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第2話

 時は一時間前に遡る。  いつものように、学校から帰宅した。  そして、自室の本棚に仕舞ってある自作のBL漫画を読み返そうとした。  二次創作、というものである。  周りにバレないように、隠して、描き続けていた。 ――オチの前に、読み返し、伏線を回収せねば。  そう思い、少しルンルン気分で、自室に向かうと。  父親に呼び止められた。 「恩恵(めぐみ)……。少し、こっちに来なさい」  父親の声のトーン。  それで、私は何かを察した。  私は返事をし、父親の方へ行くと。  思いっきり殴られた。  実家の居合道に加え、銃剣道、真剣道を習っていた。  だから、倒れはしなかった。 「恩恵、お前というやつは! 楪の名を汚すつもりか!」 「…………」 「お前は……、お前は、もう楪の者ではない!」 「…………」 「何か言ったら、どうだ?」  父親に言われ、私は頷き、父親を見る。 「私は、何か迷惑をかけましたか? 男の人が好きということだけで、この家に迷惑をかけましたか? 楪の名を汚すつもりなどありません」 「っ! 気持ちが悪い! お前は、病気だ! その病気が治るまで、家に帰ってくるな!」 「病気などではありません。気持ち悪いと感じるか感じないかは、自由です。しかし、病気というのは私や他の人に失礼です」 「っ!!」  巫山戯るな、と父親は怒鳴った。  父親の向こうでは、母親が「やめてください!」と父親を止める。 「お父様、やめてください! きっと、恩恵は恩恵なりに考えて、悩んで、だと思います!」 「俺に逆らうな!」  父親は、母親を殴り飛ばした。  体重が軽い母親は、壁に身体をぶつけ、倒れる。 ――ああ、私を庇うから。  母親が死んでしまうのではないか。  そう思うと、私は覚悟を決めるしかなかった。 「殴るのは、私だけにしてください。他の人を殴るのだけは、やめてください。他は、何でも良いです」  私のその言葉を待っていたかのように。  父親は、私に言った。  出て行け、と。 ¬ 「どこに行こう……」  友人はいない。  私が、男が好きだと知った瞬間に、全員離れた。  私は、気持ちが悪い存在なのだ。  存在してはいけない。  しても良いが、人の目に入ってはいけない。 「はぁ……」  荷物を持ち、何も考えず、目的地もなく歩いていた。  時計はないから、空で判断するしかないが、夜中くらいだろう。  まだ少し肌寒い季節。  学校の制服を着て、歩いていたから。  私は疲れを感じた。 「疲れた……」  少し広い道の端。  私は腰をかけ、ぼんやりと空を見る。  弟たちは元気だろうか。  母親は……?  父親のことは、気にしなかった。  元々そんなに好きではなかった。  暴力的だったから。 「眠い……」  欠伸を少しし、私は横になる。  このまま死ぬのも、悪くない。  そう思い、目を閉じた。

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