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予断
「いや、ちょっと気になったので」
男二人がこのソファーに座ると、ぐんっと距離が縮まるっつーか。普通なら――うおっ、――となるというか……俺の考え過ぎかな。
「……」
「元カレさんが初めての男ですか?え、てか女経験あります?」
「……」
「あ、ない感じですね」
表情で読み取った俺の予想に友樹の眉はピクッと動かして、持っていた雑誌の手に力が入ったのがわかった。殴られるか?
なんて思ったが、
「……ないっちゃ、ない」
「ほー」
殴られずに済んだ答え。
しかしここの野郎達は本来の場所に突っ込まずにいるからなぁ。ある意味、童貞が多過ぎて、それでいてイかせるんだからすげぇ。
男で初めての脱・童貞に入れなければ、ただの童貞だもんな。
「でも、ないっちゃないって言うことは、それらしきものがあったって事ですか?」
言葉の引っ掛かりに食いつく。ないなら“ない”だけで済めばいいのに、なんだかまだ“ある”ような、でも“ない”ような言い方。
まぁここまで聞いても俺的にはあんま得になる話でもないんだけど。
たまには相手を知る会話も、必要だろ。
「……あったと言えばあったし、なかったと言えば、なかった」
「んー?」
友樹がこんなにも遠回しになにか言ってくるとか、今まであったっけ。
「外で遊んでたら女に誘われて、で、ヤろうとしたらよくツルんでた男に腕引っ張られて、」
――そのあとそいつとヤった。
「……」
「……」
「……」
「……はっ!?えっ、そのまま!?」
声を大きく張った俺に耳を塞ぎながらウザそうな顔して頷く友樹。この人の過去ってあさればあさるほど面白いのが出てくるんじゃねぇの……?
持っていた雑誌を閉じて、グダッと体を少し傾ける友樹だが、いま寝られても困る!
個々で過ごしていたならソファーでも俺のベッドでもどこでも寝てていいんだが、このタイミングで寝られても困る!
続きが気になるっつーか……!
「抵抗とかはなかったんですか?ねぇ友樹、ともきってば、ちょっと目を開けてくださいよ」
完全に寝る体勢についたのか腕まで組んで目をつぶってしまった。
「爆音で友樹の喘ぎ声流すぞ!」
「……」
それでも起きようとしない不良くん。
俺は頬に出来た傷を見ながら、膝の上に遠慮なく跨った。俺の行動に不安でもあったのか、ようやく目が開き、合う。
「寝るならその話が終わってからっ!」
「……だから、抱いて終わったっつの」
「ん゙ん゙っ!」
なんて簡潔な話し方だ……もっと詳しく具体的に話してほしいんだけど!?
さんざん不良受け不良受けとか言っても、箸休み程度で不良攻めだってウマいと感じる時もある。だからこそ友樹の話を聞いて、騒いで、冷静になって過ごすのも良いかな、と。
なのに寝る展開があってたまるか……。
「普通だったらなにもなく抱けるわけないじゃないですかー。初っ端で勃つー?なぁなぁ、とーもーきー。愁哉さんは何人目だった?」
「……」
「うわぁ、寝たー……」
がっくり、と友樹の肩にデコをつけて埋める。
洗剤の匂いと友樹の爽やかな匂いで癒しを感じるが俺の気分はもうドロドロに落ちていくばかり。
カメラを持ってない俺ってばもしかして弱いのかもしれない。
友樹の拳を避けれても、こういった話が目の前にあるにもかかわらず食せないまま終わるとは……起きたところでまた話してくれるとも思えないしなぁ……。
つーか、女とセックスするような展開、あったのか……。
近くにあった俺のスマホを手にして、しばらくこのままの状態で時間を過ごそうと考えた俺は友樹の腰に腕を回しつつ片手で操作するスマホ。
俺の中でスマホは大事な物ベスト5に入ってもおかしくない。見るサイトはたんまりあるし、一部だが友樹のハメ撮りも入ってる。
もちろんロックはかけてるし万が一、見られるような場になっても回避出来る自信もある。怒られたらそこまでだけどな。
「あ、」
まるでチャットみたいにメッセージを送れるアプリからアップデート通知がきていた。
改善されるところも今とそれほど変わらないし、通知数が煩わしいからやっとくか。
[ インストール ]をタップしてしばらく時間がかかる表示があらわれてから持っていたスマホをソファーに放り投げる。
暇になった俺は友樹の上から動くことなく、冷え過ぎてる冷房に友樹から暖をとってちょうど良い感じになるほど。
ちょっとの興奮とともに俺も落ち着かせて寝ちゃおうかなぁ。
二人掛けのソファーの使い道、俺としてはこれで合ってるような気がするが――溶け込み過ぎかもしれない。
ま、いいか。寝よう。
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