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これもそのままページを捲ってて、
――景色は、変わらない。
「……」
一年ぶりの日本はやっぱり落ち着くのかもしれない。
海外は……アメリカは俺にとって熱く、盛り上がってて、正直な話テンションが追い付かなかった。でも楽しかったから、いいんだけど。
父親の仕事の都合で家族一緒に一年間、アメリカに住んでいた。もちろん学校もアメリカの学校だ。一年だけど、たった一年だったけど刺激溢れる毎日だったなぁ。
本当に刺激的だった。
だってアメリカに住んで三ヶ月後には彼女が出来たんだから。
その名はエマ・ウィルソン。すごい美人で背も高くて明るい好奇心旺盛な子。珍しくも目の色がグリーンで魅力的な、子だった。
こんな俺でも出来た彼女。一通りも済んで、立派な普通のカップルだったと思う。
俺、アメリカに行く前は男と付き合ってたんだから。
びっくりびっくり。……男と女の交際について、びっくりした事が多々あったから。
時間ピッタリに来る電車。
今はまだラッシュ時間じゃないせいかとても穏やかな日本の電車にどこかワクワクしている俺。テンションがおかしいのかもしれない。
あっちの電車は遅れて当たり前だったからなぁ……はあ、はやく我が家へ帰りたい。
乗った車両にドアが閉まる直前まで座るか座らないか迷った結果、座らずに日本の景色を堪能しようと立ったまま、迷惑にならない程度で俺は手すりに背を付けた。
俺の周りには座ってる人がいないから大胆に寄りかかってもいいんだろうけど。
揺れる電車にバランスを取りながらの動く景色。
一年前とやっぱり変わらないそれぞれは、たかが一年、されど一年……。
エマとは付き合って半年で別れたのだ。
理由を聞いてみれば笑い飛ばせるようなもの。
『あなたのソレ、短くて楽しくないの』
まさか下半身関連で別れ話を持ってこられるとは思わなかった。
そりゃ……確かに、日本人のなかで、小さいかもしれないが……。大きさとか考えもしなかったなぁ。エマと付き合う前は受け入れる方で、突かれる側だったし。あいつの、大きかったから――と、いけない。
こっちに戻ってきたからって思い出すとは……。もう関係ない話だしな。
エマと付き合っててつくずく思っていた事がある。
やっぱり浮気はいけないものだ、と。
あいつは呆れるほどの浮気性だったけど、今でもそうなんだろうか。
いや、関係ないか。もう思い出すのはやめよう。
「……あ」
と、そこで。
一定の速度で走っていた電車に変わりゆく景色を見ていれば、また数日後から通い始める学校に目に付いた。思い出に浸っていたらもうそこまで電車は走ってたみたいで、俺が降りる駅ももうそろそろだと気付かされる。
なにも問題がなければ、あいつもまだ通ってるんだよなぁ……やっぱ、同性同士だったせいか思い出さないようにしていたのに、頭から離れてくれないや。
参った。
「んあ?もしかして、宮本 ?」
「……おお!」
プシュー、という勢いのある音。
知っている駅に止まり、あと二駅だな、と思っていたら同じ学校に通う友達と会った。偶然にもほどがある。
『宮本じゃーん!』
なんて電車内にもかかわらず大声で俺の名字を呼びながら乗ってきた友達。少しだけ恥ずかしくなって周りを気にしてみたが、それほど乗客はいなかったし、いいか……と勝手に自己完結。
「ひっさびさだな!てか、帰国?」
「あぁ、親父の仕事も落ち着いてまたこっちの会社通いになったよ」
「へぇ、やっぱお前の父ちゃんすげぇんだなー」
続けて『あれ、親は?』と聞いてきた友達に、父親と母親は会社に顔を出すから先に帰れと言われた事を説明した。すると笑ってニコニコと絶やさない表情に、俺まで頬が緩んでしまう。
こう、穏やかだから。久々にこういった空気に触れたからか、落ち着く。
「てか宮本、なんかちょっと垢抜けた?」
「そうか?変わってねぇよ」
あはは、と笑い飛ばして話題を変える。
別にこいつ等にエマの事を言うつもりはない。……別れた理由を問いただされた時、俺が恥かくというか、ダメージが大き過ぎるというか。
もう触れないでほしい。
「そうそう、高三になってもまた俺と宮本は同じクラスな!」
話題変えからさらに話題変え。
アメリカの話にならなければそれでいいと思っていた俺はクラスの話になってまた少しテンションが上がった。
そうか、こいつとまた同じだったのか。
「ふはっ」
「……なんだよ」
ホッ、と安心する姿がおもいきり見えてしまったのか友達は途切れない笑いに恥ずかしくなった。
それと、
「山田 も、一緒のクラスだよ」
「……へ、へぇ――」
あいつも同じクラスらしい。
――いつも山田と一緒にいたもんなぁ?
頭から離れない。
友達のその一言で一緒に降りた駅のホームが、気まずかった。なんか、付き合ってたの、バレていたような目だった……というか。
別にバレててもいいんだけどさ。だって終わったことだし?
俺にはなにも、関係ないというか……関係ない関係ないと言いつつ、ずっとあいつを思い出したり、考えたりしてる時点で未練たらたらに思われるかもしれないが、やっぱり俺には関係ないのだ。
「じゃ、俺はこっちだから」
友達の言葉にちょうど別れ道で指差した場所は俺と反対方向の道。ハッ、として辺りを見渡すと懐かしい道のど真ん中で焦った。
そんな俺は察しつかれないような反応を取りつつ、手を振って友達と別れる。ちなみに学校へ再び通う日を伝えたところ、明日にでも来いよ!と強く言われて戸惑ったのが正直な感想だ。
いいか、時差ボケを直したいんだよ。そんな明日だなんて無茶な事を言うなってことだ。
でも必要とされてるのは嬉しい事だから、一日で直してみようかな、って。
「……」
いい気分はいい気分のまま、家に帰りたいもんだ。
「うわ……」
なのに、そんな気分をぶち壊された瞬間。
なんであいつが――山田が、俺の家の前にいるんだ?
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