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通じる余談

   でも面白いかもしれない。てか面白いわ、この人ほんと面白い!  友樹の周りは、友樹を含めて面白いって!  なになに?  弟である裕希君は攻め希望だったのが予想外にも受けになったり?  元カレの愁哉さんはタチネコ両方出来ちゃう人だったり?  全然まだまだ他にもあるんじゃねぇの?  隠さず吐きだしてほしいな!  そうすればこのカメラに全部おさめてから参考にして、ハメ撮りや妄想としての材料に使わせてもらうからさ。  いやいやいや、マジで。バカみたいに単調な驚きしか出来ねぇよ? 「だからさ、息抜きに俺ともシてくれよ、木下くん!」  友樹の元カレはタチもネコも、 「タチが出来ないっていうなら俺が挿れてあげるって。人が変わるとなかなかの違いがあっていいぞ?」  どっちも出来て、しかも俺は上手い、みたいな言い方だ。  なんとなくだが、それは合っているようにも見える。 「それともセフレ的なのが何人もいるとか?つか付き合ってる人いたっけ?」  電話越しでやけにテンションが上がってる愁哉さんを片耳に預けさせながら、ビデオカメラに力が入る。  いや、でも、今回の相手は……どうだろうか。 「まさかトモちゃんとか言わないよな?」 「え?」  繰り返して言った言葉に、愁哉さんもまた『え?』と返ってきた。  ん? んん? 「あれ、もしかして友樹に未練ある感じですか?」  流れが変わった?  ぐぐっ、とカメラを持つ手に力が入るのは悪い癖。さっきよりももっと強く力が入ってる、気がするが……知らないフリをしよう。 「未練っつーか……んー、一回はトモちゃんのナカでイってみたかったとは思ってるかな」  あはは、と俺が問いたものに対して笑いながら言う愁哉さん。――あ、もうこれ、俺ダメだ。  こういう発作的なものにも気付いてきた俺は、胸が躍りにおどる。  元カレ×不良くん……元カレに責められる、不良……嫌がるか?  嫌がって嫌がって、嫌がっても元カレさんから受ける快感に果てるか?  愁哉さんがまだ電話越しでなにかを話している。俺になにか話題を振ってくれてるのはわかる。だから俺も怪しまれずにその会話をちゃんと繋げないといけないのは、わかっている。  なのに俺の頭の中は元カレ×不良くんでいっぱいいっぱい……!  そんな静かで冷えるほどになってきた空き教室。その廊下側から誰かの声が聞こえてきた。 「――あっはっはっは!でもやっぱ高校生はいいぜ?見付かったらヤバいが、それ込みで生徒に手を出すと昂るっつーか?」  テッちゃんだ。テッちゃんが下品な笑いとともに誰かと話して……いや、誰かと電話してるんだな。なんて教師なんだろうか……そんなところが良いんだけど。 「――この間さぁ、3Pしたんだよ。さすがに“ネコちゃん”が二匹となると腰にくるな。歳か?いやだなー。え?あぁ、一人挿れてるあいだのもう一人はディルドとかでヤってもらったけど。バイブとかも積極的に持っててめちゃくちゃ喘いでいたぞ。あれにはキたなぁ。チクバンしなきゃ過ごせないとか連絡あったけど……やっぱ夏休みって本当に最高だと俺は思ったね!」  この空き教室の前をゆっくり歩いていたのか、会話はまる聞こえ。どんどん遠ざかるテッちゃんに最後はまた下品な笑いでいなくなる。 「で、どうよ、木下くん」  そしてまだ耳にあててるスマホから愁哉さんの声が聞こえてきて、俺は思わず、 「あ、はい」  そう言ってしまったのだ。言って、すぐに気付く失態に――もう、いいか!――と、頭をフル回転。  元カレ×不良くんで決定だ! 「え、マジで!?」  俺が考えるプランに予想外な反応をあげたせいか愁哉さんは大きな声を出して俺の耳を痛ます。  言わなくてもわかるようにこれは俺と、愁哉さんが、ヤる前提で話を進めようとしている。でも俺は違うから……テッちゃんのゲスな会話に気をとられて、つい頷いてしまった失敗だから!  だけどチャンスは来ている。またメモリーの空きが減るなぁ、ハメ撮りが増えるなぁ、ヤったことないモノあったなぁ、って。  突然のヤり方にポンポンと出てくる楽しみ。  