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第6話

俺も体を暖めた方が良いと風呂場へ押し込まれ、シャワーを浴びて出ていくと大久保君は妻の遺影を見ていた。 「勝手にすみません。ロールケーキ……奥さんの為の物だったんですね」 「あぁ……こっちこそ勝手に供えてしまってすまなかった」 ロールケーキを取ろうとした腕を掴まれる。 「奥さんの好物ならそのまま置いていてください」 「……ありがとう」 ダイニングに惣菜を並べて……もう使うことはないと思っていた、二人の晩酌に使っていたペアグラスを4年振りに取り出した。 注いだビールを飲みながら……妻の話をぽろぽろと溢す。 静かに聞いてくれている大久保君の顔を見る勇気は無くて顔を上げられず……震える声を煙草で誤魔化す。 「大久保君……君の好意を利用してすまない」 告白をしてくれた相手に、亡くなった妻の話をすべきではないとわかっていながら、誰にも言えず抑えてきた思いを吐き出し始めたら……もう止まらなかった。 「彼女は俺のせいで死んだ。俺が迎えに来てなんて言わなければ事故は起きなかったのに……誰も俺を責めないんだ!」 責めてくれたら自分を恨んで死ねたのに。 罪に問われる事の無い罪は、償う事も出来ずに心を責め続ける。 「彼女を忘れて幸せになれと言う……周りの優しい言葉が辛かった……彼女を忘れることが幸せになるという事なら……俺は幸せになるのが怖かった」 「鷹野さん」 「俺は彼女を忘れるなんて出来ない……幸せになんてなってはいけない……そう……思っていたんだ」 大久保君の手が俺の手の上に重ねられた。 「鷹野さん……貴方にとって俺の好意は幸せだと感じていると……思っても良いんでしょうか?」 「君から……『おかえりなさい』と言われる度に心が解れた……あのコンビニだけが俺を温かく迎えてくれていたんだ」 君だけが温もりをくれた。 「鷹野さんが望んでくれるなら、毎日『おかえり』も『いってらっしゃい』も……『おはよう』も『おやすみ』だって言いたい」 「俺は……君でただ寂しさを埋めようとしているだけだ……」 「鷹野さんのお役に立てるなら光栄です。誰でも良いなら俺を選んで下さい」 椅子から立ち上がった大久保君に抱き締められ、柔らかな唇が押し付けられた。 「ん……ふっ……ぅん……」 口内を蹂躙され……久々の刺激に砕けそうになった腰を意外に力強い腕に支えられた。 「……すみません……今日だけでも良いんです。鷹野さんを抱きたい」 真っ直ぐな視線と言葉に抗える理性は残ってなかった。 「……移動して……良いか?さすがにここでは……」 ちらりと仏壇に目を向けると抱き上げられて寝室へと案内させられた。

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