10 / 11

10

「団地の中にも小さい公園みたいなのあって、滅多に人もこないから茉莉ちゃんも安全に遊ばせられっと思いますよ」 「へー…全然知らなかったです。この辺をゆっくり歩くことなかったから…」 「まだ1ヶ月も経ってないから仕方ないっすよ。石蕗さんって大学生でパパなんですよね」 「はい…ちょっと、色々あったので」  拓海は俯き気味で自嘲した。まだ籍を入れることができない状態で子供をつくり、世間的には順序がおかしいと否定されてもおかしくない、だから拓海はこの事実を後ろめたかった。 「さっきの宮西って俺の昔っからのダチなんすけど、アイツんちの母親は結婚なんて1回もしたことねぇっすよ。でも胸張って宮西家を支えてるし、石蕗さんも胸張っていいと思いますよ」  びっくりして顔を上げて智裕の方を見上げると、その横顔が穏やかでどこか凛としていた。そしてまた拓海と目が合うと、ゆっくりと笑いかける。  拓海は泣きそうで、だがまた堪えた。 「そ、う…かな?」 「そうっすよ。茉莉ちゃんだって石蕗さんのこと大好きっぽいし、それってちゃんと石蕗さんが茉莉ちゃんを育ててるって証拠ですよね。俺のお袋も言ってましたよ…でも」  智裕の少しだけ硬い掌が拓海の細い肩に触れる。  じんわりと温かくなって、涙腺が緩んでくる。  キュッと一文字に唇を締めて拓海は泣かぬように。 「たまには肩の力抜くときだって必要だと思いますよ」  まだ智裕は高校生なのに、その言葉には妙な説得力があった。 「石蕗さん?」 「…あの、その…ありがとう、ございます…」 「へ?」 「ずっと、まーちゃんと2人だけで…俺、頼れる人いなかったし…そんなこと言ってくれる人もいなくて…ちょっと心が楽になりました」  拓海は泣く代わりに、笑顔を努めてそれで感謝を智裕に向けた。智裕もそれに返すように、また笑った。  その笑顔が拓海の心にずっと残るのだった。 「あ、あとさ、俺のことは智裕でいいし、石蕗さんのが年上だし敬語使わなくていいっすよ」 「え…」 「俺堅苦しいの苦手なんで。それに敬語だとよそよそしくて寂しいっすよ」 少し困ったように眉を下げて笑う智裕、拓海の心臓は一層苦しくなる。そしてぼーっとしているといつの間にか手を引かれる。 「コンビニはこっちですよ、飲み物とか買って戻りましょうか」 「…は……う、うん」 少しだけ縮まった距離、きっと智裕からしたらなんでもないこの距離は拓海にとっては大きな一歩だった。

ともだちにシェアしよう!