あー……ウキウキするこの心はまだおさえといた方がいいな。  それよりも大事な話がもっとあるだろ? 「ん゙んっ、元カレさん元カレさん。俺の声、聞こえますか?」 「聞こえるけど、元カレさんってやめてくれよー」  咳払いする俺に笑う愁哉さんはすごく機嫌が良い。  単純なのか、それとも性欲しかないから嬉しがってるのか……わからないが、俺は今、空き教室にある机を引っ張り出して壁につけたまま、スマホは壁の方に片寄らせてカメラを両手で持っていた。  もちろんスピーカー状態だ。  ここの教室前の廊下を歩く人なんていないだろうから気にせず大音量で愁哉さんの声を垂れ流す。スマホの画面には登録された愁哉さんの名前で“愁ちゃん”と。  そして電話番号の変わりとなる、IDが表示されている。  ついでに可愛らしいはっちゃけた笑顔の愁哉さんの画像もあるから、これで完全に愁哉さんだとわかる。 「俺の声は遠くないですか?」 「総スルーって悲しーなぁ……まあ遠くないけど、ほんと急にどうした?」 「それはよかった」  声も、機械越しの愁哉さん。  ばっちりカメラをスマホに向ければもう完成!  交渉を始めても、問題ない。  表情が見えないのは残念だが、愁哉さんとこんな暑いなかで会う必要もそれほどないからな。 「ぶっちゃけ愁ちゃんはタチネコどっちがやりたいのかなー?」 「しゅっ、愁ちゃん?木下くんは会った時から面白いな子だなー」  そう言う愁哉さんは、んー……と悩みながらも結局『木下くんが選んでよ』と返ってきた。  なら、話ははやい。 「じゃ、タチでお願いします」 「おぉ、木下くんは俺に負けず淫乱か?ふぅ!」  テンションがさらに上がったような声が教室内に響く。  淫乱だと自覚しているチャラ男か……まぁ自覚があるのとないのでも漫画や小説は面白いからな。開き直りも大事だろう。というか、 「木下くんってどの体位が好きなの?」  いい加減、俺じゃないことも言っとくか。この人ならこの交渉を断るとは思えないから。ヤリチンビッチなんて夏はヤりたくてヤりたくてしかたがないんだからさ!――俺の偏見ではあるけど。 「そうですねぇ……バックで乳首攻めも正直ヤってもらいたいですし、」 「わお」 「正常位で死ぬほど突いて、アレを扱いてほしいですかねぇ……」 「普通だけど大胆だな!」  どこか驚く声を上げながらも興奮している愁哉さんはずっと『いいねいいね!』と騒いでいる。  なにげに騎乗位や立ちバックはしたことないんだよなぁ。ヤってみてほしい……。 「友樹に」 「うんうん!……んっ?友樹、に?」  途端に静かになったスマホ。愁哉さんがなにも喋らなくなったからだ。  どうしたどうした?  一回ぐらいは友樹のナカに挿れたかったんだろ?  未練ある思いを俺が渡り橋になってヤってあげようとしてるじゃないか。  今回は俺の見たい願望だけじゃないんだよ。元カレである愁哉さん本人が、言ったことだ。それがただ、俺相手と勘違いしていただけの話。  俺の中の『あ、はい』は――友樹とヤってもいいですよ――という『あ、はい』だから。  は? 勝手過ぎる? 「友樹って、トモちゃん?」 「いえーっす!」  勝手過ぎるとか、そんなの今さら過ぎて答える気にもなんないな!  どっちにしても愁哉さんからしたら損にならないものだ。俺に抱かれたかったにしろ抱きたかったにしろ友樹を抱きたい、なんて思ってたなら、いいだろ? 「ちょ、ちょっと待て木下くん……友樹は完全なタチだぜ?受け役とかヤったことないはずだけど……?」  少しだけ、不安そうな声を出す愁哉さん。 「いやだなぁ、愁ちゃん。別れてからどのぐらい経ちますか?」 「……まあ、ざっくり言えば半年か」 「そうですよねー。愁ちゃん。人って半年もあれば、なにかが変わるんですよ」  真夏で変わる人間もいるんだから半年なんてあれば、そりゃもうなんでも変われる。なんでだろうな?  意思なんてそうそうに変わる事ないのに。  友樹は愁哉さんを振って振られた後、俺に告白してきたことになるが……その短い間に友樹はどう変わったのか。  いまだにわからないんだ。  

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