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軽々しく余談
思い出を振り返ると、友樹の兄弟しかないな。
あとは中沢と松村の三人でグダグダと喋ったりゲームしたり怒られたりしていた……から、やっぱり夏休みの良い思い出にすらならねぇ。
兄弟にかんしては切ない気持ちでいっぱいだし、野外でハメ撮りしたのは俺的によかったけどその後は元カレである愁哉さんが登場して――元カレ×不良くんの組み合わせが待ってる。
しかしこれは夏休みが終わってからの話だから結局、俺の夏休みの思い出は切ないものばかりだ。
別にいいんだけどさ。
「まぁ、大学の件は行ければの話だけどな」
「いや友樹なら行けますよ。当たり前に行けますって」
だってこの人は学年でトップ50位に入ってるわけで、こんな成績でエスカレーター式の大学に上がれなかったら世の中のほとんどの奴等が上がれないし、行けないことになるだろ。
それと、受験とか面倒じゃないか。
ソファーに座る友樹。俺はパソコン前に座っていた椅子から立ち上がり、その隣へ腰をおろす。
背もたれに寄りかかるのではなく友樹に体を向けて、肘を背もたれに置きながらコメカミ辺りを手で支える。もう定番となった座り。
「……」
「もしかして他のところに行こうとしてます?」
受験が面倒なんて俺が考えてるだけで、友樹はどうかわからないからな。愁哉さんみたいに県外の学校へ行く可能性も、なくはない、ことだ。
でもやっぱ、ここの学校は全体的にいいし、変える理由もそれほどないと思うんだけど。
「知らねぇ。あんま考えてないっつの」
俺を見ないでまた雑誌を手に取り開く。
夏の終わりの高校三年生とは、いったいなんなんだろうか。進学校だから難しく考えなくてもいいんだろうけど、それにしてもこの余裕は……。
喧嘩っ早くても、極秘騒動まで起こすような人でも、頭が良けりゃなんでもいいものなのかね。
頭脳派不良くん?
「なんか機嫌悪くありませんか?」
「そんなことねぇけど……」
「ほら、なんか言いたげ」
友樹に指差す俺は調子に乗って、肩に腕を回しながらその指で頬をツンツンと突く。そうするとさらに不機嫌面を浮かばせながら少しだけ顔を背けようとする友樹。
なにがあって機嫌が悪いのかは知らないが、この人……昨日からずっと俺の部屋にいるから。一歩も部屋から出てないからな?
ちなみに昨日、最後に見た友樹は――俺から見て、だけど――楽しそうにしていた。少なくともこんな表情になるような事はしていない。
なんだ、急に。
友樹のメンタルが実は弱いのも知ってるけど、さすがにこれは……。心当たりのないものになると考えても無駄になる。
だったら直接本人に聞くしかない。
「ほれほれー」
言ってくださいよー、と伸ばし伸ばしで話しながらまた頬を突く。
ここで殴ってきたり、怒ったら、少しは反省しとこう。
「……」
「とーもーきー」
「……」
「言えないんですかー?」
「……っ」
下から覗くように友樹の顔を見れば、なんだろう、見間違いか?
トモくん、目が潤んでるぞ?
「あれ、友樹、もしかして泣きそうですか?」
「……」
例えば、転んで痛みに耐えながら固まってる小さい子供にたいして『あー、泣く?泣いちゃう?泣いちゃうのかい?』と煽ると、本当に泣く時がある。
逆に『痛かったな、でも泣かなかったな、いい子だ』と褒めちぎると、子供は泣かない。
俺は前者側であり、友樹に同じ事をしている。
子供は泣いた瞬間に抱き着いてくるんだけど、そこがまた可愛いというか……実は俺、子供はそんなに好きじゃないんだけどな!
「なんで潤ませてんですか?そんな空気でしたっけ。進路を聞いただけじゃないですか」
「……うっせ、」
「うおっ」
聞こえるか聞こえないかの声。友樹はウザかったのか俺の顔をわし掴みして退かされてしまった。
指の隙間から見えた友樹は、目元をおさえていたけど。
「泣く理由がよくわかりませんよー」
「……」
「俺なにかしました?寝室になにかありました?また変な嫉妬的な?」
「嫉妬じゃねぇよっ」
「……」
そこは別に……はっきり言わなくても……。
ちょっと期待して甘やかそうとしていた俺がバカみたいじゃないか。
でもまぁ、嫉妬じゃなかったら他になにかがあったって事になるよな。否定するところは否定しといて、あとはなにも言ってない。
んー……寝室になにかあったか?
ベッドサイドに常備してるローションとコンドームしかないはずだけど?
「教えてくださいよ、ここで進まない会話をしても時間の無駄だと思いませんか?ならその時間を使って俺は友樹とイチャイチャしたいんですけど?」
顔を掴まれていた手を剥しながら、いつの間にか俺に背を向けていた友樹に話しかけて、無理矢理こっちに向かす。
どうでもいいけど、振り向くさいになびいた短い髪からシャンプーの匂いがしたんだけど。友樹の黒髪は本当に良い髪なんだろうな。
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