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【少々番外編】飯塚先輩のバレてない話

  「お……」  ――そう思ったこの時点で、大人しくソファーに座ってればよかったんだ。  飯も食って、さり気なく歩の部屋に向かえば途中、五十嵐に出くわした。  悟ったのかなんなのか、なにも言わずに後輩らしく頭を下げてすれ違うが、あいつは生徒会長だ。それでも校則違反である他部屋での泊まりを見ぬフリしているのは、自分もやっていたからだろう。  今は相手と一緒の部屋になり、泊まる必要がなくなったらしいが、どう足掻いても俺と歩がそうなる展開はない。  わかっている現実に直面する一歩手前で歩の部屋に着き、インターホンなしでドアを開けてみれば意外にも鍵はかかってなくて少し驚いた。  それでも声はかけず、勝手に入る俺は優越感に浸ってるのかもしれない。  松村にしても中沢にしても同じようなことをしているかもしれないが、歩自身がどう受け止めるかの違いで浮かれる。――俺らしくないようで、結局あいつが好きだからしかたがない。 「あゆむ?」  部屋に入ってはみるものの、静か過ぎておかしい。いつもなら漫画や小説のページ捲りやパソコンのキーボードの音が、わずかながらも響いているのに全く聞こえない。  しん、としてて人の気配すら感じない。もしかして歩はいないのか?  いや、靴はあるし、そもそも電気も最初からついてる。  少しの間でも出掛けるのなら消すだろうよ、なんて勝手な決めつけも考えながらリビングの場となるところへ足を進ませると――やっぱり大人しくソファーに座ってればよかったんだ。  付けっぱなしのパソコン前で椅子に座りながら寝ている歩がいた。  机に片方の手で頬杖をつきながら静かに寝息を立てている歩。  ふと見たパソコン画面はイラつくことに俺のハメ撮りだ。  これを機に消してやろうとマウスに手をかざした瞬間、どうせ歩のことだから他のメモリーカードにも保存しているんだろうな、と思い……その手を退けた俺は情けないんだろうか。  見た目は喧嘩慣れをしていないこいつでも避ける反射神経は良い。頭もキレる方だから冷静な判断が出来るんだろうよ。その判断力は時として危ないものだということを自覚しているのだろうか。……まあ、いいか。  その場にしゃがんで下から歩の寝顔を見てみるが、綺麗な顔をしていると思う。黙ってればこの学校にしろ、他にしろモテるだろうに。  でも残念な男なんだ、こいつは。  気にせずという名のプランを曝け出してるせいで告ろうとする奴が少ないし。それにたいしてなんか安心してる俺がいるんだけど。  その感情が気持ち悪くて、今までの俺じゃないみたいで、外で喧嘩したのは内緒の話だ。  歩どころか五十嵐をはじめに学校側にはまだ知られてない暴走だ。  けど好きになってるし、嫌いにはなれねぇし、ハメ撮られてる今――遅い気持ち悪さを感じても時間の無駄か、と結論付けて他と喧嘩をするのをやめた。  ふっかけてきたのはあっちだから悪い事をしたな、とは思ってない。ちょっとした暇潰しと感情を押し殺してくれる相手になったから感謝したいぐらいだ。  どうして、木下 歩を嫌いになれないのか。  もう、いらない悩みだしな。 「……」 「……」  こっくりこっくりと微かに揺れる頭。  支えてる手から落ちそうな頭に、ゆっくり立ち上がって、ゆっくり歩の――頬に口付けようと動く。 「……っ」  ――ガタッ、と。  その時、支えてた手から頭がずり落ちて、勢いよく倒れて来たところを俺が受け止めてしまった。  もちろん当の本人は起きる。 「んぁ……あれ、友樹……?」 「……」 「やっべ、俺寝てたわ……」  動こうともしない歩は寝起きのせいか、そのまま俺の腕に頭をすり寄せて目を擦る。 「……」  あっぶねー……俺なにしようとしてたんだ……。  今の関係上、やってもいいんだろうけど……でも絶対にからかわれるやつじゃねぇか。  俺みたいなのが、初心そのもので寝てる相手にキスとか――こいつからしたらという言葉を使うに決まってる。俺の羞恥をここぞとばかりに攻めてくる。  そして最終的には、口で言わせて、やらせようとする。  カメラを持って。  だから……あっぶねぇ。 「んん……だめだ、ねむい。寝よう、ともき」 「え。あ、おい、つかこれ、」  椅子から立ち上がっては俺の腕を掴む歩にパソコンの画面を指差した。  俺に見付かってるぞ。一時停止の場面は見ててまだ恥ずかしくなるようなものではないが、記憶にある画。いつ撮ったか覚えてる、動画だ。  怒るフリでもしときゃ歩の眠気もさめるだろうよ。 「ああ……ね」 「ね、って……」  なのに、それも利かないみたいでパソコンと俺を交互に見てはまた寝室に向かう足を動かしていた。掴まれてる腕に俺もどうやら寝かされるみたいだ。……まあ、いい。  どっちでもいい。  喧嘩にしろ、寝てる歩にキスをしようとしたにしろ、バレてないだけマシだと思えば耐えれる。  俺だって歩と寝たい。  だから、もう俺も知らないフリをしよう。 *END*  ▼ 録 画 終 了 し ま し た 。 【飯塚先輩のバレてない話(木下にはバレてる話)*END】  

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