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閑話
そんなわけで俺は一旦、二人と別れて部屋に戻ることにした。
古河の願いだ。しかたなく着替えてやろうじゃないか、と今着てる服からまた新しい服をクローゼットから取り出して準備をする。
財布とスマホと、カメラと漫画。これだけあれば俺はどこへだって行ける。
中沢に連絡した数分後、あいつの部屋に向かえばさっきと同じ服装で“本当に行く気がないんだなぁ”とわかったが、そんなに松村様が怖いか?
まぁ……怖いか。でもそう思うのは俺が松村の怖い部分を知ってるからで実際、中沢は松村のそういった一面を知らないんじゃないか?
知ってたら知ってたでまた違う反応をすると思うんだが……。
「やぁやぁ二人ともー!今日はありがとな!」
約束の時間に約束した場所へ向かえば輝かしいスマイルで俺と中沢に礼を言う古河。
身形もきっちりしやがって……お前そこにいる男と掘り合ってくれば?
「俺はいいんだけどさ、中沢様がなんかあるらしいぜー」
「ん?中沢、様……?どうした?」
ふざけた呼び名に中沢から痛い視線を感じ取ったけど面白いからそのままにしておこう。それよりはやく断って王司のところに行っちゃえよ!
お前は松村を盾に言い訳していたが、本当は王司絡みなんだろ?
結局は王司が絡んでて行けないんだろ!
王司がいなけりゃきっとこの合コンに行けたはずだ。……中沢に、女という生き物を見てほしかった、っていう気持ちもあったんだが。
「人数揃ってなくてごめんな」
「いや、いーよ。もうハーレムになってくるわ」
話がまとまったのか中沢は申し訳なさそうな表情で古河に最後、謝る。古河も古河でバカな発言をしていたが、お互いに気を遣っているのもよくわかる。
唯一のノーマル仲間だもんな、下手に茶化せないよな。
古河如きが中沢を茶化せるわけないんだけど。
「でも人数が揃った方が不憫なくデキあがる可能性もあるだろ」
そこで、俺は二人の間に入り込む。
「そりゃそうかもしれないけど、俺達は高校生だからなぁ。きっと遊んで終わるのがオチかもよ」
一理あり得る古河に頷きながらも、俺はそういうオチがあってもいいけど、と思いながら――指を差す。
ここについた時からすでにいたんだ。喋りに夢中で俺に気が付いてないみたいだが、すごい楽しそうに合コン行くメンツの子と喋る、友樹。
「飯塚先輩はもともと参加してるメンツ?」
「いいや、違うよ。生徒会が終わってちょうど出て来た時にあいつが話しかけただけ」
古河の言う“あいつ”とは今現在、友樹と楽しそうに喋るノンケ君。
名前はなんだったか……二人を目に入れる俺に古河はまた中沢へくどい謝りをしていたから、直球で『じゃあ飯塚先輩を誘うか』と笑顔を浮かべといた。
中沢のかわりに友樹を入れれば数は揃うだろ?
そんでもって俺と友樹は付き合っているんだから、一緒に行けばめんどくさい事にはならないだろうし。
「飯塚センパーイ!」
久々に呼ぶ“飯塚”に少し違和感があったが、古河もいるし、いいか。
話に夢中になっていた友樹は、友樹の名字を呼ばれた反応でこっちに顔を向ける。
その瞬間に中沢は逃げるように『じゃ、じゃあな!』と言って寮の方面へ走って行ったが……まだ避けようとしてるのかね。
もう友樹はなにもしねぇのにー。
「わぁ、中沢のやつ足はやいな」
「古河ァ、もう中沢を誘わない方がいいぞ」
近付いて来る友樹を見ながらクスッと笑って古河に言うと、首を傾げながら『へ?なんで?』と聞いてきた。けど、ここで王司の名前を出すわけにはいかないからなぁ。
同じ仲間として、寮生活を過ごそうとしているヒヨコな古河に伝えたらそれこそ泣き寝入りするんじゃないか?
覚えてない昔の記憶で一人、男と付き合う奴が出来てとりあえず古河に報告したらしい。
そしたら古河は男泣きした、と。
「あー……んー、松村ママに怒られるからですっ!」
だから松村の名前を出しておく。
こいつの名前を出しておけばだいたいおさまるから。
「あ?……あぁ、過保護にもほどがある松村の“愛”な。中沢も感化されませんよーに!」
――もう、遅いと思うぞ?
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