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吐く情

  「っ……嫌だったけど、ヤんねぇと、だろ」 「……」 「ふ、んっ、」  そうは言っても……。俺が思ってるのは――いつもの友樹じゃなかった――って事だから。  ヤらないといけないにしても、抵抗は見せていただろうよ。もし仮に、今回も抵抗していた、と言うならあそこか?  愁哉さんと待ち合わせ場で会って、嫌な顔を浮かべていたあそこからか?  それでこのラブホに来た時にはもう諦めたと?  俺がいるのに?  ……ん? この考えは、自惚れすぎか。 「嫌がる姿もハメ撮りの一つでしょーよ」 「……それこそ、今さらだろ」  んー、確かに。  またイヤらしい音を立てながら指を抜いてシャワーで洗い流したあと、軽く友樹の尻にシャワーをあてる。敏感な体になってるせいか大きく上半身を揺らして反応していたが気にせずもう一度、指をナカへいれた。 「ぁ、もう、いいっつの……」 「念のためです」  ちゅっ、と耳にキスしてあげるとキュッと締まったソコ。  感じてるくせに感じてません、といったすまし顔……でも、ないか。  くっつき過ぎてて表情はあまり見れないものの、回ってきてる腕の力でわかる。それでいて頭をすり寄せてくるこの行動は無意識なのか……無意識でやってくれてるのかトモくん。  こんなんだったらあのサラサラな感触を味わうために髪の毛は濡らさなきゃよかった……。 「も、ほんと、いい……っ、あゆむ!」 「わかってるわかってる」  どんだけ拒むんだと思いながら最後、多少乱暴染みたナカのかき回し方に感じまいと体勢していたはずが、少し前立腺をかすったみたいだ。これは謝るしかないな。  そう思いながら、ついでに耳たぶを舐めて指を抜いといた。 「んっ、なに……?」 「なんでも、」  やっと顔を合わせた俺と友樹。  濡れてる影響かエロいなぁ。 「……嫌がらなかったのって、本当にハメ撮りのせいなんですか?」 「……」  終わる話も終わらせないのは、俺が納得していないから。  今までの事を考えると、どうもハメ撮りだけじゃないような気がする。勝手な考えだし友樹本人が、そうだと言えばもうなにもツッコめないんだけどな。  しばらくジッと見つめ合う俺と友樹。シャワーの音しか聞こえないが、変に口を開けばその言葉の方が響き渡りそうなほど静かだ。  ぬるま湯設定でも冷たさを感じるのは濡れた服のせいか。 「ハメ撮りはハメ撮りでも、いつもなら俺を見てくれるのに今回は見向きもしませんでしたね。あれって俺の恥ずかしい勘違いですか?」 「……いや、」  呟いて、目を逸らす友樹。  うわぁ、それに傷付いてる俺がいるんだけど? 「へぇ、目ぇ逸らすんですかー」 「違うんだって……」  顔を両手で固定するように俺の方へ向かせるが、なにを意地になってるのか友樹はまた違う方向に首を動かし、俺の手を離そうとしている。  そんでもって、チラつく。  左耳に三つあいてるうちの一つのピアス。  気になるものだ。  どうでもよかったと思えてた物もどんなタイミングでこんな気持ちになるのかは実際、知らなかったし。  今まで、女相手にはこんなこと思わなかったからなぁ。 「なにが違うんですか、言ってくださいよ」  ピシッ、と嫌味で左の耳たぶをデコピンするかのように指で弾く。  微かな痛みに眉をピクつかせていたが、それどころじゃないのは目に見えてるだろ? 「……」 「友樹さんはまさかのここでダンマリですか?」 「……っ」 「ということは、本音を言えず、実は今までで一番気持ち良かった、と……」 「だからそれは違ぇってばッ」 ――じゃあ、ほら、どうぞ。  俺の無言の圧力に友樹は気付いたみたいで顔からわかる、うっ、としたもの。  そんなに言えない事なのか?  逆にそれはそれで気になって友樹の口から吐き出してくれるまでなにかしらヤるけど?  まだ時間は余裕あるだろうし。 「トモくん、ここのお風呂すごい大きいですね」 「っ……だから、」 〝トモくん〟パワーすげぇ。ビデオカメラなんか持ってないのに白状してくれるわ。 「なに?」  濡れて前髪が額に張り付いているのを指で横に流しながら、聞く。 「……嫌だったし、歩にも、やめてもらいたかった、けど……」 「うん」 「……俺が嫌がるの、あいつ――愁哉はそういうの好きだから……」  うん……? 「あまりあいつを喜ばせたくなかった、つーか……嫌なんだけど、さっさと終わらせてもう会わないようにしようかと思ってッ、ちょっと受け入れただけだ……っ」 「ふーん……んっ!?」  最後まで言い切る友樹は突然、涙を流し始めてしまった。  急過ぎて俺が対応出来ねぇぞ……なんで泣いた!?  友樹の涙腺はもうゆるゆるか?  あーあ、どうすんだよ。 「ともきー、泣かれたら俺が悪いみたいじゃないですかー」 「もとはッ、お前がっ」  あー、はいはい、そうですね。俺がハメ撮りで元カレさんを選んだのが悪いですね。  気付くのは遅かったが、俺だってわかってんだよ。  始まる前まではあんなにも楽しみにしていたくせに、今ではこんなにも後悔してるっていう。つーかこういうので後悔するのって初めてじゃないか?  もしくは最初に選んだ三人が――弟攻めはもう論外だが――運良く当たっただけで、本当のハズレを今回は引いたのかもしれない。  いや、マジで、中出しする奴だとは思わなかった。  なんのためにテッちゃんへ『ゴムくらい付けろ』と言ったと思ってんだ。  なんのために早漏磯部へ厚いゴムを渡したと思ってるんだ。  なんのために裕希君へリスクを伝えたと思ってるんだ。  同じ受けのくせに。……まあビッチには敵わないな。思考がズレてるというか、常識を超えてるというか。  悪い意味で。 「ほんっと、歩がわかんねぇッ……期待してたら落とすし、落とされたらまた期待させるし、なんなんだよ……!」 「そんな目ぇ擦ると赤くなりますよ」 「誰のせいだよ!」  おれ?  ゴシゴシと腕で涙を拭う友樹は遠慮なく泣き続ける。俺がわからないと言ってたけど、俺も俺自身がわからないから、しかたがないだろ。  今知った、みたいな。こんなタイミングだけど、このタイミングだからこそ気付けたというか。  元カレである愁哉さんがハズレと言うけど半分はぶっちゃけ当たり人かもしれない。ハメ撮り的なものではなく、俺自身の気持ちを気付かせてくれた当たり、というか……。  上手くは言い表せない。言い表せないが、 「友樹、正直な話してもいいですか?」 「……ん、」  情けない話――これは、嫉妬していたんだろうよ。  友樹がこっちを見ない、当たり前だが他の“男”と触れている、俺をいない者扱いしていた。  友樹と愁哉さんの二人だけの世界に、耐えられなかった。  それだけだ。 「そのピアス、外しといてくれません?」  

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