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余談続行

     *   *   *  コインがコップをすり抜けるマジックは、三回ほどやれば誰でも出来るようなものだ。  種明かし動画をついでに見て、練習して、カランッと鳴らせばハイ成功。  弟攻めはやめてもマジック攻めはやめられないからな!  あんなシュール過ぎる攻めジャンルがあってもいいなら世の中どんな攻めもありなような気がしてさ!  マジックでBL漫画にあるんだからメンタリスト攻めがあってもおかしくないんじゃないか!?  イかせるように仕向けて攻めちゃう……ああ? 「……俺は、疲れてるのか……」  父親とその相手の思い出動画の繋ぎ合わせが終わった今、最後の仕上げはDVDに焼いて送るだけ。母親の分はすでに終わってるからいいんだけど。  この人達、息子になにさせてんだって、思うよな。  焼くには結構、時間がかかる。  その時間を利用して可能性のある組み合わせを考えてみたものの、わかるように俺は疲れてるみたいで不可能の可能性を見つけ出そうとしていた。……頭痛くなってくるわ。  けど王司であるドM攻めはちゃんとあるんだ。メンタリストはなくても本当にマジック攻めは、あるのかもしれない。 「むしろ俺がなるかっ」 「ばーか」  完了まであと69%のゲージ。頭を抱えながらもだもだしていたら、後ろから友樹の声が聞こえてきた。  寝室で俺の漫画読んでたんだっけ。 「いや、でもですよ?友樹に触れずに射精したら怖さと興奮で止められなくなるかもしれないじゃないですかー」 「なに言ってるのかさっぱりわかんねぇよ」 「いやだから、」  ソファーに座る友樹に俺も隣に座って必死に説得してみる。  とにかくマジック攻めについて語ってみるんだよ!  可能性を広げんの! 「友樹のココに。ココですよ?」 「……」  ヤる気のない雰囲気で言葉足らずにならないよう、俺は友樹の乳首辺りをシャツの上から指で触れる。 「なにかの音で反応して、感じたりしたら、それこそ恐怖でしょ?」 「んなあり得ない妄想ばかりしてんなよ」 「確かに妄想ですが、なくはない。人間の聴覚と繋がる脳は素晴らしいものですっ」  音だけじゃない。ある動作だって覚えちゃえば興奮して、期待を高めて、感じる事も出来るはずだ。  意味は違くても、例えるならこれだ。  酸っぱいものを想像してみろ。もしくは見てみろ。顎の後ろが痛くなって唾液が多くなってくるだろ。  それと同じことだと思えば、きっと出来なくもない、種。 「話は変わりますけど、どうですか?乳首の感じ方」 「うわッ、おい……っ、急につまむな、」  感度は上がってるように見える。  冗談交じりで笑いながら謝り、俺はその手を離して友樹の腰に腕を回しとく。  ちょうどよく鍛えてあるその体はぴったりフィットするから嫌いじゃないんだ。 「テッちゃんに頼んだ一回目から続いて磯部と弘人君にも責めてもらってるからなぁ。簡単に反応しちゃうのも、わからなくないことですけど」 「なんなんだよ、お前は」  えー?  なんてお茶ら気といてもう片方の手でそばにあったスマホを手に取る。  なんとなく拗ねてる友樹はくっついてる俺を剥がしてソファーに座り、全く一切俺を見ようとしない。体も背けられてるから乳首を守ってるつもりなんだろうな。  笑いそうになる声を必死に抑えながらスマホのホームボタンを押すと、ロック画面状態で表示されたある文字。  それが[ 新着メッセージ、一件 ]だった。  あれだ、この間アップデート通知きていたあのメッセージアプリ。  新着メッセージに欠伸をしながら俺はロック画面を解除してそのままアプリを開く。すると――ん?  あの日、俺だけ追加しておいた、友樹の元カレである愁哉さんから来ていた。  でもおかしいな。追加したのは俺だけで、愁哉さんには俺のIDを教えていない。  俺が相手を追加したからって、こっち側のIDを追加していない相手の画面に【友達かもしれない】一覧に載るのは、まずあり得ない。  だってこのメッセージアプリはそれを盾に、安全第一に作られたものだからだ。