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31.デカい兄弟
高校最後の夏休み……は、夏期講習の毎日だ。亮介と同じとこだけど、得意科目が違う関係で時間割が違ったりしてる。それでも一緒に行って一緒に帰ってるけどな。空いてる時間はもちろん自習だ。
「お前ら本当に仲良いよな」
「うーん、家も近いからな」
たまたま同じ講習になったクラスメイトの飛島に言われたんで、そう返しておいた。一瞬だけ「ラブラブなんだよ」って答えたい衝動に駆られたけど……。やばいなぁ、暑さと毎日の夏期講習で疲れてきてるみたいだ。もうすぐお盆だから、そこだけはのんびりした方が良いのかも。
お盆には、全寮制の高校に通ってる亮介の弟が帰ってきていた。そう言えばうちの兄貴は全く家に帰ってこない。今年は就職活動があるからまあ、きっと帰ってこれないんだろうな。
「亮太、久しぶり!」
「おぉっ智じゃん、超久しぶり。って言うか、相変わらずちっちぇーな」
「るせっ! 亮太のクセに生意気な。オレは年上だぞ、もうちょっと敬いやがれ!」
亮介んちに遊びに行ったら、亮太に会った。こいつは年下のクセして生意気なヤツなんだ。今だって「年上に見えねぇから仕方ねぇじゃん」なんて言ってる。身長と年齢は関係ないんだぞ。関係あってたまるか!
「おまえさぁ、亮介よりデカくなったんじゃねぇの?」
「そうそう、気がついたらオレの方がデカくなってた。やっぱ水泳って背が伸びるのかもな」
目の前に亮介と亮太がいると、オレは壁を相手にしているような気分になる。こんなのがふたり並んでたら、デカくて暑苦しい。
「なぁ智、ちょっとこっちに並んでくんね?」
「ん?」
「ああやっぱ、智ってオレの彼女よりちっせぇ」
カラカラと笑い出した亮太には教育的指導だ。蹴りを入れておいた。
ちなみに亮太の彼女は同じ水泳の選手で175センチなんだって。なんだよそれ……。
「智はそのくらいの身長が丁度いいぜ。抱きやすいし」
亮介の部屋に入ったとき、そんなセリフが聞こえてきた。うーん……、これは喜んで良いんだろうか? いやいやあんまり喜べないよなぁ。複雑だ。
「オレ、出来れば170は欲しかったぜ。一応第一目標だったし」
いや、マジで、ホント。そのくらいは欲しかったわ。
オレの身長、去年から1ミリも伸びてない。あーあ。亮介も亮太もムダにデカいんだからさ、ちょっとくらいその身長をオレに分けてくれたら良いのに……。ムリだとわかってても、そう思わずにはいられない。身長欲しいー。
翌日、何故か亮太だけがオレんちに遊びにきた。
「智! どうせヒマしてるんだろ? 遊びに来てやったぜっ」
「なんなのそのオレ様発言。つか、亮介はどうしたん?」
「姉貴に連行された。オレが逃げたんで亮介が捕まったってワケ」
「例の荷物持ちか。あーあ、そりゃご愁傷様ってヤツだな」
年に1~2回なんだけど、こいつらのねーちゃんは買い物ツアーに出かけることがあるんだ。オレも一度だけ、亮介と一緒に連れてかれたことがある。
行き先はだいたい、本屋、CD&DVDショップだ。そこで目についたものを手当たりしだい買ってくってカンジ? ねーちゃん自身は認めてないけど、どうやら彼氏と大きなケンカをしたときに買い物ツアーになるらしい。一応お昼くらいは奢ってくれるけどな。
ちなみに亮介のねーちゃんは顔は美人だ。黙ってたらかなりモテるんじゃないかと思う、黙ってたらな。大口開けてガハガハ笑ってる姿からは色気のイの字も感じられない非常に残念な人なんだけど……。今の彼氏は中学からの付き合いで、亮介曰く『とても貴重な人』らしい。
閑話休題。
「亮太さぁ、オレじゃなくて中学の友だちとかと会わなくていいの? 遠くの高校なんか行ってるんで、なかなか会えないんだろ」
「ああ、明日みんなで集まる予定。だから今日はヒマなんよ」
そんなワケで、何故かオレは亮太とふたりでゲームなんかをやってる。遊びに来てやった発言はちょっと気に食わないが亮介の弟だしな。
ちなみにウチのお母さんは、亮介以上に食べる亮太に大喜びでごはんを作っていた。お母さんも通常運転だ。
一応亮介にはメールしといたよ。亮介からは『逃げたい』なんて返事が来てた。まあそんなこと言っても仲の良い姉弟なんだよな。
「なあ亮太、水泳やると身長伸びんの?」
「水の中とは言え、重力に逆らって浮いてるからな。伸びやすいんじゃね?」
「根拠は?」
「ないっ!」
「なんだよそれぇ」
一瞬水泳をやろうかと思ったんだけどな。根拠が無いならやっても仕方ないかぁ。
「大丈夫大丈夫、智よりちっちゃい女の子はいっぱいいるって」
「うるせっ」
「逆にオレなんか、ちっちゃい女の子と付き合うと大変なんだぜ。キスするとき首が疲れるし」
「へぇそんなもんなんだ。……って言うか亮太、ちっちゃい女の子とも付き合ったことあんのかよ。生意気な」
亮介の弟なだけあって、亮太もやっぱイケメンだ。亮介はクールな雰囲気だが、亮太は……ガキ大将っぽいな、うん。
それにしても、オレの周りは背の高いヤツが多い。亮介に亮太に雅人に信一。信一また背が伸びたっぽいんだよ。雅人の身長に近づきつつあるみたい。
みんな無駄にデカくなりやがって。ちくしょー。
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