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その日の昼過ぎ、また石蕗家のインターフォンが鳴った。
「はーい」と返事していつものように玄関を開けると、パーカーを着た智裕が立っていた。
「石蕗さん、こんにちは」
「あ…えっと、松田、さん…」
「今大丈夫ですか?」
「は、はい…」
智裕は見た目は今時の男子高校生なのにとても礼儀がしっかりしている。そのギャップにも拓海は惹かれていく。たった数時間前に彼への好意を自覚したばかりの拓海は平静を装うことで精一杯だった。
「さ、寒いから入って、ください」
どこか疚 しい気持ちがあるからか尻すぼみにそう言うと、智裕はニコッと笑って「お邪魔します」と一礼して石蕗家の玄関に入った。
「あの、これうちのオフクロからです、ベビーカステラ、茉莉ちゃんのおやつにどうぞって」
「へ…」
智裕が差し出したのは使い捨てのタッパーだった。
「1歳くらいの子が食べても大丈夫な、えっと、なんだっけ? あれ、えーっと、なんゲルフリーとか言ってたー…ような」
「あ、あの、グルテンフリー、かも?」
「そう! それ! うちにも大量にあっから食べてください」
拓海は「ありがとうございます」と言いながらタッパーを受け取った。そして拓海は顔をあげて智裕をみる。
「あの、今朝はありがとうございました…俺、その、清掃とか知らなくて…迷惑かけてしまって申し訳なかったです…」
頭を何度も下げながら智裕に今朝のことを感謝すると共に詫びた。すると智裕は恐縮そうな表情になって拓海の肩を優しく掴んだ。
「あ、あれは普通のことですって! 顔あげてください!」
慌てたように智裕がそういうので拓海は言われた通りに顔をあげた。バチっと目が合って、智裕に両肩を掴まれていて、距離が近くて。
「あ…」
拓海は自分の顔がおかしいことになっていないか不安になる。心臓の音は途轍もなく大きい。
「まだここの生活に慣れてないのに普通にこういうの無理ですよ。それに茉莉ちゃんいるし、余計かもって思ったけど俺が話したらみんな分かってくれましたし、大丈夫ですよ、ね?」
まるで拓海を慰めるように優しく諭してくれる。
(あぁ…俺、この人のこと好きや…)
「あ、そうだ。別の棟に住んでる俺のダチがいるんすけど、そこのチビたちが茉莉ちゃんのこと話したら一緒に遊びたいって言ってるんですけど」
「へ…で、でも…それ、迷惑じゃないかな? まだよちよち歩きだし…」
「赤ちゃんでも遊べる穴場があるんですよ、その石蕗さんがよければこれから一緒に行きませんか?」
そして先ほどから拓海を後ろからじーっと四つん這いで見つめる茉莉の視線、やっと気が付いた拓海は茉莉を抱きかかえて智裕に「お願いします」と言った。
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