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振り返ったそこには、ブレザーを着崩して、右耳に一つだけピアスを開けた高校生と思しき背の高い男が立っていた。少し脱色したであろう茶色の髪が風になびいて陽に当たってキラキラと輝いている。
(うわ……っ! カッコいい人…)
「あ、あの、ごめんなさい!」
おそらく彼の邪魔になっているだろうと察した拓海は申し訳なさそうに謝って一歩ずれる。
「いいのよー石蕗さん。それ、うちのバカ息子の智裕よ。ほれ、この人お隣に越してくる人だよ、挨拶しな!」
「えーっと…松田です。よろしくっす」
母親に急かされた男、松田智裕は軽く会釈をして拓海に挨拶をした。拓海も慌ててぎこちなく挨拶を返す。そんな2人に割って入ってくるのは松田さん、もとい、智裕の母だった。
「この子、図体だけはデカいのよー。185cmとかそんくらい?」
「そんなねーよ、182だっつの」
「大体一緒でしょうが」
突然親子の口論のようなものが始まったが、その姿を見た拓海はこの親子が仲良しなのだと察して微笑ましくなった。
「ったく、初対面の人の前で恥ずかしいだろうが」
智裕が呆れたようにため息を吐きながら家に入ろうとして拓海とすれ違う。
(あ…)
拓海の心臓が高鳴る。
どくん、と跳ねた。
鼻腔をくすぐった柑橘の匂いは智裕の残り香で、少し吸い込むだけで顔に熱が集まる。
乱雑に家にあがって段々と遠くなる智裕の背中を視線で追ってしまう。
そんな惚けた拓海を茉莉は不思議そうに覗き込んで、一つ、ペチンと拓海の頬を叩いた。
「あ、あの! 長々とすいません! これからご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
「あらら、じゃあ、何かあったらなんでも聞いてね」
慌てて拓海は菓子折りを智裕の母に渡して、松田家のドアが閉められた。
拓海は一歩下がって、数秒だけそのドアを見つめた。まだ心臓の大きな音が止まない。
(あ、あれ…どうして、だろう? なんでこんな…)
「あーう?」
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