5 / 12
第5話
泣き疲れて、眠ってしまったみたいだ。
私は、まだ寝ぼけている目を擦りながら、周りを見る。
いつも見る夢は、見なかった。
きっと、栄彦さんがいるから。
安心して、夢を見なかったんだと思う。
「起きたかい? 恩恵くん」
「……おはようございます」
「ん、おはよ。今、ご飯を作ろうと思うんだけど。好きな食べ物はあるかい?」
「っ! は、ハンバーグナポリタン!」
「! あはは、そうかそうか。ハンバーグナポリタンか」
栄彦さんは、嬉しそうに笑う。
「大人びているから、大人が好きそうなものが好きなのかと思った。けど、君はちゃんと子供だ。他の子供たちと変わらない」
栄彦さんは、優しく私の頭を撫でる。
それが、嬉しくて。
私の胸は、栄彦さんのことが好きだ、と私に言う。
私は、それが聞こえないふりをして。
栄彦さんから目をそらし、笑う。
「ハンバーグナポリタンは、どうしても譲れないんです。どうしても」
「そっか。じゃあ、恩恵くん」
栄彦さんは、私を見る。
私と目線を合わせ、優しく笑いかける。
「一緒に作ってみないか?」
「え?」
「うん。一緒に作って、一緒に食べると、ご飯は美味しくなるんだよ」
「そ、そうなの!? す、すごい……!!」
驚いて、私は思わず、そう叫ぶように言ってしまった。
そして、タメ口をきいてしまった、とハッとした。
――目上の方には敬語を使え!――
昔、一度だけ父に敬語を使わなかったら。
父親に怒られ、殴られた。
私がわかりました、と言うまで。
殴られ、蹴られ、蔵に閉じ込められた。
そのことを思い出し、私はすぐに栄彦さんに頭を下げた。
「申し訳ありません! 気をつけます! ちゃんと、敬語で話します!」
許してくれないかもしれない。
ドキドキしながら、頭を上げると。
栄彦さんは、驚いた顔をしていた。
「えっと……? 恩恵くん? 謝ること、君はしてないよ?」
栄彦さんの言葉に、私はキョトンとする。
「え……? だって、あの、目上の方に、敬語で話さないといけないんですよね……?」
「いや、それは時と場合によるよ。俺と恩恵くんはさ、殆ど家族のようなものだろ? 家族っていうのは、みんな対等なんだ。上も下もない」
「…………」
「あ、かなり気が早かったか。家族、とか言っちゃって。ごめんな」
「い、いえ、その、あの! あの、家族……って、嬉しいんです。そう言ってもらえて、私……」
そう思って良いのだろうか。
栄彦さんを、家族だ、と。
そう思って、何か罰にあたったりしないだろうか。
「私、嬉しい」
「恩恵くんに、嬉しいって思ってもらえて、俺も嬉しい」
さて、と栄彦さんは手を合わせる。
「ハンバーグナポリタン、作ろうか」
「うん!」
「よし、じゃあ、材料を買いに行こう」
栄彦さんは、私に手を差し出す。
私はその手を取り「うんっ!!」と返事をした。
ともだちにシェアしよう!