3 / 12

第3話

 目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。  病院とも違う。  勿論、家でも。 ――ここは、一体……?  そう考えていると、離れたところから「目ぇ覚めたか」と、男の声がした。  見てみると、全く知らない男がいた。 「ああ、突然すまんな。俺は川中(かわち)栄彦(はるひこ)。三本川の中に、栄光の彦星って書いて、そう読む。んで、電機会社に務める中年さ」  男――川中さんは、そう言うと私の額に触れる。 「ん。熱も下がったみたいだ」 「熱……?」 「そ。道で倒れていた君を、たまたま見かけてな。声をかけても反応なし。触れると、かなり熱かった。家に連絡しようと思ったが。君の名前が書いてあるもの全部、名字と住所は黒塗りされていて、読めなかった」 「……なるほど。ありがとうございました。迷惑だと思いますから、私はこれで」  起き上がろうとする私を、川中さんは止める。 「まだフラついているじゃないか。今出ていかれた方が迷惑だ」 「……なぜ?」 「こうして出逢ったのも、何かの縁。折角なら、良縁として、最後まで面倒を見させてくれないか?」 「…………」 「行くところがあるなら良い。だが、ないのならこの家にいなさい」 「他の家族は……?」 「……いないよ。三年前、事故でな。妻と息子を失った」 「…………」  聞いたら、まずかったのか。  川中さんは、辛そうな顔をする。  それを見て、私も少し辛くなった。 ――行くところなんて、どこにもない。 「で、では、お言葉に甘えて、しばらくお世話になります」  私がそう言うと、川中さんは嬉しそうに笑った。  こうして、私と川中さんの二人暮らしが始まった。  そして、この新生活が、後に訪れる幸せに繋がるとは、思いもよらなかった。

ともだちにシェアしよう!