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29.台風のようなヒト?
「オレ来週から予備校行くことになった」
中間テストが終わって少しした頃、雅人がそう言ってきた。
「テストの成績がイマイチでさ、さすがに親が行けって言ってさ……」
「って言うか、今まで雅人が行かなかった方が不思議だ」
オレのクラスでも予備校行ってるヤツは結構いる。オレも夏休みくらいから行こうかなって考えてる。お母さんはオレの成績を見て「好きにしていいわよ」って言ってくれてるけどな。もしかしたら夏期講習だけ受けて、あとは行かないかもだけど。
少しずつ大学受験ってのが、オレたちに圧し掛かってきてるような気がする。
大学かぁ……。
「亮介は?」
「ん?」
「亮介は受けたい大学とか決まったの?」
思い切って亮介に聞いてみた。今のところ受けたい大学は無いけれど、できれば同じ大学行きたいなぁって思いつつ。
「智と同じ大学?」
「こらっ、そこのバカップル! ヘンな空気を作らない!」
にっこり笑って答えた亮介に、愛理ちゃんがつっこんだ。最近愛理ちゃんが手厳しい。ヘンな空気になんてなってないと思うんだけどな。
あ、でも、亮介の言葉が嬉しかったから、このまま行ったらヘンな空気になってたりして?
「智クンもひとりでニヤニヤしないの!」
うぅ……、愛理ちゃんに怒られた。
高3だ受験生だって言ってても毎日受験勉強ばっかしてたらイヤになっちゃうワケで、オレたちは適当に息抜きしつつ毎日を送っていた。
そんなワケでボーリングだ。期末試験も終わって夏休み直前の今、のんびり遊ぶには丁度いいだろうってことでみんなで集まった。
そう言えば予備校通いの成果が出たらしく、期末試験の結果は雅人にとって嬉しいものだったみたいだ。「オレこんな点数初めてだ」なんて喜んでたし。特に壊滅的だった物理は、かなり良い結果を出したみたいだ。
そんなこんなでボーリングには上機嫌の雅人を含めたいつもの6人と……。
「トーモくん♪」
「うわっ!」
ものすごく高いテンションで、オレの腕にひっついてきた……仲宗根さんだ。
仲宗根さんは、以前カラオケに行ったとき以来、ちょくちょくオレたちの所へやって来るようになった。大抵は昼休みにおしゃべりに来るってカンジ。で、たまたまそのときオレたちはボーリングに行く話しをしてて、仲宗根さんが「私も行きたい!」ってこうなったってワケ。あ、だからってオレの腕に引っ付くのは別だ。
「……仲宗根、智がイヤがってる。離れろ」
「ヤダ、智クン照れてんの? カワイイ♪」
「照れてるって言うか……、ちょっと、オレ、困る……」
嗚呼もう、亮介の顔が怒ってる。他のメンバーはシラーっとしてるし。結果仲宗根さんだけが上機嫌だ。
「ほらほら仲宗根、智なんかよりオレの方が断然カッコイイぜ」
「えーっ、おっきい人はあんまり好みじゃないんだよなぁ」
「智クン固まってて可愛そうだから、とりあえず離れてあげようよ」
雅人と梨奈ちゃんが気を使ってくれた。
うん、ホント、オレ固まってたよ。
なんか、今日のボーリングは波乱の予感?
ボーリング自体は一部を除いて楽しかった。オレはあまり得意じゃないんだけど、まあなんとか無難な成績。最下位は愛理ちゃんで、トップは僅差で梨奈ちゃんだった。亮介めちゃ悔しそう。
で、その一部って言うのが……。
仲宗根さんはやたらとオレにくっついてくるんだ。それを見て亮介の機嫌が悪くなるって言うか。そしてオレは困るって言うか……。
オレと亮介が付き合ってるってのは、オレたち6人以外にはナイショにしてるワケで、今現在の状況に他のみんなも困ってる最中だ。
今? 今はボーリングが終わってファミレスに来てるとこ。オレの右側には亮介がいて、左側には仲宗根さんが……くっついてる。もう、ホントに、ピトッてカンジで密着されてる。亮介はもちろん不機嫌顔だ。
オレ何かした?
何もしてないよね?
何かした方が良いのか?
「智クーン、彼女いる? いないよね?」
「私なんかどぉ? 私と智クンが並ぶとお似合いだと思うんだ!」
「私、智クンと付き合いたいな?」
「もうすぐ夏休みだしさぁ、ふたりでいろんなとこ行こうよ」
「彼女としての私はお買い得だよぉ。いっぱい尽くしちゃうもん」
「だからさっ、智クーン」
「私と付き合って、ねっ!」
ひとりでずっとこんな調子だ。彼女ひとりテンション高くて周りは沈黙、オレは顔が引き攣ってる。
そしてとうとう亮介が怒った。
「仲宗根……、いい加減にしろ」 不機嫌丸出しの低い声。
「えーっ、亮介クンには関係ないじゃん」
でも仲宗根さんには通じないみたいだ。オレにくっついたまま亮介を睨む。
「智、智もいい加減にしろ」
そしてそれは、オレにも飛び火して……。
いや、オレも悪いな。仲宗根さんの勢いに押されて何も言えないでいたけど、亮介からしたら気分悪いもんな。
「仲宗根さん、オレ付き合ってる人いるよ。ゴメンね」
だからオレは、仲宗根さんの顔を見て、ちゃんと言った。
「えっ、あっ、うそ……。あ、……いりちゃん?」
仲宗根さんはオレを見て、愛理ちゃんを見て、梨奈ちゃんを見て、そしてまた愛理ちゃんを見た。
一瞬愛理ちゃんが何か言いたそうな顔をしたけど、結局何も言わなかった。
「ゴメン、私帰る。えっと……、これ私の分」
急に大人しくなった仲宗根さんが、自分の分の代金をテーブルに置いて帰っていった。後に残るのはオレたち6人。
「仲宗根は……、中学のときからあんなヤツだ」
ボソっと言った亮介。オレ含めみんなの顔はグッタリだった。
なんだろ? 台風のような人って、あんな人のことを言うんじゃないか?
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