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拓海はまだ大学4回生で卒業を目指していた。
2年前に交通事故に遭ってから休学し、やっと昨年復学したばかりだった。
そんな時に結婚を前提に同棲をしていた彼女が妊娠、そして10月に愛娘の茉莉が誕生した。拓海は彼女の妊娠がわかってからは昼間はアルバイトで働き夜間の授業を受けて彼女とはすれ違いの生活が続いた。
学校の保健医を目指して、あと一歩、あと一歩と彼女と対等になり結婚をすること、そして3人で温かな家庭を築こうとがむしゃらだった。
――ある日突然だった
大学から帰宅するとベビーベッドで泣き叫ぶ茉莉だけが暗い部屋に残されていた。
だけど拓海には絶望している時間が許されなかった。
そんな孤独の中、彼女との思い出が多いアパートの部屋は淋しくて苦しかった。そして家賃を払うことも段々と苦しくなっていった。そんな時に役所に相談して公営住宅への居住を勧められ、茉莉と親子2人で再出発をすることを決めたのだ。
いまだに茉莉が泣くたびに拓海は不安に襲われる。その都度自身を叱咤する。
(俺まで泣いたらあかん! もう麗奈 ちゃんは戻ってこんのや、俺がまーちゃんを守らな!)
団地を出ると丁度帰宅する学生たちと遭遇する。ブレザーを着た3人の高校生はふざけ合っている。
「宮西ぃ! おっ前、くるみに何か言ったろ!」
「別に、お前のチンコが短小ってことだけ伝えといた」
「それはお前のビッグマグナムに比べたらだろうが! 俺は標準なの!」
「てゆーかトモ、まだくるみちゃんとヤってねぇのかよ。このどヘタレ」
「うるせぇ! がっついて嫌われたらどーすんだよ! 俺だってあのパフパフおっぱい揉みてぇよ!」
なんとも下品な会話が飛び交うが、そんな楽しそうな声が今の拓海には羨ましく眩しかった。
「あー、あー!」
「あ、ごめんね、早く学校行かなきゃね。まーちゃんは今日は誰かお友達はいるかなぁ?」
「あー、う…うー!」
背中にいる茉莉と話しながら拓海は大学へと急ぐ。いつもの夕方だった。
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