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休息談
これ、いつか怒られるんじゃね?――俺が。
「おはようございます、友樹」
「……んん」
寝返りしただけで、実際は起きてないみたいだ。
あの日からもうずっと。
ヒヤヒヤしながら友樹を俺の部屋に泊まらせたり、俺が友樹の部屋に泊まったりの繰り返しで、いつ誰かにバレてもおかしくないような頻度。
いや……いいんだけど、いいんだけど!
最終的には五十嵐から言われるじゃねぇか……。
友樹はまだ一個上の先輩で、しかも同じ生徒会役委員として一緒だからほんの軽い注意なんだろうけど……俺はどんなのかなァ。
恐怖過ぎて最近、朝の5時前とかに起きんだけど、どうしよう。
なんてらしくもない考えをしてた今日は金曜日だ。学校はもちろんある。寮から学校まで、行き帰りはずっと一緒に向かってるからな。
そろそろ松村以外にもバレそう……つーか絶対にバレてる。バレてもいいんだけど、部屋の泊まりがバレたら……と、考えるだけで無断欠席をしたくなるぜ。
この学校での校則違反なんて誰もが破ってることなのに。
こうやって悩んでるあたり俺ってば本当に真面目だ。
「……寝返りしたとはいえ、友樹。本気で起きないと遅刻しますよ。今8時過ぎですから、ねぇ」
肩を掴んで揺さぶっても起きず、今日は一段と眠りが深いんだな、と。
溜め息を吐いてまずは俺だけでも準備しようか、なんて考えていたら――ピンポーン――と設置されているインターホンが鳴った。
同時に俺は、めちゃくちゃ焦る。
なんで、って……それはこのインターホンを鳴らすなんて寮長か、五十嵐しかいないからだ!
やべぇ、どうしよう。つか朝っぱらからなんの用だ。そんなに大事な用ならまずは連絡の一つや二つ入れろよっ。本当にここの奴等はスマホを利用しないバカばかりだな!
ベッドの上で、狭いシングルベッドの上で、俺は一人固まっていると、また――ピンポーン――と鳴った。
これもうあれだろ。俺おしまい的な、あれだろ。
もういいや……友樹さんはどうぞここでゆっくりお眠りください……。あとでカメラ設置してナニかやるから……覚えてろよ……!
そう思いながら俺はおそるおそる玄関に近付いて、ゆっくりドアノブをひねっては開けた。隙間から見える、偉そうな格好した、いがらし、が――あ?
「よう、木下。今日辞書いるってよ。ついでだから一緒に学校行こうぜ」
「智志がお菓子持ってきたから食べ歩きしながら行こう」
「……くそっ!」
俺の恐怖心返せ!
なんで中沢と松村が来てんだよ!
しかも辞書とか、それこそメールなりなんなりで送って来いよ……!
まじで五十嵐かと思ったじゃねぇか!
つかなんで俺はこの二人にかなわねぇんだろ……。気持ちの関係とか、あるんだろうか……。
「いや、あの、辞書な……さんきゅ」
「元気ねぇな?木下」
「ほら、智志の菓子やるからはやく支度して来いよ」
お前達の心配はありがたく受け取るっつの。
つーか別に俺は一緒に行ってもいいんだが……問題が一つ。
「今、友樹がいるんだよなー……」
松村から貰った中沢の手作りクッキーを一枚食いながらボヤッと呟いた。
俺としては、もう中沢にも言っちゃっていいんだが……。
「……平三、俺やっぱ先に行くわ」
「え、智志?」
肝心の中沢が、こうだもんなぁ。
しょうがないと言えば、しょうがないんだが……。でもいつまでも隠しておく、というわけにもいかないし。そもそもまず俺がノーマルじゃなくなった事も伝えないと頭狂うだろうし。
――中沢自身もそっち側に行ったのになぁ。
「てか木下、校則違反だぞ」
「しょうがねぇじゃん。お前達みたいに一緒が出来ないんだから」
考えてみれば俺だけ歳の差かよ。
んー、友樹はなんで不良くんなのに頭がいいんだ……頭さえ悪ければ留年して俺と同じ学年になれるのに。
と、ここでハッ、とする。
「……んー、とりあえずさ、今日は悪い。また教室でいいか?」
その言葉に中沢は首を傾げつつ、松村はなにを思ったのかうるさい事を言わずに『そうか』とだけ返事をして、二人は仲良く学校に向かって行った。
やっぱ理想の受け×受けはあれだよな。
セックスなんて激しく飛び抜けたものをヤると、崩れる。松村×中沢の純愛って素晴らしいな。……二人とも違う相手がいるんだけどさ。
パタン、と玄関を閉めた後に振り返れば友樹がやっと起きて来て洗面所に向かう途中だったところを俺が挨拶で話しかけた。
「おはよーございまーす、友樹。急がないとですよ」
「お前もじゃん」
ああ、そうなんだけどさ。
言われて気付いた自分の格好に俺も友樹について行って一緒に顔を洗いに向かう。
実はあの日、元カレの愁哉さんから、しつこいほど連絡を貰っていた。
まぁ俺みたいな性格は一言添えてブロック設定でメッセージや通話が出来ないようにするわけなんだが、ムカつくことにメッセージ内容がほぼ『俺とトモちゃんってより戻れそー?』ばかり。
イラッと来る、世に言う“嫉妬”というものに俺は何度も『友樹と俺が付き合ってるんで、それはありません』と送ったものだ。
それでも信じないからビッチは恐ろしい。
もう解決策が見付からないと疲れ切って俺は『ハメ撮りをネットに流されたくなければ信じとけ』なんて初の脅し内容とともにブロック。
友樹はもうすでにブロックどころかIDを変えたっていう徹底ぶり。IDを変えるなんて面倒なのに、それほど嫌なんだろうか……嫌か。
結構しつこいもんな。
友樹にあげたアクセサリーもラブホに置いて行ったにもかかわらずまだチャンスを信じてるそのポジティブ思考、俺にもくれ、と思った。
この元カレ愁哉さんにたいしての雑な扱いと片付けには笑ったが、結局あの人がいなかったら今の俺と友樹は成り立たなかったな、と。
悔しいが、そう思うわけで。
さっきも考えてたけど、俺ってばそうとう友樹に気持ちがあるみたいだぜ。自分でもあとで気付くほど、無意識に考えてて、我に帰れば結構恥ずかしい気分。
「友樹ってば朝飯食わない派だったんですね」
「基本は食わない」
「なのに身長高いって、なに」
「知らねぇよ」
会話だって普通だ。つーか、とくに変わった様子もない。様子もないから、セックスもしていないけど。
んー、俺的にはちょっと我慢の限界というものがあってさー。怒られてもいいから、ハメ撮りやりてぇなぁ、って。
そう思いながら毎日を過ごしているよ。
俺ってばホント、懲りねぇ男だなぁ。
「トモくん朝のちゅー」
「……」
まぁ、校則違反についても、怒られていいから“これが出来るなら”と考えてしまう。
次のハメ撮りだって、準備は出来てるからさ。
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