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第5話

 泣き疲れて、眠ってしまったみたいだ。  私は、まだ寝ぼけている目を擦りながら、周りを見る。  いつも見る夢は、見なかった。  きっと、栄彦さんがいるから。  安心して、夢を見なかったんだと思う。 「起きたかい? 恩恵くん」 「……おはようございます」 「ん、おはよ。今、ご飯を作ろうと思うんだけど。好きな食べ物はあるかい?」 「っ! は、ハンバーグナポリタン!」 「! あはは、そうかそうか。ハンバーグナポリタンか」  栄彦さんは、嬉しそうに笑う。 「大人びているから、大人が好きそうなものが好きなのかと思った。けど、君はちゃんと子供だ。他の子供たちと変わらない」  栄彦さんは、優しく私の頭を撫でる。  それが、嬉しくて。  私の胸は、栄彦さんのことが好きだ、と私に言う。  私は、それが聞こえないふりをして。  栄彦さんから目をそらし、笑う。 「ハンバーグナポリタンは、どうしても譲れないんです。どうしても」 「そっか。じゃあ、恩恵くん」  栄彦さんは、私を見る。  私と目線を合わせ、優しく笑いかける。 「一緒に作ってみないか?」 「え?」 「うん。一緒に作って、一緒に食べると、ご飯は美味しくなるんだよ」 「そ、そうなの!? す、すごい……!!」  驚いて、私は思わず、そう叫ぶように言ってしまった。  そして、タメ口をきいてしまった、とハッとした。 ――目上の方には敬語を使え!――  昔、一度だけ父に敬語を使わなかったら。  父親に怒られ、殴られた。  私がわかりました、と言うまで。  殴られ、蹴られ、蔵に閉じ込められた。  そのことを思い出し、私はすぐに栄彦さんに頭を下げた。 「申し訳ありません! 気をつけます! ちゃんと、敬語で話します!」  許してくれないかもしれない。  ドキドキしながら、頭を上げると。  栄彦さんは、驚いた顔をしていた。 「えっと……? 恩恵くん? 謝ること、君はしてないよ?」  栄彦さんの言葉に、私はキョトンとする。 「え……? だって、あの、目上の方に、敬語で話さないといけないんですよね……?」 「いや、それは時と場合によるよ。俺と恩恵くんはさ、殆ど家族のようなものだろ? 家族っていうのは、みんな対等なんだ。上も下もない」 「…………」 「あ、かなり気が早かったか。家族、とか言っちゃって。ごめんな」 「い、いえ、その、あの! あの、家族……って、嬉しいんです。そう言ってもらえて、私……」  そう思って良いのだろうか。  栄彦さんを、家族だ、と。  そう思って、何か罰にあたったりしないだろうか。 「私、嬉しい」 「恩恵くんに、嬉しいって思ってもらえて、俺も嬉しい」  さて、と栄彦さんは手を合わせる。 「ハンバーグナポリタン、作ろうか」 「うん!」 「よし、じゃあ、材料を買いに行こう」  栄彦さんは、私に手を差し出す。  私はその手を取り「うんっ!!」と返事をした。  

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