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余り道談
片手を上げながら友樹に近付いて、なにか喋っている愁哉さん。だけど友樹はわかりやすほどに嫌な顔を浮かべながら黙っていた。
そんな二人を映す小型画面を見ながら俺は思わず吹き出し笑い。
「木下先輩?」
「いや、なんでもっ」
周りから見れば俺と窪田は怪しいかもしれない。一人はカメラを持っていて、一人は電信柱に隠れるように覗く向こう側。通報は、ギリギリされないだろうけど。
画面越しで友樹と愁哉さんをずっと見ていると、友樹の腕を引っ張って行き先を指差す愁哉さんが撮られている。なんか、声は聞こえなくても動きでわかるというか……。
足を止める友樹。愁哉さんは苦笑いをしながらスマホを取り出して、友樹にその画面を見せていた。
たぶんだが、あれは俺が愁哉さんへ送ったメッセージだろうな。
“体調悪いんで友樹と二人で遊んでください、すみません”
こんなメッセージ。
もちろん茶番だ。事前に愁哉さんには、こういうメッセージをあとで送りますので、と通話で言ってあったからな。協力してくれて感謝してるよ。
「あ、飯塚先輩とチャラ男さんが行っちゃった……俺達もそろそろ遊びましょうよー。カラオケとか!」
「カラオケはまた今度だ、行くぞ」
なんだか口論していたようにも見えたが、さすが愁哉さん。嫌がる友樹を無理矢理連れてった姿をこのカメラがおさえる。
窪田にもそうだが、今回の友樹にはなにか詫びでもいれとこう。どうせ俺はこのあと友樹と愁哉さんに会うんだからさ。
「せ、んぱい……」
まあ、これが目的だからって勢いで来たとはいえ――どーん、と並ぶホテル街。
「えっ……きのした、先輩……?」
なにも知らない奴からしたら動揺は、するよなあ?
学校の最寄駅ではあるが、一つだけ欠点がある。その欠点とは東口、西口、南口とあるなかで、西口の雰囲気がやたらと妖艶だからだ。
学校に向かう場合は南口方面だから通ることなんてまずない。
「木下先輩!?」
「あぁ?」
というか、この三つのなかで安全な場所って南口のような気がするなぁ。
「なんで!?なんでこんなところに!?ここってラブホばかりで俺達が遊べるところはないはずですよっ!?」
一旦、足を止めてしまった俺達は小型画面に小さく映る友樹と愁哉さんをカメラにおさえておく。ただ興奮状態に陥ってる窪田は俺の胸ぐらを遠慮なしに掴んで揺さぶってくる。
こんなラブホテルばかり並ぶ場で、どこか勘違いしてるんだろなー。それもしかたがないというか、こいつの反応が一番に合ってるというか……。
「退け、行っちゃうだろ?」
「行っちゃう……?てか、あれ?飯塚先輩とあのチャラ男さん……――ラブホに入った!?」
叫ぶ窪田に胸ぐらを掴まれてる手をほどきながら引っ張って、俺は二人が入ったホテルへ直行。
窪田の手が震えているが、ちゃちゃっとネタバレしてやるからもうちょっと黙ってろよ。
なんて俺しかわからないものを窪田に当たるのはよくないな。
「窪田」
「……はいぃ」
しょうがない、落ち着かせる言葉でも放とうか。
「掘らねぇから、安心しろって」
振り返って言ってやれば、窪田はプルプルと涙目になっていて、不安たっぷりな表情を浮かべていた。――そういう反応するから学校にしろ寮にしろ襲われそうになんだよ、お前は。
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