば今度は顔をふいっと背けられて俺の体の上からおりた友樹。なにがしたかったのかよくわからなかったが、こういった時間も必要なんだと思う。
心が落ち着くというか、安らぐというか。
道でも外したかな、俺。
「夏は嫌になりますね……廊下に出ればもわっと暑さが伝わって、一瞬で汗だくになる」
「……」
「友樹は日本の春夏秋冬だと、どれが好きですか?」
ベッドに座って俺を蔑んだ目で見てくる友樹の肩に腕を回すと、ふいっとまた背ける顔。嫌がらずに俺を受け入れてはいるが、たぶん今の俺が嫌いなんだろうな。
まったく目を合わせてくれなくなった。
「もうなんというか、夏が出しゃばって来てますよねぇ……」
「……なにが言いてぇの?」
でも、やっぱり俺が好きみたいだから、話にはノッてくれるらしい。
そんな素直で可愛らしい友樹に俺はまたもや笑みを浮かべつつ、ベッドサイドに置いてあったある物を手にする。
黒い背景をベースに赤を基調としたロゴ。
人なのか人じゃないのかわからない写真は見ていて気色の悪いパッケージだ。デザインから湧き出てくる、ホラー要素。
友樹、怖いのが苦手なんだとよ。
「これ、一緒に観ましょうか」
「……っ」
爽やかを意識した笑みからなにを考えてるのかわかるぐらいのニヤニヤに変わった表情が俺自身でもわかった。友樹がどう言うのか気になる。
俺からしたら、我が校の大事な大事な不良様はどう怖がるのか気になる!
俺ってば友樹のマイナス要素が好きみたいだ。
「断る、」
「断れません」
「戻る、」
「戻れません、泊まってってください!」
調子付いた俺に殴り掛かって抵抗する友樹の腕を掴んではそのままリビングに同行。
抵抗するのはハメ撮りされてる時だけで十分だ……殴り蹴りの止め方や瞬発力の高さがあってよかった。
嫌がる姿も、怖がる姿も。
ハメ撮りの良さを知ったのは友樹のせいかもしれないな!
「やめろって!おい、離せ!」
「友樹、ともき、ほら座って、ちゅっ!」
「……んん!」
こっちもこっちで遊びのようなキスをしてやれば、薄暗さで見逃しているが、赤面姿の友樹がいるのがわかる。
カメラにおさめられたらよかったのに……!
それと怖がる姿は尋常じゃないぐらいの姿だった……手と間違えて強く股間握られたし、抱き締められたまま終わった気がするぜ……。
――正直、苦しかったなぁ。
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