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軽々しく余談
「ふんふんふふーんっ」
鼻歌交じりでマジックの練習。
握ったコインが向こう側にある、種も仕掛けもない布の下に移動、というもの。大きさなんて握れればそれでいいらしい。種さえ知ればそのマジックは簡単なものだと。
意味なくここまで練習しているんだ。
別に、本当に俺がマジック攻めをして友樹を快感へ導こうとか、考えてないから。
〝んひゃ、あ、あっ……んん、やだっ〟
〝はッ、ぁゆ、むっ、ふっ……!〟
〝イく……っ、んやあ、アッ……!イくって、ば、〟
イヤホンから流れるいつかのハメ撮り。
教えてないだけでヤることはしっかりヤっている俺達。
セックスする時のカメラにもあまり驚かなくなってきたトモくんだが、どこか嫌がる素振りは変わらず続いているのがこの動画でよくわかる。
基本的に正常位で俺はヤってるけど友樹はすぐに顔を隠そうと、逸らしたり乱雑に置かれてる枕を掴んで顔を埋めようとしたり。
なに可愛い事しちゃってんの?って聞きたくなるほどだ。
まぁそんなことも出来ないよう、逸らされる前にカメラの持ってない手で頭を撫でながらキスしたりとか、掴んだ枕を俺が手に取ってベッドの下に投げたりとか、いろいろしてるよ。
だって見たいだろ?
俺の目にも、カメラにもおさめたい態度だろ?
いつもは俺の言うことを否定して『くだらない』の一言で片付けようとしてる人間がさ、グデグデになって俺を求めちゃうんだぜ?
なんでそんなに俺が好きなの?
笑いそうになる。
〝はぁ、はぁ……はぁ、んっ……あゆむ、ぅ〟
〝ハァ……あー、トモくん、よく出来ましたっ〟
それでいてパソコンのプレイヤーソフトを立ち上げた画面には二人でイった画。俺も無気力状態でカメラの位置がおかしく反転している。
惜しい事をしてるな……まあ、これもリアリティだし、いいか。
ただの余韻なのか、それともピロートークの一部なのか、画面の中の俺は冷房のきいた部屋で汗をかいてる友樹のおでこにチュッチュと口付けをしていた。
どっちもまだ息が荒い。――オスとオスのぶつかり合いは激しいなー。
なんて、友樹相手ではもう何度もヤってきた事なのに動画を見るとつい客観的な思いで見てしまう。
いや、勃つ時は、正直あるんだけど。
「ほっ、と……おー、出来た出来た」
握りはしないが摘まむように手で持って、それをまた片方の手で包み込むように隠した三秒後――机に敷かれてる布へ移動するというマジック。
愁哉さんと友樹の時に渡すコンドームはこのやり方でいこうか。友樹はわからないが愁哉さんなら絶対に笑ってくれる。あの人こそ笑いのツボが浅いというか、予想だけど。
「歩、なにさっきからニヤニヤしてんだよ」
「っ、友樹……いつ起きたんですか?もうちょっと乱暴にドア開けてくれても良かったのに」
耳にイヤホンを付けていたのを引っ張り外してすぐさまキーボードのAlt+F4を同時押しして、プレイヤーを強制的に閉じといた。
「あぁ、イヤホンしてたんだな……」
「クラスの奴から貸してもらったCDを落としながら聴いててさぁ」
なんて苦い言い訳をしてみたものの、ギリギリ間に合ったみたいで友樹はハメ撮り動画を見ていた俺を知らないでいた。
あっぶねぇ……。これでバレたら最近までされてなかったカメラ投げも窓の外にやられていたかもしれない。
あっぶねぇ……。
「えっとー……なにか食べますか?」
沈黙が妙に耐えきれなくなった俺は話の引き出しを頭の中で出しまくる。
さまざまな会話から広げようと思ってな……。
「いらねえ」
そうですか……あぁ、危なかった、本当に。
バレた瞬間が俺の命日だってぐらい。
「てか友樹、夏休み、今日で終わりますけど宿題終わってますか?」
――そして悲しいお知らせだ。
「7月には全部終わらせているから大丈夫だ」
……不良なのにこの計画的な片付け方。
「あ、そうなんですか……友樹は普通にあそこの大学に通うんですよね?もう休みも終わるし、三年はそういう時期ですよね?」
悲しいお知らせと言うのは、夏休みが今日で終わるということ。
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