70 / 114
トモちゃん
片付けも終わり、それなりの会話をしたあと、スマホで時間を確認すればそろそろいい時間になっていた。
メシも食ったし、このまま戻るか……もしくはまた校則破って友樹を俺の部屋に泊まらせようか。残りの夏休みをどう過ごそうか考えながら動画を見返すのだって最高だ。
立ち上がり、小さなアスレチックの天井にぶつからないように腰を曲げて、直に座っていないがなんとなく尻を叩き埃などを払いながら友樹に話しかける。
「んじゃ、帰りましょうか」
「……ん」
元気ねぇなー。
一見クールそうに見えて表情が暗い。野外は“トモくん”的には良い意味で結構キたと思ったが“友樹”的にはそうでもなかったみたいだな。
一生に一度、あるかないかの戯れだ。いいじゃないの!
友樹の手を引いてやっと出たアスレチック内から見上げた夜空は、幾分か輝きが増してるような気がした。
周りにそれほど明かりがないせいでそう見えるだけかもしれないが、改めて顔を上げるといいものだな。
「カッコいい服も汚れましたね」
「誰のせいだ」
「でも気持ち良かったでしょ?」
そう聞くと友樹は目を逸らしながら『うるせぇ』と言って歩き出してしまった。
今度はさっきみたいに大股で歩くこともなく、俺がすぐに追いつけられるような歩幅で進んでいる。照れ隠しか?
照れ隠しならそれはそれでカメラにおさめたい気でもあるぞ?
すぐ勝手に俺の都合に合わせちゃうのも、しかたないことだと俺は思う。
――だって、何度も言うがあの人、俺が好きだからってぐるぐると渦巻く気持ちのまま行動しちゃって、爆発しようにも俺がいたら出来なくて、さっきみたいなハメ撮りになる展開だってわかっているのに突き放さない。
というか友樹は突き放せないんだろ、俺のことを。
好き勝手ヤられて、強引に気持ちイイ方に結びつけて……なんて、言わなくても友樹は友樹で本音を隠しながら丸見えの表情を浮かべる。
そんな、満更でもない様子を見て、俺は同じ繰り返しをする。呆れてるはずなのに、諦めないところは凄くねぇか?
笑いそうになるなぁ。
「あーあ、待ってるよ」
さっきの言葉に照れて先に進む友樹を撮ろうと、俺の我慢はおさまらずカメラを構えていると友樹は俺に“はやく来い”と言わんばかりに振り返り、立っていた。
右ダイヤルを回しながらズームアップ。
この夜景撮影設定は使えるな。良い感じだし、静か。
どのぐらいこのビデオカメラについて俺は感動しているんだろう。
「とーもーちゃんっ!」
画面越しに映る友樹を見ながらダイヤルを左右に回して遊んでいると、友樹より向こうから男の声がして、途端に友樹は左下の画面へ吸い込まれるようにフィードアウト。
いなくなったのだ。
人物を映さなくなったレンズはただただ黒い景色だけ撮られている。
左右にカメラを回しても、あの兄弟みたいにやって来たふいの人気もあるわけがなく、友樹がさっきまで立っていた位置にレンズ方向を戻したあと、俺は小型画面から目を外した。
――ともちゃん、とか聞こえたよな。
「トモちゃんじゃないか!トモちゃんこんなところでどうしたんだよー」
「……っ」
押されて倒れている友樹の上に遠慮なく跨っている男が、そこに。……誰だ?
録画もなにもやっていないカメラをおろしながら二人に近付く。あの場からでも会話はもちろん聞こえるんだが、ちょっとは気になるだろ?
トモちゃん、って!
「トモちゃん久々だなぁ、変わってないなぁ。相変わらず喧嘩しちゃう感じか?」
「……」
「クールなところも変わってねぇなー」
「……」
「その睨みホント好きっ」
小型画面までは閉じていないカメラ。
ただ手にフィットする感覚に持ちやすさが異常なだけで、あとは違和感なし。
「あ、そうだ。遊ばねぇ?って、時間大丈夫だっけ?」
「……」
「そろそろ俺、トモちゃんの声聞きたいんだけど――ん?」
やっとそこで俺は二人と至近距離に。
突然やって来た男は前髪にヘアピンをつけてて短い髪の毛を遊んでるように跳ねらせたもの。俺の方を見た男の顔はイケてて綺麗だった。
が、性格がもろにわかるタイプで、きっと犬みたいに構って構ってものだろ。まるで窪田みたいな男についカメラを向けては、
「キミ、名前は?」
聞いてしまうノリ。
もはや病気だ。
俺はカメラに毒され過ぎてるのかもしれない。
ともだちにシェアしよう!