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第2話
「いらっしゃいませ~!」
今日もいつものコンビニ、いつもの缶ビールに惣菜1つ。
煙草は俺がレジに並ぶ前から用意されている。
大久保君がバイトに入るようになってから、バスを降りて見えるコンビニの灯りが温かく感じるようになった。
人恋しいのかな……返事の返されない『ただいま』を言い続けていて『おかえりなさい』と言って貰えた事が嬉しかったのかもしれない。
今日もいつもの様に客が消えたのを見計らってレジへ向かう。
「869円のお返しになります。おかえりなさい」
昨日、妻の事をあれこれ思い出して……沈んでいたんだと思う。
「……ただいま」
初めて大久保君のおかえりなさいに返事を返した。
高い音を上げて俺の手を掠めて転がって行く小銭。
「しっ失礼しましたっ!」
慌ててカウンターから飛び出して小銭を拾いに来た。
俺もしゃがんで拾うのを手伝う。
俺の金だしな。
最後の1円に手を伸ばした時、大久保君の手と重なった。
「うわぁっ!!すみませんっ!!」
大袈裟に飛び上がった大久保君に笑みが溢れる……本当に賑やかな子だ。
「ちゃんと受け取れなくてすまなかったね。気にしないで……」
何度も頭を下げる大久保君に笑いかけて店を後にした。
こんなに心が温かいのはいつぶりだろう。
葉桜を見上げた。
子供がいたら……君がいなくても、こんな毎日だったのかな?
さわさわとぬるい風が葉を揺らす。
そうだね……そんなバカな事ばかり考えてはいけないね。
妻に叱られた気がして、心の中で謝った。
「ただいま」
玄関の扉を開けて暗い室内に灯りを灯す。
シャワーを浴びて、温めた焼き鳥を肴に缶ビールを開けた。
見るとも無しにテレビを流し……若手芸人の一生懸命なネタについ笑ってしまった。
勢いだけのネタ……それでも若い子が一生懸命な姿が微笑ましかった。
今日はそれを笑えるだけの心の余裕が出来ていた。
次の日……いつもの時間いつものコンビニ。
……大久保君はいなかった。
少し頭の寂しくなってきた店長がレジに立っている。
どうしたんだろうか?
体調不良……風邪でも引いたかな?
いつもの缶ビールと惣菜をレジに出す。
「573円です」
「あ……と……165番の煙草を1つ……」
慌てて、忘れていた自分の銘柄の番号を伝えた。そうだ。大久保君じゃないもんな……。
いつも用意されていたので忘れていた。
店長に大久保君の事を聞く程の間柄でも無いので無言で店を出る。
背中に聞こえる事務的な「ありがとうございました」に……心を少し風が抜けていった。
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