61 / 114

閑話

  「前半は家に帰ってお盆が終われば友達と遊びたいがために帰ってくんだとさ。部活の奴等が言ってた」  松村が言う言葉に、暑過ぎて漫画に集中出来ない俺は相槌で『へー』とこぼした。  すっかり平和になってきた夏休みの終わりかけ。友樹とも最近は一緒にいることが多くなってきて、ビデオカメラを持ってても考えて疑う素振りを見せなくなっていた。  そこに少しだけ面白味が欠けてテンションが下がるんだが、普通の飯塚 友樹を撮っておくほどの価値ってもんがあると発見したから気にする事をやめた。  あまりの暑さに、やることがない俺と中沢と松村は寮内にある食堂に集まるだけ。  変わったといえば松村がさっき言ったように、地元に帰っていた奴等が戻ってきたりとか、今なんか中沢が寝ていたりとか、そのぐらいじゃないか?  ほんと、なんでこうも休みは逃げていくんだろうな……迫ってくる平日……いや、今日も平日だけど。  ん? 平日×休日?  あぁ、こういった擬人化には興味あって無いものだから、ねーな。 「あ、おーい!木下ぁ!」 「んぁ?」  そんな俺に届いた声。  ちょっと高くて、声だけ聞けばヤンチャ坊主だと思う声。 「久しぶり、木下!松村も!」  振り返れば、隣クラスの()()野郎が俺を呼んでいた。 「おぉ、というか焼けたなお前」 「北海道もやっぱ暑いんだなぁ」  北海道出身で中学一年の時は同じクラスだったな。こいつもなかなかのイケメンなんだが如何せんこいつはノーマルだ。断固として譲らないノーマル男。  が、残念なことに俺はもう古河を2組の寡黙くんと組み合わせて俺の脳内でわちゃわちゃしているんだ。  くっそ萌えてるぞ、ありがとうな。 「これバームクーヘンとじゃがぽー。三人で食べてくれ」 「うおー、俺の好きなものだ」  三人で、と寝ている中沢を指差す古河に、松村の菓子好きに呆れそうになりながらも古河に礼を口にする。 「ありがとな」 「いいや、」  貰った紙袋に広がっていた土産を入れて片付ける。 「そういや木下は彼女出来たか?」 「いや?むしろ見るものもなくなってきて会長と松村ぐらいが保養だったけど」  てっきり土産を置いて帰るのかと思った古河だが、突然の質問。というか、俺も男だからあまり言いたくないが――まだ弟攻めについて引きずってるからな……。  割り切りできる性格でよかった、とか言いながらもどこかで可能性がないかと探してみるが結局、見当たらず漫画小説に逃げるばかりだ。  俺も友樹相手にホモっているけど、あとは変わらず見る側についているから古河が聞く彼女という音声は副音声にて“お気に入りのホモ見つかった?”と無理矢理変えとく。 「俺達で保養するなっ!」  急な振りに松村が声を張って突っ込んできたが、スルー。  王司や中沢だって同じだ。夏休みだからか王司をあまり見かけない。  しかし、中沢と会えば俺からの腐ィルターは健全なもので“王司とあれしたんだなぁ”とか“これしたんだなぁ”とか、もういろいろ妄想しちゃうから。 「そりゃよかった。松村も変わりなくラブラブで」 「いや、そーじゃなくて……」  そう言って抵抗を諦めたのかまだ寝こけている中沢に寄りかかった松村。受け同士の百合百合……カメラ、は、今ない……俺の役立たずっ。  荒れた心に、なんてものはないが二人は本当に癒されるペアだと俺は思うね。松村の心配性は中沢だけにあればいいんだから俺なんてほっといて百合ってればいいのにな。……あー、だめだ。  今はこんな事考えてるんじゃなくて古河達と喋ってるんだ、集中しようじゃないか。 「木下も、変わらず女が対象でよかったよ!」  ……ん? 「はぁ?」  唐突過ぎる。というか、俺も俺で反応がおかしかったような……?  まぁいいか……気のせいっていう言葉は便利にもほどがあるが“気のせい”にしておこう。  ここは男子校、立派な男子校。それでも周りは花が咲きまくってるような学校。相手は男、そんな自分も男というものでも花が咲きまくっているんだ。  ごく一部しかいないノンケ野郎は、ノンケ相手にホッと一息吐く気持ちを俺は知っている。  忘れてるわけじゃない。  ただちょっと友樹に、 「木下、今日――合コンに行こう」  友樹に? 「は?合コン?どこと」 「女子大生とッ」  こりゃ……疑問に思っていた事が吹っ飛ぶぐらいの誘いが来たな。  

ともだちにシェアしよう!