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余り道談

  ――数日後。  制服をこれでもかと着崩している窪田も、私服はわりとおとなしめな格好だ。 「あ、木下先輩、もういたんですか?遅れましたー」 「いや、平気だ」  そもそも窪田との時間は16時30分に高等部の正門前と伝えてある。  遅れたと言っているが、10分前行動の窪田。つまりこれは“先輩よりも遅くに来てすみませんでした”という後輩なりの謝罪なんだろう。  そんな無茶な謝りすんなって話だ。嫌いじゃないけど。  変わらず暑いまま日々が過ぎている今日は日曜日。もちろん夏休みという超大型連休を過ごしてきた俺等からすると一日、二日しかない休日なんてすぐ終わるものだ。  あと24時間後のことを考えると、俺と中沢と松村がまたそれほど話さなくてもいい話題を口にしながら寮に戻ってる時間かな。 「でもなんで夕方からなんですか?俺もっとはやくに遊びたかった!」 「んー、それは悪かったなぁ」  そして心の中でもう一度、ホントごめん、と謝っとく。  友樹には昨日、直接『明日、遊びましょうか』と誘ってある。それにたいして友樹はなにを思ったのか、しばらくの間が空きながらも頷いて、俺は時間を伝えた。  愁哉さんにはもっと前に連絡していたが、メッセージで返信すればいいのにわざわざ通話でテンション高めの『りょーかい!それでさ――』と無駄話に付き合わされてしまった。  まぁ、なにはともあれ、この日を迎えられて俺の楽しみはこの持ってる荷物にかかってるわけだ。 「おっと、時間になるな。行くぞー、窪田」 「えっ、時間?あ、ちょっとどこに!?」  ぴろ、と取り出したビデオカメラ。  この先を歩いたところに友樹がいるはずだ。それでもって愁哉さんも。  友樹を誘ったのは昨日だけど、つい数分前に『すみません、少し遅れます』と嘘の連絡を入れている。実際ずっと待ってても俺は来ないわけだが、愁哉さんは来る。  あの強引な愁哉さんなら友樹相手でも腕を引っ張って遊びに行くことも出来るだろ? 「てか先輩、最近カメラにハマってるんですか?この間も持ってたような……」  ある程度、歩いて進むなか窪田はわけがわからないまま付いて来てくれてて、話しかけてくる。  窪田が疑問に持つカメラについて返事をしようと思っていたんだが……お、友樹はっけーん。  録画をここで始めよう。 「ハマってるというか、ハメてるというか」 「はい?ハメてる?」 「お前あの人、知ってるか?」  流すように次なる話を変える俺は遠くの方にいる友樹を指差した。  ラフ過ぎる格好でもカッコ良さが目立つその姿は不良のイメージよりも“カッコいい人”に印象が変わって見える。  黒のTシャツにジーンズだけだぞ。あ、でも今日はゴツイ指輪とかアクセサリー付けてるなぁ。最近、見てなかったから懐かしい。 「えー……あぁ、高等部の飯塚先輩じゃないですか」 「あ、知ってた?」 「知ってたもなにも中等部では憧れてる人とか多いんですよ?」  憧れ?  てか不良系とか中等部にいたっけ。いたとしたら惜しいなぁ。まったく、俺のアンテナが狂ってやがる……。 「あんな怖そうで喧嘩もちょー強くて、もうグレてます!って、あの学校で不良様が生き残ってるのは飯塚先輩ぐらいじゃないですか。それでいて生徒会にも入ってるんですよね?てか、あれって誰か待ってるんですかね?」  そんでもって窪田は小声で『やっぱかっけーなー』と呟きながら友樹を見続けてる。成りきれない不良だもんな、お前。  右ダイヤルを回して俺を待つ友樹を撮りながら頭の中で憧れそうな中等部生を考える。が、ほとんどの奴等は“不良っぽい”というグレーゾーンにすら引っ掛からず、俺の妄想も厳しくなるだけだった。 「あ、木下先輩、」 「おっ」  話しかけてきた窪田と同時に小型画面に映ってきたある人影に反応する俺。 「誰か来ましたよ?……随分とチャラい人ですね。あ、なんか先輩相手に申し訳ないですが不良×チャラ男っていいですよね!?」  その人影とは、愁哉さんだ。  んでもって窪田君よ、そのジャンル組み合わせはもう終わってるものであって、次はその逆なんだよ。  

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