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第6話

 誰かと買い物、というのは初めてだった。  いつも、近所の人が持ってきてくれたから。  だから、買い物、というのが憧れだった。  という話を、栄彦さんに話すと。  栄彦さんは頷き、私に「じゃあさ」と言う。 「これから、もっともっと買い物をしよう。お出かけをしよう。それなりに稼いでいるんだ、俺はね。華屋敷とかの遊園地にも行けるよ」 「華屋敷?」 「ん?」 「華屋敷って、遊園地なんですか?」  クラスメイトが話していたから、名前は知っている。  が、それが何かは知らない。 「あ、あの……?」 「あ、いや、子供はみんな知ってるもんだと思ってしまって、ごめん。よし、じゃあさ、明日行こうか」 「え? でも、あの、お仕事は……?」 「休みを取るよ。大切な子供との時間の方が大切さ」 「…………」  私は、足を止める。  栄彦さんは二歩先に進み、私が足を止めたことに気づき、止まり、私を見る。 「どうかした?」 「……怒らないんですね」 「ん?」 「足を止めるな。歩く速度は相手に合わせろ。弱音を吐くな。敬語を使え。常に優秀であれ」 「…………」 「全て、父親に言われた言葉です。それが常識だ、と。楪の者として、そうであれ、と」 「…………」 「私は、父親に言われた通りにしました。そうすれば、機嫌は良いですから。ただ、どうしても、父親に言われた通りにできないことがあったんです」 「それで家を追い出されてしまったのかい?」 「はい」 「…………」  栄彦さんは、私の元へ来て、ひょいっと私を持ち上げ、肩に乗せる。 「今はそこの家の子ではなく、俺の家の子だ。だから、それは守らなくて良い!」 「…………」 「疲れたら足を止める! 歩く速度は自分の好きな速度! 弱音は吐きたい時に吐きたいだけ吐く! 敬語は使わなくて良い! 優秀じゃなくて良い!!」  それが、と栄彦さんは言う。 「それが! 川中家の常識だ!」 「…………」 「遊びたいときは遊ぶ! 働くときは働く! 好きなように生きる! 人に迷惑をかけなければ! 自分自身が傷つかなければ! 何しても良い!!」 「っ! は、栄彦さん……!」 「今日から君は川中恩恵だ! 俺の子だ!」  行くぞ! と、栄彦さんは私を肩車したまま走り出した。

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