2 / 8

第2話

「いらっしゃいませ~!」 今日もいつものコンビニ、いつもの缶ビールに惣菜1つ。 煙草は俺がレジに並ぶ前から用意されている。 大久保君がバイトに入るようになってから、バスを降りて見えるコンビニの灯りが温かく感じるようになった。 人恋しいのかな……返事の返されない『ただいま』を言い続けていて『おかえりなさい』と言って貰えた事が嬉しかったのかもしれない。 今日もいつもの様に客が消えたのを見計らってレジへ向かう。 「869円のお返しになります。おかえりなさい」 昨日、妻の事をあれこれ思い出して……沈んでいたんだと思う。 「……ただいま」 初めて大久保君のおかえりなさいに返事を返した。 高い音を上げて俺の手を掠めて転がって行く小銭。 「しっ失礼しましたっ!」 慌ててカウンターから飛び出して小銭を拾いに来た。 俺もしゃがんで拾うのを手伝う。 俺の金だしな。 最後の1円に手を伸ばした時、大久保君の手と重なった。 「うわぁっ!!すみませんっ!!」 大袈裟に飛び上がった大久保君に笑みが溢れる……本当に賑やかな子だ。 「ちゃんと受け取れなくてすまなかったね。気にしないで……」 何度も頭を下げる大久保君に笑いかけて店を後にした。 こんなに心が温かいのはいつぶりだろう。 葉桜を見上げた。 子供がいたら……君がいなくても、こんな毎日だったのかな? さわさわとぬるい風が葉を揺らす。 そうだね……そんなバカな事ばかり考えてはいけないね。 妻に叱られた気がして、心の中で謝った。 「ただいま」 玄関の扉を開けて暗い室内に灯りを灯す。 シャワーを浴びて、温めた焼き鳥を肴に缶ビールを開けた。 見るとも無しにテレビを流し……若手芸人の一生懸命なネタについ笑ってしまった。 勢いだけのネタ……それでも若い子が一生懸命な姿が微笑ましかった。 今日はそれを笑えるだけの心の余裕が出来ていた。 次の日……いつもの時間いつものコンビニ。 ……大久保君はいなかった。 少し頭の寂しくなってきた店長がレジに立っている。 どうしたんだろうか? 体調不良……風邪でも引いたかな? いつもの缶ビールと惣菜をレジに出す。 「573円です」 「あ……と……165番の煙草を1つ……」 慌てて、忘れていた自分の銘柄の番号を伝えた。そうだ。大久保君じゃないもんな……。 いつも用意されていたので忘れていた。 店長に大久保君の事を聞く程の間柄でも無いので無言で店を出る。 背中に聞こえる事務的な「ありがとうございました」に……心を少し風が抜けていった。

ともだちにシェアしよう!