そもそも【友達かもしれない】一覧に出てくるのは電話番号を知ってる人達を指す。  お互いがお互い、IDを交換して追加し合わないと、そいつにメッセージなんて送れるはずも、ない。  俺から愁哉さんにメッセージを送れば後に愁哉さん自身で俺のを追加して……そこで成り立つメッセージ同士。  なのに、俺から送ってない愁哉さんから、メッセージが来てる。俺のIDなんて知らない愁哉さんから……どういうことだ?  多少の混乱はしながらも一応、知り合いだ。ハテナマークを浮かべつつメッセージを開けて見てみようじゃないか。 【どうもー!】 【アップデートしたらそこに木下くんがいたから追加しちゃったよー】 ――軽いメッセージだ。  だけど、だからこそ疑問がまた増える。  この人に俺の名前は教えてないはずなんだけど?  つーかアップデート内容はそんなに変わってなかったはずなんだけど。なにか新しい機能が作られたとか、書いてなかったんだけど?  どういうことだ。 「……友樹って元カレさんに俺の名前教えました?」  まだ拗ねるように俺の方を向かない友樹に質問。すると友樹の格好は変わらず『教えてねぇよ』と、つっけんどんな態度。  まぁ、そうか。俺が愁哉さんのIDを追加した時でさえ嫉妬した友樹だもんな。そんな小さな事ですら妬く友樹なんだから、名前なんて……んー?  このメッセージ返すべきか、どうか……。 「……なんだよ」 「あぁ……いえ、なんでも」  俺の事がやっぱり気になるらしい友樹。完全無視、なんてあり得なかった。  チラッと寄越してくる視線を浴びつつ、スマホをポケットに入れる。 「ちょっと外に行きますね、すぐ戻ります」  立ち去る間際に、さり気なく頬を撫でておくのを忘れない。  機嫌直し?  そんな感じだ。 「……カメラもか」 「まぁ、」  怪しまれないようにカメラも持っていこうとしたが、これ普通だったら怪しまれる行動だよな。  友樹も首を傾げながら俺を見続けているし、どう考えても怪しい行動だ。でも友樹の前の俺は、第一にカメラを持ち歩くから。  あまり見ないでほしいな。 「大人しくしててくださいねー?」 「暴れたことないだろ」  機嫌直しの延長戦。ちょっとしたコミュニケーションを続けることで恋人相手の不安や不満を解消出来ることがある。  そんなノリで部屋から出て行き、さらにわざわざ暑い外にまで出て、それでいて5分ほど歩く。  念には念を、とは俺からしたらどういうことになるのだろうか。  学校につき、生徒会があるのか、もしくは教師に休みなどないのか、開いてる昇降口へ足を踏み入れる。  これだけ近ければ“久々の学校だなぁ……”なんて思えず、いつも通り入っていくだけでワクワクなど気分を高まらせるものはない。  というより学校というものに気分を上げる奴がいるなら俺の目の前に出てきてほしい。 「はぁ……涼しいな」  猛暑続きの夏休み。ほとんど外に出ていないせいか、ある空き教室の冷房が気持ち良くてしかたがない。暑がりの寒がりな俺からしたら地獄だ、地獄。  だけどやっぱり気になるから――愁哉さんが俺にメッセージを送れたこととか、それとか、あれとか、いろいろと!  寮内だと中沢、松村をはじめに誰かと会ったらどうすんだよ。古河とかにもまだ女っ気がないから安心だ、って言われてるんだぞ?  それなのに『元カレさん、元カレ、前の彼氏』とか言ってみろ……あの学校だったらすぐに広まるから。木下 歩は生まれ変わりました!って。……いいけどさ! 「さてと、メッセージ?通話?んー……」  俺が愁哉さんのメッセージを読んだ事について、愁哉さんの画面はきっと“読了”表示が付いてるに決まってる。こんなので焦る俺ではないが、友樹の元カレだ……しかもチャラ男。  さらに予想で、ビッチ!――ビッチ受け!  ものによるが、ウマい一つの受けジャンル……。  さらにさらに、 「あ――元カレさん?俺です、友樹と一緒にいた俺です」  友樹の元カレでもある、受け野郎。  

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