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【少々番外編】トリオの下着事情
「あーあ、体育とかだるいな……」
制服からジャージに着替える時、恥ずかしがる奴とどうどうとした奴がいるが、俺は隠すものがないため後者だ。
中沢と松村も普通で、体を動かす事にたいしての愚痴を言いながら着替えてる途中なんだが――。
「あれ、木下がボクサーパンツって珍しいな」
不意に言った松村の言葉に思わず俺は自分の下を見る。――おぉ……これ友樹のじゃん。
穿き間違えてたとか。
確かに昨日から友樹は俺の部屋に泊まってたけどさー?
いやいやぁ、ハメ撮りしたけどさー?
穿き間違えとか本当にあるのか……俺自身が、それを体験しちゃうのかぁ。まあ今思えばなんとなくサイズがフィットしてないかもなー……。
こんなの漫画や小説、いわば二次元しかないことだと思っていたのに。
「てか松村くん、俺の下着事情知ってるとかっ……えっち!」
なんてふざけて隠れもしない両手を使いながら穿き間違えてた友樹の下着を隠す。すると松村は呆れた表情を浮かべつつも『自分でトランクス派って言ってただろ……』と溜め息交じり。
そんなの言ったっけ?
すぐに素に戻りながらトボけて笑い飛ばし、そのまま着替えるハーパン。
いやぁ、友樹も俺の穿いてこの学校を過ごしてんのかね。
友樹とは体格差があっても細い方だから俺の下着も穿けるっちゃ穿けるんだろうけど。若干サイズのキツい下着を穿きながら珍しく授業出てるのかな。
まあどっちでもいいや。あとで連絡しとこう。
一瞬の興味から一瞬で薄れる事情に俺は二人が着替えるのを待つ。
――その時、
「……悪い、トイレ」
さあ、制服のズボンを脱ぐぞ、という体勢でベルトを外していたはずの中沢が急にベルトを締めた。しかもトイレに行くとか言いつつ椅子に座り込み、手で顔を覆っている。
なんだか様子がおかしいぞ。
「はあ……」
どこかキョロつく中沢は周りを気にしている。
この落ち込み具合はなんなんだ?
「なに、腹痛いのか?」
相変わらず心配性の松村に俺も続いて『王司に中出しされて腹痛かー?』と冗談で言えば睨まれる始末。
なんだこの扱い。――いいけど。別にいいんだけどさ。
「……いや、それはねぇ、けど……」
冗談を素直に答える中沢にまた違う興味がわいてきた。
顔を覆っていた手も外れて、見える顔はまさに絶望と言いたげなもの。意味もなにもない小さな期待に、怖い松村を置いて俺はさらにふざけた事を聞き出す。
「じゃあなんだよ。勃った?こんなところで勃っちゃった?もう!平凡くんはこれだから!」
「……」
うへへ、と下品に笑っても反応なし。
「……中沢、さま?」
若干、寂しさがあるぞ……。
椅子に座り込み、再び手で顔を覆っては喋らなくなる中沢様。同じ繰り返しの行動にはどんな心理が潜んでいるのか……さすがに煽り過ぎたか?なんて心配してみると、
「俺……王司の下着穿いてる……」
て。
「……」
「……」
「……」
すごい沈黙。
周りは俺達の会話に興味がないから聞いてないし変わらないクラスの雰囲気だが、明らかにここだけ、俺達三人だけおかしい雰囲気が作り出された。
まじかよ……穿き違えてたとか俺と一緒じゃん。
中沢は俺と友樹の事を知らないから暴露はしないものの、一緒じゃん。
まじかよ……まじなのか。――中沢と王司、俺達と同じで昨日ヤってるわ。
「……」
「……」
「……中沢」
まあでも、そんな時もあるよな。
無理矢理過ぎるまとめだけど、うんうん。しょうがねぇよ。
「はやくジャージ着替えろよ。時間もそろそろだろ?」
「……おう」
なんて落ち込んでる中沢の背中をさすってやると突然、五十嵐が俺達のクラスに入ってきた。
我が生徒会長様の乱入にクラスの奴等は一瞬止まる。なかなかの超展開だな……。
どうどうと教室に入ってくるあたり会長様の特権かなにかなんだろうな。
他のクラスメイトが他のクラスである教室に入る――なんて禁止されている暗黙の了解は、近くにいる人に話しかけて『あいつを呼んでほしい』と頼むのが普通だ。
なのに五十嵐は気にもせず、大股で、俺達に……いや、松村に近付いている。
そしてなんの悪気もなく、松村に話しかけたのだ。
「平三、おれ平三の下着間違えてっ「順平おい言うな!」
その阻止は俺からしたら遅過ぎるもの。
しっかり耳に届いた生徒会長様と元ノンケイケメンの事情も情事も、わかった。
ニヤける俺の口元に対して、喋る五十嵐の口を塞ぐ松村の2ショットは萌えるものでカメラをすぐに出したいほどの画。
一人、下着で気にする中沢も。
一人、もんもんと下着を穿き間違えてた事を隠していた松村も。
一人、勝手に自己完結した俺も。
ここまで揃うと笑いのネタになるもんだよなァ?
――あー、休み時間にトモくんが俺の下着穿いてる姿をカメラでおさめてみよーっと。……俺のをちゃんと、穿いてたら、だけど。
【トリオの下着事情*END】
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