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 茉莉はしっかり防寒すると智裕に抱っこをされて、拓海はその智裕の一歩後ろに下がってついていく。 「宮西ぃ! 連れて来たぞー!」  団地の敷地の中にある小さな公園、ジャングルジムとベンチしかない簡素な場所だけに智裕が呼んだ背の高いモデルのように端正な顔立ちをした男性は一層目立っていた。ただその目は死んでいる。 「あ、幼女誘拐」 「ちげぇよ! 合意だよ!」  智裕は到着するなりいじられる。そして小さい小学生くらいの男の子と女の子も智裕の元に駆け寄ると、男の子は智裕のすねを蹴る。 「いっでぇ! てめ、晃介ぇ!」 「ともひろ! ようじょユーカイ!」 「もう、コースケ! 本当にユーカイしてたら智裕は府中にぶちこまれるのよ」 「侑芽…またいらんことを覚えたな…」  2人のちっこいのにそこそこツッコミを入れると智裕は茉莉を下ろした。 「チビども、この子は茉莉ちゃんだ。仲良く遊んでもらえ」 「わー! かわいいー!」 「あーい!」 「まつりちゃん、やわらかボールで遊びましょーね」  茉莉は晃介と侑芽という小学生にトテトテとついて行き、一緒にボールで遊び始めた。そして智裕は自分の後ろにずっといた拓海の手を優しく取って宮西の前に出した。 「宮西、この人俺んちの隣に引っ越してきた石蕗さん。今の茉莉ちゃんのお父さん」 「…え、男?」  宮西という男は拓海をしたからなめるように見ながら「マジで男なの?」とか失礼を連発する。そして遂には。 「ひゃああ!」 「あ、本当だ。チンコついてる」 「ばああかかああああ!」  智裕は急いで宮西から拓海を引き剥がして自分の胸に収める。    智裕の体温を直に感じる拓海の心臓は壊れる寸前。 「石蕗さん! 大丈夫ですか⁉︎」 「……え、チンコ触られるくらいで放心する?」 「お前の貞操観念がおかしいんだよ!」 「いやいや男には友だチンコという儀式が存在してだな」 「するか!」  智裕と宮西の不毛で下品な口論が飛び交っているのだが拓海はそれが一切耳に入ってこない。  ドッ ドッ ドッ (ま、松田、さん…の…息がぁ…声がぁ…)  もう頭がパンクしそうになった。すると突然冷たい風が肌に触れる。智裕の抱擁から解放されていた。 「ったく…じゃ、テキトーに茉莉ちゃん任せたぜ」 「おう」  智裕がそう言うと宮西はチビたちが遊んでいる方へゆるりと歩き出した。そして智裕は拓海の方を向く。 「あいつ、小さい子の相手は慣れてますから任せても大丈夫です」 「そんな…迷惑じゃ…」 「迷惑なんかじゃないですよ。石蕗さん、まだこの辺よくわからないですよね? 案内しがてらコンビニ行きましょ、ね?」  拓海は自然と頷いていた。遠慮がちに智裕の隣に並ぶ。  勿論、心は落ち着かない。

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