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迂路
* * *
「あー、そうそう。そこに金入れれば出れるから。違う、お前が払うんじゃない。渡した漫画の袋の中に金が入ってるだろ。――あ?俺?帰るけど。は?道がわからない?お前かわい子ぶるなよ、そんなわけ……あー、いいや、じゃあテッちゃん呼ぶから。それで帰れ」
繋がっていた電話を切ろうと耳からスマホを離せば『酷いっすよ!?』なんて窪田の声が聞こえた。切るけど。
そんでもってテッちゃんに連絡して、悪いが迎えに来てもらおう。まさか、道がわからないなんて言うと思わなかったけど。最寄駅なのに。バカにもほどがあるぞ。
まあ、それでもそろそろ三時間経つから出てもらおうと、精算のやり方を電話で教えていたわけだが……はぁ、あいつ牢獄部屋で一人漫画読んでたんだなー。
申し訳ない事をしたと本当に思ってるから、カラオケだっけ?
連れて行こうじゃねぇの。
「つーか、パンツまでびしょ濡れだと気持ち悪いですね」
「ドライヤーじゃ限界あるだろうが」
ブォォっと一生懸命、俺のジーンズを乾かしてる友樹。
俺は今シャツに下着姿だから。シャツと下着はなんとか、友樹のも合わせて着れる程度になったがジーンズはダメだな。俺と愁哉さんは体系が似てるからジーンズを交換しようか考えてる最中だ。
「歩きですし、それまでの我慢ですね」
ハンガーで掛けていた俺のジーンズを取り、気持ち悪い感覚に襲われながら穿く。
うおぉ……これは強烈だな……。まだ暑い熱帯夜だから蒸しそうだ。
「で、友樹の準備は?」
「ん、出来た」
「じゃあその人、無視して帰りますよ」
持ってきた荷物を持ちながらドアノブに手をかける。ついでに俺はここの部屋の金は払っていない。聞いたら先払いしてたんだとよ。
ただ、時間が経てばこのドアも精算機に払うまで開かなくなる。追加料金を取られる方が結構な額になるが、あの人持ちでいいとか自分で言ってたからな。
「おーい、なにしてんだよ」
なかなか来ない友樹に振り返ってみればまだ気絶してる……いや、もしかしたら寝ている愁哉さんの隣に座り込んでなにかをやっている友樹がいた。
こりゃ待ってても来るわけがない。つーか、俺の口。敬語で言えっての。チラつく独占欲?
いやいやいやいや……困ったな。
「ピアスは外したはずですよ?」
「い、や……これと、あとこれ、それとコレも。付き合ってた時にくれたやつ。全部こいつからなんだよ」
「……はあ?」
そう言ってどんどん外していくアクセサリー。仕舞いにはなにもなくなってるけど?……全部、愁哉さんから貰ったものだったのか!
「あのさー、友樹さーん?」
「……」
「もし、仮に、これが、本当に、俺と二人で遊ぶ日だったら、って考えると……すげぇムカつくんですけど」
「でも遊びじゃなかっただろ」
「だから仮にって言いましたよね」
「……」
そして黙る友樹。
なんとなくその態度にイラつきを覚えてしまい、俺はつい煽ってしまう。
こういうのがあるから、ピンクの感情ってめんどくさいんだよ……いいんだけど、いいんだけどさ!
「はぁ……あんだけ泣いてたのに、気持ちはまだ元カレにあるんでっ「ねぇよ」
はやい。
「……それで全部?」
不機嫌面丸出しで聞くと、愁哉さんの周りに金属製のアクセサリーをたくさん置いて友樹は立ち上がり、ようやく俺に近付いてきて頷いてくれた。
気のせいか……?
友樹の表情がだいぶ嬉しそうに見えるのは、気のせいか。
「軽くなった」
「……悩みもぶっ飛んだでしょうよ」
「ほとんど歩のせいだったろ」
友樹の顔が赤くなってるから、やっぱ気のせいじゃなかったみたいだ。
良い表情だな。
「はい」
「……」
ホテルを出た瞬間のビデオカメラ回し。横目で相手する友樹はもう完璧に慣れた様子だ。
いろいろ“葛藤”していたものが『ピアスを外せ』発言で蟠り が取れたらしく、スッキリしたような表情がカメラにおさまっている。
もうこのカメラを見たって嫌な顔一つしないんだ。誰かとヤらずに済むとでも、思ってるに違いない。――その通りだけど。
でもハメ撮りにかんしては、やめないのをトモくんは知ってると思うか?
本来の“ハメ撮り”っていうのは当事者のみで、つまり俺が友樹とヤってる時に撮影する行為だからな?
「今日、俺の部屋に泊まります?さすがになにもしませんよ」
「じゃあ行く」
どっちにしても来るくせにー。
素直じゃない不良受けくんだなあ。
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