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第3話
目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。
病院とも違う。
勿論、家でも。
――ここは、一体……?
そう考えていると、離れたところから「目ぇ覚めたか」と、男の声がした。
見てみると、全く知らない男がいた。
「ああ、突然すまんな。俺は川中 栄彦 。三本川の中に、栄光の彦星って書いて、そう読む。んで、電機会社に務める中年さ」
男――川中さんは、そう言うと私の額に触れる。
「ん。熱も下がったみたいだ」
「熱……?」
「そ。道で倒れていた君を、たまたま見かけてな。声をかけても反応なし。触れると、かなり熱かった。家に連絡しようと思ったが。君の名前が書いてあるもの全部、名字と住所は黒塗りされていて、読めなかった」
「……なるほど。ありがとうございました。迷惑だと思いますから、私はこれで」
起き上がろうとする私を、川中さんは止める。
「まだフラついているじゃないか。今出ていかれた方が迷惑だ」
「……なぜ?」
「こうして出逢ったのも、何かの縁。折角なら、良縁として、最後まで面倒を見させてくれないか?」
「…………」
「行くところがあるなら良い。だが、ないのならこの家にいなさい」
「他の家族は……?」
「……いないよ。三年前、事故でな。妻と息子を失った」
「…………」
聞いたら、まずかったのか。
川中さんは、辛そうな顔をする。
それを見て、私も少し辛くなった。
――行くところなんて、どこにもない。
「で、では、お言葉に甘えて、しばらくお世話になります」
私がそう言うと、川中さんは嬉しそうに笑った。
こうして、私と川中さんの二人暮らしが始まった。
そして、この新生活が、後に訪れる幸せに繋がるとは、思いもよらなかった。
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