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Ⅰ どうして、こんな出逢いしかなかったの?④
「……せっかく消音に改造したのにね」
発砲音で驚かせないようにと思ったのだが、これじゃあ台無しだよ。
君は動けず、立ちすくむ。
リンリーに怯えたか?
(違うね)
君は、私に……
「震えているね。気迫で怯えさせてしまうなんて、私は失格だね。司令塔としても、君の」
恋人としても
黒い革張りのソファから立ち上がった私は迂闊 だった。
いや………
これも計算の内かな?
いつかは見せねばならぬ素顔だ。
「ブラック……」
震える唇で、君はやっと私を呼んでくれた。
それが、私のコードネームであっても嬉しいよ。
「その眼……」
「アァ」
君は勇気があるよ。
やはり私の恋人だ。
青ざめた瞳で、青ざめた眼差しを背ける事なく私の眼を見たのだから。
この右眼を。
この右眼から、視線を逸らさず見つめているのだから。
蒼い痣と、紅い右眼を持つ私は、もう君の知っている私じゃない。
「怪我は?火傷はしてないかい?」
しなやかな手を取って口づけた。
君の右手から、芳醇なアールグレイの香りが鼻孔をくすぐる。
手をベトベトにしている紅茶の雫を、丹念に舌と唇で吸い取ってやる。
おや?
震えたね。体温も高い。感じてしまったのかな。
じゅるりと指の股に舌を這わせて上目遣いに見上げると、頬を紅潮させた君の唇が震えていた。
声、我慢してるのかい?可愛いね……
「床は私が拭いておくよ。もう遅い。君もおやすみ」
「でもっ」
カリっ
テーブルの上のクッキーをひとかじりしてキスした。
「クッキー、一緒に食べたかったんだね。紅茶は飲めなかったけど、香りは美味しく頂いたよ。
一緒にクッキー食べたから、君の願いは叶ったね。おやすみ、ピンク」
願いは叶ったろう……
私の願いも……
口移しのクッキーがやけに塩辛かったのは、
………そうか、君の涙の味だね。
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