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余談外
夏休みが終わるまで、あと……いや、逆算するのはやめよう。もう俺は流れるままに日が過ぎて行く傍観者になろうか。
パソコンの右下にあるカレンダーをクリックして拡大。今日の日付とともに出てくるんだが、つい数えては鬱になり、もう一度数えては目を背けたくなるほどの現実に直面する。
そのぐらいで夏休みが終了を告げるのだ。
グルグル回る椅子で半回転し、そこにある漫画を取る。新刊で買っていたものだが読むに読めない日が続いててな。
今日やっと読めるんだ。
「……はあっ」
楽しみを溢れさせながら見開くページで溜め息。
うわぁ……この漫画家の絵、本当に好きだ。受けが女々しくないというか、どちらかというと男前寄りが多い。攻めについては豊富だから良し悪し問わずグッドを差し出したいぐらいだ。
――まっ、これ兄弟ものなんだけどな。
勘違いするな。
俺はもう弟×不良をちゃんと諦めてるから!
この漫画は立派な弟攻めになってるが、ハメ撮りについては諦めてるから!
願わくば……とか思ってないっつの。つーか俺の夏休みの半分がほとんど弟攻めにたいしてもだもだしていたような気がするぞ……どんな夏休みの思い出だ。
「……へぇ、互いが連れ子展開だったんだな」
ストーリー関係なく進みます、なんて事前に書いてあったのにちゃんと物語が整っている。その物語の進み具合は結構なスピードだとは思うが、引きこまれるのも確かだ。
本当の兄弟だと疑わない兄を弟がなにか不審に思い、調べたら知ってしまった事実。それがこの兄弟は血の繋がりのない兄弟だったってことらしい。
ストーリーに申し分なければエロも満載だし、絵だって綺麗だ。これほど満点な作家なのになぜ注目されないのかが、よくわからない。
いや、注目されたらされたで寂しい気持ちも出てくるんだろうけど。
「んー、この人が不良受けを描けば俺はもうファンレターを書くしかないな」
読み終わり閉じた、最高の一冊を本棚に戻す。と、俺はそこで気が付いた。
ソファーの前にあるテーブルに置いておいたスマホの存在に。着信がきてるランプが光っていたことに。
しかもその色が色だから、誰が電話してきたかなんてすぐにわかった。
「父上様じゃないか」
指定ランプなんてそもそも俺はしないから。父親が勝手にいじって、それで俺が色を覚えただけの話だ。
しかしなんだ?
そう思いながら俺は電話をかけ直す。
数コールで出た父親はいつも通りな感じで挨拶したあとに『元気か?』という振り出し。夏休みの間は帰らないって言ったからなぁ。
母親にも今年は帰る気がないと報告していたから。よく会うのは父親の方だけどな。
「元気だよ。……あー、まぁちょっと切ない思い出は作ったけどな」
「生意気だな」
その一言に、恋愛じゃねぇよ!とツッコんで、本題へ。
どうやら父親は今付き合ってる相手と俺の学校近辺にいるらしい。それでいて一昨年に撮った二人の動画データが欲しいって。
わざわざメモリーカードを貰うためにここまでやってきたのか、と。車で二時間弱の距離を走ってきたらしい。
「じゃあ今から学校に行くから校門前で待っててくれよ」
「いや、寮の方でいいぞ。かなり暑いから」
あ、そうかい。
よくわからない気遣いに俺は二つ返事で電話越しにて頷き、電話を切る。
持っていくのはスマホと、メモリーカード……これだな。それと一応、ビデオカメラも持っとくか。相手がいたら撮るし、いなかったら渡して戻るだけだから。
「うわ、マジで暑いな……」
少なからず部屋を出た廊下にも冷房がついてる。が、ここは寮長が設定温度をしているため暑いと感じる奴もそう少なくはない。
暑さを紛らわすために録画はしないでカメラを回すが、なんの紛らわしにもならなかったのは数秒後のこと。――俺はバカか……。
「……――さん、痛かった?」
「は?」
暑いと感じて歩いていた廊下も食堂の前を通るところまで来た。
今の時間はほとんど利用する者もいなくて、静か過ぎると不気味に感じていた。そんな不気味から、ある声が聞こえてきたのだ。
しかも、ここで言えることが一つ。
「俺は……ん、まぁ……歩だったけど……」
やたらと喋るのが遅い、友樹がいるということ。
誰かと話してるみたいで、だけど聞いたことのある声。ちょっとぐらい遅れてもいいだろう、と勝手な判断にカメラのレンズを食堂に向けて、俺は隠れるように立つ。
「きっ、木下さんですか……あの人には感謝しているんですけどね、教えてもらったし」
「……」
小型画面に映った人物は、友樹と血の繋がりのない弟、裕希君だった。
友樹が今日なかなか俺の部屋に来なかったのは――約束はしてないが――こういう理由か。
でもあの裕希君がなんでこんなところまで来てるんだろうな?
しかも俺の名前が出た。どんな内容の話なのか気になる……けど、父親とその相手が待ってるからなー。しかも外は猛暑だ。
学校から寮まで、徒歩で5分ほどだから車なんてあっという間だろう。
そりゃ車の中で待ってたら、待たせてもいい……いやダメだ。俺のために大事な時間を潰されるなんて父親からしたらイラつきの種になるはず。
「あの、今さらですが、あの時はごめんね、」
「もう言うな、今度言ったら殴る」
「え。……木下さん、とも、仲良くしてるんですよね?」
義兄弟の会話。このままいたら盗撮だ。
いくら相手の返事なく録画をするからって、いつもの俺ならもう相手にカメラという存在に気付かせて『あ、どうぞ続けてください』と手を出すわけだが、盗撮は違うだろう……。
よし、ダッシュで父親に会ってダッシュで友樹と裕希君に会おう。それでもってやってくる弟×不良くんとして!
またデキるかもしれないじゃないか!
は? 諦め?
まだまだですけど?
俺も正直ここまで考えるとは思わなかったっつの。でもきっとあれだな、あれ。
さっきの漫画影響!
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