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通じる余談

  「うおー、木下くんじゃないかぁ」 「どーもー」  所詮、無料通話だ。普通の電話よりも音声が荒く、たまに宇宙人みたいなバグも発生する。今も愁哉さんはあの日聞いたような声じゃなく、少し違っているような気がするな。  それでもノリがノリだから愁哉さんだとわかるんだけど。 「いきなり通話とかドキドキすんなー」 「あー、メッセージにするか迷ったんですけどね。手っ取り早いんで通話にしました」  出入り口ドアに背中を預けながら持っているカメラを片手でいじる。爽やかな笑いに聞こえる向こうで実はヤったあとだったりしてな……。  若干、声が掠れてるような、そうでないような、まあどうでもいいんだけど。 「なんかあれみたいだぞ?片方が相手のIDを知ってる場合、その相手が片方のIDを知らなくても【友達かもしれない一覧】にそいつが表示されるみたいなんだよ」  俺が質問する前に話してくれた明確な答え。  なんとなくわかっていたアップデート問題に人がいなくても頷いてしまった俺は愁哉さんに『そうだったんですか、びっくりしちゃいましたよ』と空笑いを交えて口にした。 ――だったらそういうの情報入れとけよ開発者!  とはいえ、ここまで来たらもうなにも言うまい。だって現に今こうやって愁哉さんと話してるわけだし。連絡して来ないでください、っていう展開になるわけないだろ? 「それともう一つです、元カレさん」 「あれ?言わなかったっけ。俺の名前、愁哉っていうんだけど」  あぁ、知ってますよ。 「なんで俺の名前を知ってるんですか?」  俺の名前の件だ。これについてはすごいもやもやしているから。  どんなことにしても、あの日の友樹は愁哉さんの前で俺の名前を呼ばなかった。それどころかあまり喋ろうともしてなかった。  だからどうやって俺の名前を知ったのかわからずにいたから、変なくすぐりが胸のなかにあるというか……。 「ああ、そのこと?」  俺の質問に愁哉さんはケロッとした声で、五十嵐の名前を出してきた。 「五十嵐だよ、五十嵐 順平。今は生徒会長やってるらしいな」 「え、あぁ……そうですけど、なんで五十嵐?」 「あいつに教えてもらったかーらっ!」  受話器越しに聞こえてきたのは、語尾にハートマークが付いててもおかしくない言い方。  でも五十嵐?  そりゃ、俺達が一学年の時は愁哉さんの場合、三学年になるから五十嵐と愁哉さんが顔見知りだとしても、厳しい頷きが出来る。  でも、五十嵐? 「あと王司くんからも聞いたな。木下君はいつも漫画を持ち歩いてます、って」  あいつ等は変わらずカッコいいよなぁ、なんて五十嵐と王司の感想を含ませながら届く声。  そこでいじっていたカメラを録画面にして、ズームアップの右ダイヤルを回しながら窓の外を撮った。  楽しそうに喋る愁哉さん。  男にしては高めの声だ。こんな声でチャラ男ビッチなんて、ぴったり過ぎるなぁ。 「……へえ」  どんだけ友樹は愁哉さんを鳴かせてきたんだろうな? 「んで、木下くんっ」  弾むような声。  男相手でもこれならノンケ君だって愁哉さんを抱けるんじゃないだろうか、と思わせるほどだ。気持ち悪いとか、聞きたくないとか、そういったマイナスイメージを出さない人も珍しいよな。  通常なら――って、ここはそういう奴等が集まってるところだったわ。通常も異常も、正常も、ありそうでないもの。  みんなが楽しければそれでいい思考。 「なんですか?」 「いやさぁ?本気で考えてみない?」  変わっていないはずの声は意識とともに楽しくなってきてるせいで、誘い方があまりにも甘い声に聞こえた。  もちろんその誘いというのは、セックスだろ。  こんな誘い方なんて女でもされたことないからドキッとくる――なんてのは友樹に内緒だ。 「俺ですかー……?」  ジーッとズームアップのままにしていた画面越しの景色。  ギラギラに輝く太陽を見ているだけで暑さが伝わるその向こう側。蝉の鳴き声だってよく響く。  俺の声も、よく響いてる。 「木下くんも男だし毎回毎回、っていうのもつまらなくないか?」 「えー?」 「たまにはぶっ込む側もヤりたくない?って話だよ」 「あー……」  ノリノリな愁哉さんが想像出来る。  この電話越しから伝わる内容と気持ちが俺のなにかに受信されてる。が、しかし!  やっぱりこの人は最初から勘違いをしているみたいだ。  愁哉さんは俺を受け役だと思っていること。  どうしてそういった考えになったのかは知らないが……んー、見た目?  漫画とかでは見た目で受けだとわかるものも多いが、現実でもあるもんなんだぁ。もしくは友樹といたから?  そして、これは全体的な意味でもある話だが、木下 歩は――男が対象――と思われてるところ。……なぜそう思われてるんだ。  これも友樹といたからか?  つーか友樹といるだけでホモ扱いにされるのか?  大変だな、それ。  実際、友樹相手ならデキるが……他は考えた事もないし、考える気もないし、そもそも視野に入れてない。そういった勘違いはしてほしくないな。  愁哉さんには聞こえないように電話口から口元を少しだけ離して溜め息を吐く。  勘違いはしてほしくないが、まぁ愁哉さん相手なら別にいいか。  愁哉さんを抱く気なんてさらさらないんだから。 「俺もわかるんだよなー。たまーに挿れたくてしかたがない時とか」 「へ」  それでも愁哉さんは俺の話を聞こうとしてくれてるのかなんなのか、自分の事情を話し始めたのだ。しかも、なんか、固定カプで地雷ありまくりの人が聞いたら、発狂しちゃうような、言葉。 「いやだから、俺も時々“タチ”に回る時があるんだよ。どっちもオッケーなの、俺」 「へー……」  とんだヤリチンビッチがいやがったぜ。  

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