バレちゃった。バレちゃったって？　バレちゃった……。 　……………………。 「ぇえ―――――ッ！」 「痛ッ！」 　たっぷり１分は固まってたと思う。いや、もしかしたらそれ以上。それから、思いっきり仰け反ってしまった。そのときオレの頭が亮介の顎にヒットして、今度は亮介が仰け反った。 　いやいや、別に笑いを取りたかったワケじゃないからな。雅人は「ざまぁ」とか言ってるし、他の３人は笑いをかみ殺していると言うか何と言うか……。 「なんでぇ？」 　思わず情けない声が出た。いや、ホント、何で？　オレが寝てる間に何かあったの？ 「あのな……、その、別に聞きたくて聞いたワケじゃないん、だけどな……」 「えっ、何？」 「あー、何だ、風呂行ったとき着替えを忘れたんで取りに戻ったんだよ。……で、そんときにな」 　雅人の言った言葉に徐々に顔が赤くなる。つまり、オレたちが風呂場でイタしてるときに部屋に戻ってきたってことだ。最悪だ。最悪の展開でバレたんじゃん。 　恥ずかしすぎて泣けてくる。ああもう視界がボヤけてきたし。 「智、智、ゴメンな。オレが悪かったから」 　後ろの亮介が、親指でオレの涙をぬぐいながらそう言った。 　ちょっとの間、みんな無言。そして……。 「あのね、実は私、前から知ってたんだ」 　突然梨奈ちゃんが、そう言い出した。えっ、前から？ 「視線とか雰囲気とかで何となく。井川クンもさ、智クンに向ける視線とか雰囲気とかだけが甘いって言うか……」 「オレは梨奈ちゃんに言われてからかな。ちゃんと見たらすぐわかった」 　えーっ、信一も気付いてたの？ 「知らなかったのは、私と香山クンだけ」と、愛理ちゃん。 　それが、最悪の形で雅人にバレたワケだ。 　悪いのは亮介だけじゃなく、オレもだな。修学旅行のこんな場所で、サカってしまったんだから。 「みんなゴメ……。黙ってて……。それと、今日ここで……」 　みんなの顔が見れなくて、俯いたまましゃべった。オトコ同士で付き合ってるだなんて、やっぱり言えなかったんだ。ごめんな、みんな。 「別に私たち気持ち悪いとか思ってないよ」 「そうそう、智クンと井川クンだと何かしっくりくるって言うか……」 「お似合いってカンジ？」 　思わず顔を上げてしまった。絶対気持ち悪いとか言われると思ってたから。 「智が寝てるとき、さっきもそんな話してたんだよ」 　背中から亮介がそう言ってきた。 　そう、なの？ 　普通に受け入れてくれる……？ 「……みんな、ありがとう」 　照れくさいけど嬉しかった。そして、ちょっぴりだけど涙も出た。 「逆にオレはさ、イイモン聞かせてくれてありがとうってカンジ？」と雅人。 「すっげー色っぽい声なんだぜ。オレその場で固まっちゃってさ、結果的に結構聞いちゃったんだわ。もう大変よぉ、オレのまで硬くなっちゃ、ブッ！」 　雅人の顔面に思いっきり枕を投げつけておいた。 　愛理ちゃんと梨奈ちゃんは真っ赤な顔してる。信一は雅人にケリを入れてる。いいぞ、もっとやれ！　亮介は……と振り向いてみたらニヤニヤしてた。なので、亮介には肘鉄の刑だ。 　なんだよもぉ……。 「まあでも、智クンたちのことは、他の人たちにはナイショだね」 「別に言いふらすことじゃないし、ヘンな目で見る人もいないワケじゃないしね」 　そんな会話を経て、この件はこれで落ち着いた。 　こんなにあっさり落ち着くってのがちょっと不思議だったけどまぁ……良かったって思う。 　亮介はずーっとオレの背中に引っ付いたままだ。顎はオレの肩の上。そんなオレたちを見て「私たちより熱々だよね」って梨奈ちゃんが苦笑いしてた。うぅ……ゴメンよ。 　その後は普通におしゃべり。くだらない話とか、今回みんなで行った場所についての感想とかいろいろ。 「そろそろじゃね？」 「そうだね、そろそろだと思う」 「じゃあ、私たち隠れてるね。終わったら教えて」 　先生の見回りの時間だ。昨日も一昨日もこのくらいの時間だったんで、きっと今夜もそうだろうってことで、梨奈ちゃんたちには隠れてもらった。ふたりの飲んだ缶ジュースも持っていってもらう。これで証拠隠滅っと。 「おまえら、ちゃんと歯磨いて寝ろよ」 　見回りに来た先生は、食べかけのお菓子を見て、そう言ってからいなくなった。 「終わったよー」と呼びに行ったら、何故かふたりともクスクス笑いながら出てきた。 「どうしたの？」 「だってさぁ、想像しちゃうじゃん」 「ここで智クンたちがさぁ……」 「そうそう」 　ぎゃおっ、やめてくれ――ッ！ 　そうなんだ、ふたりはお風呂場に隠れてたんだ。からかわれてるのは分かるよ。でもやっぱ恥ずかしいじゃん。 　翌朝、とんでもない写真を見せられた。オレと亮介の寝顔。寄り添って寝てるやつ。しかもオレは亮介に腕枕されてるし……。 「あ、オレ、その写真欲しい」 　亮介は嬉しそうだ。 　ねぇ、消そうよ。そんなの消した方がいいと思うよ。寝顔だなんて、持ってても全然嬉しくないっしょ。て言うかオレ嬉しくないよ。