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閑話
松村の過保護っぷりを思い出しながらの苦笑いを浮かべる古河。
そこでようやく友樹が目の前に来て『歩?なんで、』と言いかけた。
「あれ、木下って飯塚先輩と仲良かったんだな?」
「あぁ、そうそう。で、先輩、合コンに行きましょう」
「……は?」
人差し指を立ててストレートに誘う言葉。案の定、友樹は“わけがわからねぇ”と言いた気な顔で固まっている。さっき話していた奴からなにも聞いてなかったのか?
それとも今のこの状況を話さずに違う話をしてたとか?
それはそれでどんな話をしていたのかすげぇ気になるけど。
「今人数足りないんですよ。俺も数合わせなんで先輩も数合わせってことで、いかがです?」
「……」
黙りこける友樹。
この空気が嫌だったのか古河は苦笑というよりは失笑に変わっていて、果てには無理しなくてもいいとも言いやがった。
誰のために俺が友樹を誘ってると思ってんだよ。――とはいえ、友樹にかんしてはほぼ強制的に行かそうとしてるんだけどな。
「まぁあれですよ。飲んで食って……あ、絶対に友樹はジュースでお願いしますよ?弱いんだから、」
「……」
「ね?」
古河には見えない角度で友樹の視線のその先には、俺が持ってきた愛用のビデオカメラをチラつかせる。
データは空のまま持ってきてあげたから。フォルダを見たって真っ黒な画面が出てくるだけ。それにまだ次の相手を見付けてないからなぁ。
「……」
「先に払っとくか?古河」
「え、いや……え?」
画面越しではない俺と目が合う友樹。
合コンの話は、俺と友樹の間で、ちゃんと終わった。やっぱり友樹にビデオカメラは脅しに使えるみたいだ。
「先輩のも立て替えで俺が払うから」
「あ、そう?一人3500円……」
「……」
友樹を気にしながら言う金額は、高い。これで漫画も小説も何冊買えると思ってんだよ……!
四冊、五冊は買えるんじゃねぇの?
「それと制服はまずいよな……着替えましょうか」
財布を開きながらちょうどあった7000円を古河に渡す。
本当に高ぇよ……俺あと3000円なんだけど。
痛い出費にやっぱり行こうだなんて思わなきゃよかったと後悔しつつ、友樹の腕を掴んで寮の方向へ歩き出した。その合コンの場所も聞いてあるから大丈夫。
俺と友樹は後からでも行ける。
「おい、歩……なんで合コンとか――「俺だって行きたくないですよー。でも数少ない友人一人のお願いですから」
あとから行く事を古河に伝えたあと友樹の部屋につけば勝手に人の鞄をあさって鍵を取り、開けては準備を急かす俺。
このまま行かないで友樹といてもいいんだろうけど、さすがにそれは可哀想かな、と思ってやめる。
「とりあえず、行くだけ行きましょうよ。形だけでも」
準備が出来るまでの間、俺はソファーに座って待機。
不機嫌な面を隠さず表してくれる友樹の顔でも撮っとくか?
「わけかわんねー……なんで俺まで、」
「確かに、俺もこれは予期せぬ事でした」
すすっとカメラに手を伸ばして静かに録画開始。
寝室からチラチラと見える友樹の姿はまるで盗撮しているような気分になる。しばらく動かない背中、腕を伸ばしたり曲げたりする動作、ベルトを外して鳴り合う金属音。
おかしなドキドキを背負いながら、座っていたソファーから立ち上がり寝室のそばまで近付く。シャツから着替えてそのあとに下を着替えるパターンか。
俺は全部脱いでから替えるパターンだなぁ。
お、シャツから隠れていた下着がちょっとだけ見えた。
今日は黒か……。
「っ、なに撮ってんだよ!」
「ばれたー」
ふいに振り返った友樹は俺がカメラを持ってドア近くにて盗撮しているのに気が付いたみたいだ。そばにあった枕を投げてきたがなんとか避けて、投げられた枕を手にする。
「なんかトモくんエロかったですよー」
「だから撮んなって……!」
「もう今さらですよね」
イラつきながらもゆっくり着替える友樹はまるでストリップティーズ。
ストリップだ、あれはストリップ。もしくは俺の目がおかしくなったか、それともこの画面越しに見えるものがおかしくなったのか……。
「タッチショーでもやりますぅ?」
「はぁ……?」
最後にベルトを締めながらの声。服の上から友樹の乳首があるだろう場所にツンツンと指を突く。
ま、タッチショーをやってみたくても時間がないから出来ないんだけどな。
「また一つ、友樹コレクションが出来ましたね。DVDにまとめてあげましょうか?」
「……」
服の上からじゃ感じないか?
もしくはその気がないから?
どっちにしても今は合コンだ。ただでさえ怖い顔をしているのに、さらに不機嫌なオーラを出す友樹を苦笑いしながら手持ちの準備もさせて部屋を出る。
その時にはもう録画も終了させてて、カメラはしまってあるから。
ちなみにさっきの着替え撮りは違うメモリーカードに変えて録画したやつだからな。俺の財布を触らない限り、友樹のあれよこれよのデータが見付かる日はない。
「……」
「そんな拗ねた顔しないでくださいよ」
じゃあ準備出来たし、行くかー。
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